小塚和季インタビュー(後編)写真提供:韓国プロサッカー連盟 6月24日には川崎フロンターレの一員としてJ1の試合に出場し…

小塚和季インタビュー(後編)



写真提供:韓国プロサッカー連盟

 6月24日には川崎フロンターレの一員としてJ1の試合に出場していた小塚和季が、およそ10日後には海を渡り、わずか数日の練習をこなしただけでKリーグ1でのデビュー戦を迎えたのは、7月9日のことだ。

 満足な準備もままならないまま、最下位に沈む水原三星ブルーウィングスに加わった"助っ人外国人"は、デビュー戦となった第21節大田ハナシチズン戦からのリーグ戦5試合すべてに先発出場。しかも、87分で途中交代した大田戦を除けば、その後はすべてフル出場と、もはやチームに欠かせないボランチとなっている。

 小塚を加えた水原三星も、その間、今季初の連勝を含む2勝1敗2分けで勝ち点を伸ばし、全12クラブ中最下位だった順位は11位へ上昇(12位はKリーグ2へ自動降格。10、11位はKリーグ2上位との入れ替え戦に回る)。2部リーグへの自動降格圏を脱出したばかりか、首位を独走する蔚山現代FCから今季ホーム初勝利を手にするなど、シーズン前半戦とは見違えるような戦いを見せている(8月6日/第25節終了現在)。

 自身初となる海外移籍を決断してから、およそ1カ月。かつては2年連続でアジアクラブ王座に就いたこともある韓国屈指の名門クラブで、日本人MFが救世主となるかもしれない――。

――デビュー戦の翌週は水曜日にもリーグ戦が組まれていたこともあって、渡韓後いきなり1週間で3試合にほぼフル出場しました。起用法についてキム・ビョンス監督から事前に話があったのですか。

「監督から特に言われたことはないですね。最初の試合の前日に『90分やれるか?』って聞かれたくらい。でも、そこで『やれないです』って言う選手はいないですよね(笑)。『もちろん、やれます』って言って、そこから3連戦(をほぼフル出場)でした。

 中2日の3連戦はたぶん日本でも経験がないので、結構大変だったんですけど、そのなかで(1勝2分けと)勝ち点を拾うことができたので、チームとしても、僕としても、すごくよかったなと思います」

――その後もフル出場が続いていますが、心身両面でコンディションはどうですか。

「単に試合数だけでなく、試合のなかでのプレー機会も多くて、サッカー選手として"プレーできている"っていう実感がすごくあります。試合に出ることが、プレーヤーとして本当に大事なことなんだっていうのを、改めて感じています。

 体の疲労感も試合に出てみないとわからない部分がありましたけど、今は特にないですね」

――水原三星は若い選手も多いようですが、実際に加入して感じたチームの雰囲気はどんなものでしたか。

「水原三星にはヨム・ギフンさんっていうレジェンド的な存在の選手(40歳にして現役を続ける元韓国代表)がいて、(移籍した)初日の練習後に全員が輪になって集まった時、『もっと気合を入れなきゃダメだ。このままじゃ、本当にダメだぞ』っていう話をしてくれたんですけど、その時は正直、『本当にそのとおりだな』って思うような練習の雰囲気でした。

 なので、まずはそういう緩い部分を変えていかなきゃいけないと思って、次の日の練習からは、ハン・ホガン選手(元ブラウブリッツ秋田、横浜FC)とか、日本語を話せる選手たちと一緒になって、川崎でやっていたような強度の高い練習というか、そういう姿勢をプレーで見せようと思ってやっていました」

――チームが変わらなければいけないタイミングで、新加入の小塚選手がその力になれたわけですね。

「周りの選手たちも、それを感じ取ってくれたと思います。もっと攻撃も守備もやらなきゃいけないっていうのは、たぶんみんなが思っていたことだと思いますから。

 高い意識で練習に取り組んだことで試合ごとにどんどん成功体験を重ねられたし、その結果、みんなが前向きにプレーするようになっていって、首位のチーム(蔚山現代FC)相手でも自分たちが自信を持ってプレーできた。チームは本当に変化していっていると思うし、今はみんなが自信を持ってプレーできているのかなとは思います」

――外国人選手として初めて海外のクラブでプレーする気分は、どんなものですか。

「やらなきゃいけないっていう気持ちは本当に強いですし、すべてにおいて甘えが許されない。たぶん韓国の選手からは、自分は助っ人外国人選手というふうに見られていると思うので、僕としても緩んだプレーはできないなって思って日々やっています」

――新しいチームで自分の武器を生かすために、どんなことが必要だと感じていますか。

「自分のよさを出すために、最初は身振り手振りで『どんどん背後に走ってくれ』っていうことは伝えていました。言葉は通じなくても、そういう意図は伝わりますから。

 ただ、やっぱり守備の時の声かけだったり、どっちを切ってほしいとかっていう部分は言葉が通じない分、難しいところがありますね。ですから、そこは勉強して、少しでも韓国語を話せるように僕がしていかなきゃいけないなって思っています。そういう意味では、やっぱり言葉の壁ですかね、難しいところは」

――裏を返せば、言葉の壁以外にはそんなに難しいところはない、と。

「あんまりないですね。(日本と韓国との間に)違いがあったとしても、それが韓国のスタイルなんだって思いながらやっています」

――今季から蔚山現代でプレーする江坂任選手も、『和季は(水原三星の)チームの色に合っているんじゃないか。時間を作って落ち着かせて、特長でもあるパスを随所に出している。うまく順応しているのかなと思う』と話していました。

「正直、水原三星のチームカラーは、カウンターなのか、ボールを持つのか、どっちなんだろうなっていう感じなので、僕自身は合っているのかどうかわからないですけど......(苦笑)。

 でも、カウンターにいける選手もいるし、足元でボールを受けたり、さばいたりっていうことが上手な選手もいるので、(自分は)そういう選手たちをうまくつなげられる存在なのかなっていう感じではとらえています」

――実際に水原で試合を取材してみて、観客数に比してサポーターの声が大きいことに驚きました。ピッチではどう感じていますか。

「サポーターがすごく熱いというか、熱狂的というか......、本当に声がデカくて、最初はビックリしました。

 ホームで(今季)初めて勝った試合なんかは、たくさんのサポーターが泣いていましたし、そういうのを見ると、本当にクラブを愛しているんだなって思います。僕らはそういうサポーターの声にしっかりと応えなきゃいけないって、選手の間でも話していますし、それが今の結果につながっている。すごくいい雰囲気だと思います」

――韓国へ来て1カ月ほどですが、生活面で不便はありませんか。

「水原三星はクラブハウスに食堂と寮があって、僕はその寮に住んでいるので、基本的に食事は全部そこで済ませていますし、(同じ施設内のグラウンドで)練習をして寝るっていう生活です。あまり外に出ることもないし、僕はもともと韓国の食事が好きだったので、特に困ることはないですね」

――寮生活なんですね。

「2人1部屋を与えられるんですけど、最初に日本から来た時は、疲れたからちょっと休もうかなと思ったら、僕の部屋にもう選手がいて。『あれっ、ひとりじゃないんだ』って、正直、戸惑いました(笑)。

 でも、それはそれで受け入れて、翻訳アプリを使ったり、英語で話したりしてコミュニケーションをとっていたんですけど、チームの人が気を遣ってくれて、その選手が他の部屋に引っ越すことになったんです。僕が追いやっちゃったみたいになっているので、(同部屋だったのは)若い選手なんですけど、今度ご飯に連れて行こうと思っています(笑)」

――ずっと寮に住むのですか。

「これから家族も韓国に来るので、そのための家も決めて、車も用意してもらえたので、そこから本当の韓国生活が始まるのかなという感じです。

 そうなると買い物に行ったり、車で移動したりすることも増えてくると思うので、まだ(韓国語の)文字も読めないですし、これから不便なところがどんどん出てくるんじゃないかなとは覚悟しています」

――韓国語の習得具合は?

「今、勉強しています。最初に見た時は本当に何が何だかわからなかったんですけど、今はだいたい(文字の仕組みが)わかってきました。まずは文字に慣れて読めるようにしたいですし、読めるようになったら単語の意味も頭に入ってきやすいのかなって思っているので、うまく時間を有効に使って覚えていきたいですね」

――こうして話している様子を見ていると、新生活は楽しそうですね。

「そうですね(笑)。結構いろんな選手がご飯に連れていってくれたり、みんながコミュニケーションをとってくれるので、そういうところでも助かっています」

――小塚選手の移籍加入以降、水原三星は5試合を戦って2勝1敗2分け。自身も7月のチーム月間MVPに選ばれました。

「手応えは感じていますけど、まだ何も得ていませんし、本当に大事なのはここからの試合。順位は上がりましたけど、このまま勝ち続けないと意味がないと思っています。

 チームには浮かれている選手はいないし、練習もみんなが本当に一生懸命やっています。なんとかプレーオフに行かなくてもいい順位(9位以上)で終われるようにしていきたいし、それがチームとしての目標設定になっています」

――来季以降も含めて、小塚選手自身の今後のビジョンを聞かせてください。

「やっぱり水原三星で優勝したいっていうのは(来季以降の)新たな目標になっていますし、そういう気持ちを持っています。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)で、また日本のチームと戦えたらいいなとも思っているので。

 そのためにも、まずはこのクラブの復活というか、また強い水原三星にしていきたいなと思っています」

――ACLで川崎と対戦できたら最高ですね。

「そうなったらいいですね。楽しみにしています」

(おわり)

小塚和季(こづか・かずき)
1994年8月2日生まれ。新潟県出身。パスセンスあふれるミッドフィルダー。帝京長岡高卒業後、在学中に特別指定選手として登録されたアルビレックス新潟入り。その後、2年目に期限付き移籍したレノファ山口をはじめ、ヴァンフォーレ甲府、大分トリニータ、川崎フロンターレでプレー。そして2023年7月、韓国の水原三星ブルーウィングスに完全移籍した。