新緑の美しい石川県加賀市の加賀温泉郷で、自転車レースイベント「温泉ライダー in加賀温泉郷」が、4年ぶりに開催された。加賀温泉郷で開催された日本一参加しやすいヒルクライムレース「立杉ヒルクライム」1日目には「立杉ヒルクライム」とキッズの自転…

新緑の美しい石川県加賀市の加賀温泉郷で、自転車レースイベント「温泉ライダー in加賀温泉郷」が、4年ぶりに開催された。



加賀温泉郷で開催された日本一参加しやすいヒルクライムレース「立杉ヒルクライム」

1日目には「立杉ヒルクライム」とキッズの自転車スクール、2日目には「柴山ジュニアタイムトライアル」と「柴山4時間エンデューロ」が開催される複合イベントだが、「競技大会」というよりは、「グルメと環境、さらには温泉を楽しんでしまおう」というワクワク感に満ちたイベントと言った方がイメージに近いだろう。
優勝者には自転車レース定番のチャンピオン「ジャージ」ではなく「ハンテン」が贈られるなど、随所に遊びゴコロが散りばめられており、参加者には「温泉手形」が発行され、2日間、加賀温泉の4種類のお湯を堪能でき、滞在を楽しむことができる。



キッズレースも同時開催された

「立杉ヒルクライム」は「日本でもっとも参加しやすいヒルクライムレース」と言ってもよいのではないだろうか。使用するコースの獲得標高は367m、計測距離は9.6㎞とコンパクトで、平均の勾配も5.8%と、比較的緩い。このコースレコードは、18分55秒であり、もちろん上位者間は熾烈(しれつ)な戦いになるのだが、可能なペースで走って、達成感を味わってみる、と考えたら、非常に挑戦しやすい「ヒルクライムレース」なのだ。峠にゴールした後は、風景を楽しみながら、31.1kmのサイクリング区間を走り、集合場所に戻ってくる周回コースの形に設計されている。



周回コース形の走行コース。レース区間を終えたら、ファンライドが待っている

5月27日に開催された4年ぶりの「立杉ヒルクライム」は快晴に恵まれた。晴天の下、参加者がスタート会場になる「山中温泉総湯菊の湯」前に集まってくる。山中温泉は、1300年の歴史を誇る温泉地で、この総湯がその発展を支えてきたそうだ。風情ある建物の中では、山中温泉の芸妓さんたちによる、山中節を中心とした唄と舞の披露も行われている。



参加者が「山中温泉総湯菊の湯」に集まってきた



風情あるからくり時計



地元の皆さんからコーヒーのふるまいも

参加者は、計測チップやゼッケンを受け取り、出走準備を進める。毎時0分に動き出す「からくり時計」も風情があり、会場には、なんとも言えない情緒が漂っていた。この雰囲気のせいか、他のヒルクライムレースにあるような緊張感や参加者同士の対抗感なども薄く、我先に整列しようという参加者もいない。時間が来ると年齢別のエントリーグループごとに指定された位置に集まり、走行上の注意を聞いたあとは、隊列を作り、パレードに繰り出した。



開会式が近づき、参加者がスタンバイを始める



リラックスした表情でパレードに出発する

4kmのパレード区間を経て、気持ちの良い林の間の計測スタート地点に集合した。グループごとに固まって、鳥のさえずりや木々の葉が触れ合う音など、自然の音を聴きながら、スタートの時を待つ。



スタートまであとわずか

エントリーは、小学校5年生から可能であり、中学生までのエントリーは3000円と極めてリーズナブル。もっとも、参加者の多い男女のロードバイクカテゴリーに加え、車種自由、さらに体重80g以上という参加条件のついた「ヘビー級」もあるところが、ユニークだ。
20代のロードグループから順次スタート。トラブルもなく、順調なスタートとなった。



グループごとのスタート

参加者は、涼やかな景観が広がるヒルクライムコースへ飛び出して行く。前半は特に勾配が緩く、タイムを縮めるためには、グループの中での協調とペースアップが必須となる。久しぶりの開催ではあったが、気候条件もよく、快調にペダルを回して行った。



木々の間を抜け、ヒルクライムに挑む



カメラを向けるとVサインの余裕も

オープン参加のゲストを除き、この日のベストタイムは板子佑士選手の19分50秒。コースレコードをやぶることはできなかったが、短時間決戦だ。ちなみにヘビー級の優勝タイムも山内譲太選手の22分50秒と速かった。ゆったりとそれぞれのペースで走った参加者を含め、50分以内には全員がゴールしており、1時間以内のチャレンジである点も、挑戦しやすいと言えるだろう。

※ゴール後は、もう一つのお楽しみへ→

参加者は、ゴール後にふるまい会場に移動し、加賀の代表銘菓「娘娘万頭」やバナナなどを受け取り、しばし休憩。話に花を咲かせていた。


計測区間終了後は、ふるまい会場へ移動



ふるまいを受けて笑顔

ここからは、新緑の絶景の中を気持ちよくサイクリング。通常のヒルクライムでは「下山」として、来た道を戻る消化区間のような位置づけであるが、この大会では、景観にすぐれた別の道が割り当てられており、ライドとして楽しむことができる。発想の転換だ。レースを終えた解放感もあり、皆が笑顔で走行を楽しんでいた。



下山後、ふるまいや参加賞を受け取る



参加賞はエコバッグ。ヒルクライム、エンデューロでロゴの色が異なる。コンプリートしたくなる!?

「山中温泉総湯菊の湯」に戻った参加者は、また新たなふるまいを受ける。「栢野(かやの)大杉茶屋」の「草だんご」。地元の山で採れたよもぎを使い、加賀産の米粉で作られているそうだが、驚くほどやわらかい。ほおばると、よもぎの香りがふわりと口の中に強く漂う。聞けば、これも「作り立て」の醍醐味なのだそうだ。



「栢野大杉茶屋」の「草だんご」。取り寄せやお土産では味わえない作りたてのフレッシュな香りとやわらかさが楽しめる



山中温泉名物「いづみや」のコロッケ

もう一つのふるまいは、山中温泉の「いづみや」のコロッケ。サクサクした衣の中には、ほくほくのイモがつまっており、優しい甘さで、ぺろっと食べられてしまう。皆が一つずつ受け取り、まだ温かいコロッケを笑顔でほおばっていた。
レースイベントでは、しばらく回避されていた表彰式も完全復活し、開催された。各カテゴリーの優勝者に贈られるのは、ツール・ド・フランスの山岳賞ジャージにちなんだ、白地に赤ドットのハンテンである「ハンテン・ブラン・ア・ポワ・ルージュ」だ。青空に、赤ドットのハンテンがよく映えていた。



各カテゴリー優勝者が「ハンテン・ブラン・ア・ポワ・ルージュ」姿で記念撮影

終了後は解散となるが、希望者は自転車を預け、そのまま山中温泉を楽しむことも可能。付近は「アイスストリート」と名付けられ、菓子店や喫茶店に限らず、料亭や肉屋、酒屋に蒲鉾店など、ジャンルの多様な38店舗が、店舗の特性を生かしたアイスを販売しており、アイスめぐりを楽しむこともできる。



ゴール後はサイクルクロークに荷物を預け、お湯を楽しむことも可能。先着60名にタオル、アメニティの無料提供も



アイスストリートでアイスめぐりも楽しい。画像は温泉玉子ソフトクリーム

4年ぶりの「立杉ヒルクライム」は、過去の開催より、なおいっそう和やかな空気に包まれていたように思う。のどやかではあるが、タイムを競うレースならではのピリッとした要素と、サイクリングにはない独特の達成感や「挑戦」の感覚がありつつも、実際は乗っている時間の大半がファンライドであり、グルメライドレベルのふるまいも味わえる。
体重を削ぎ落としてタイムを狙うヒルクライマーが集うヒルクライムレースとは、一味も二味も違うヒルクライムレースであるが、一味も二味も楽しめるオンリーワンのイベントなのだ。

翌日は、大会のメインレースとも言えるエンデューロレースが開催される。Wエントリーをしている参加者も、翌日に向け加賀温泉入りした参加者も、それぞれのスタイルで、この土地を満喫しながら、レースに備えたことだろう。
レポートは、翌日のエンデューロに続く!

画像提供:ⓒツール・ド・ニッポン、編集部