米女子ツアーの今季メジャー最終戦、AIG全英女子オープン(8月10日~13日/イングランド)がまもなく開幕する。注目は、4年前の2019年大会で頂点に立った渋野日向子。ここ最近は、日米のツアーを合わせて5大会連続で予選落ちするなど不振に陥っ…

米女子ツアーの今季メジャー最終戦、AIG全英女子オープン(8月10日~13日/イングランド)がまもなく開幕する。注目は、4年前の2019年大会で頂点に立った渋野日向子。ここ最近は、日米のツアーを合わせて5大会連続で予選落ちするなど不振に陥っていたが、日本中を熱狂させた"思い出の地"での飛躍はあるのか。復調の兆しを見せたスコットランド女子オープン(8月3日~6日/スコットランド)での戦いぶりを踏まえつつ、彼女の現状を探る――。



スコットランド女子オープンで復調気配を見せた渋野日向子

「ちょっとずつ、上り調子になっている感覚はある。でも、欲深くならずに1ミリずつでいい。マジで、1ミリでいい......」

 スコットランド女子オープンの最終日をイーブンパーの「72」でフィニッシュ。最終的に通算7アンダー、16位タイで終えた渋野日向子は、自身の前進ぶりをそう口にした。

 初日、2日目と単独首位に立っていたことを考えれば、結果として優勝争いから脱落することになった決勝ラウンド。それついては、「ただただ、もったいない。昨日(3日目の「77」のラウンド)がもったいない」と悔しさを滲ませた。

 とはいえ、少し前までどん底の状態にあった渋野。日米のツアーを合わせて5大会続けて予選落ちを喫していたことを思えば、16位タイという結果は、今取り組んでいるスイング改造の成果が現れた、という意味で大きな前進だ。

 今シーズンの春先、渋野は激しい左手痛に襲われた。試合中、深いラフから打ったショットが原因か、あるいはそれで悪化したのか。当時のことについて、渋野は「あんまりケガをしないタイプの人間だったんで、あそこまで痛くなるっていう経験はほぼ初めてだった」と振り返る。

 その後、練習量を大きく制限する日々が続いたが、治療を受けながらツアー転戦は続行。その間、左手への負担を軽減する対策もいろいろと試した。6月に一時帰国した際には父親のすすめで、野球のバットを握るような"ベースボールグリップ"にも挑戦した。

 左手親指への負担を抑える同グリップは、アメリカに戻ってからも継続。そのままKPMG全米女子プロ選手権(6月22日~25日/ニュージャージー州)に挑んだが、予選通過はならなかった。

 また、その直後の名門ペブルビーチ・ゴルフリンクスで開催された全米女子オープン(7月6日~9日/カリフォルニア州)では、従来の"インターロッキンググリップ"に戻して戦ったが、再び予選落ち。続くDanaオープン(7月13日~16日/オハイオ州)でも初日から出遅れて、日本ツアーの2戦を含めて5大会連続の予選落ちとなった。

 試行錯誤が続くなか、渋野が行きついたところは、彼女曰く「痛みを利用すること」。要するに、ケガをした要因が「今まで、(クラブを)力んで、力んで握りすぎていたから痛くなった」という悪循環に気づいて、「(グリップに頼ることなく)もっと体を使ったスイングに取り組むこと」を目指すようになったという。

 それによって、これまでのトップの位置を高くする、といったことも意識しなくなった。そして、この試みはすぐに結果にも現れた。

 今季メジャー4戦目のエビアン選手権(7月27日~30日/フランス)で6大会ぶりの予選通過。最終順位は59位タイだったが、何より痛みなくプレーできたことは収穫だった。

 そうして迎えたスコットランド女子オープン。渋野は圧巻のプレーを披露した。風が弱かったとはいえ、初日は8バーディー、ノーボギーの「64」という好スコアをマークした。

 とにかくショットが絶好調だった。ボールがことごとくピンに絡んで、「お先に」で決めたバーディーの連続だった。単独首位に立って、「ちょっと、びっくりした」と渋野自身も驚きを口にした。

 快進撃は2日目も続いた。5バーディー、1ボギーの「68」。2位に2打差をつけて、首位の座をキープした。

 ただ、決勝ラウンドに入ると、パッティングに微妙な変化が見られた。「打ちきれないところが多々あった」と渋野。3日目は終盤に大きくスコアを落として、トップと6打差の6位タイに後退した。

 巻き返しを狙った最終日も、序盤で3連続ボギー。その後、イーグルやバーディーを奪って粘りを見せたが、スコアを伸ばせずに16位タイでフィニッシュした。

「突然きたチャンスを、自分でボロボロにしたのはショックだった......」

 ラウンド後、渋野はそう振り返った。

「突然きた」ということから、彼女自身、自らの現状も踏まえて"優勝争い"への準備はまだ整っていなかったのだろう。実際、優勝に対して「欲はあったと思うけど、めちゃくちゃあったかというと、そうでもない」とコメント。重圧もそれほどなかったという。

 状態が急速によくなっていることは間違いないが、結局のところ、目の前の一つひとつのプレーに対して"冷静に"対処することはできていなかったように見える。あくまでもそれが現状ゆえ、渋野は「1ミリずつでいい」と、自らの進歩を改めて願うのだろう。

 さて、今週はいよいよ今季のメジャー最終戦、AIG全英女子オープンが開幕する。

 舞台はロンドン郊外、サリー州のウォルトンヒースGC。2019年に渋野が優勝したウォーバーンGCと同じ林間コースだ。

「少し休んで、いい状態で迎えたい」と語った渋野。技術も、心も、少しずつよくなっていることは明らか。今度は"上位争い"の準備も整っていることを鑑みれば、大いなる飛躍が期待できるかもしれない。