9月に開幕するラグビーワールドカップに向けて、最終メンバー選びの指針となる国内5連戦「リポビタンDチャレンジカップ2023」が始まった。 7月8日に行なわれた第1戦目の舞台は東京・秩父宮ラグビー場。日本は代表に準ずるチーム「ジャパンXV(…

 9月に開幕するラグビーワールドカップに向けて、最終メンバー選びの指針となる国内5連戦「リポビタンDチャレンジカップ2023」が始まった。

 7月8日に行なわれた第1戦目の舞台は東京・秩父宮ラグビー場。日本は代表に準ずるチーム「ジャパンXV(フィフティーン)」として、オールブラックス経験者5人を擁する「オールブラックスXV」を迎え撃った。



ドレッドヘアで強烈なインパクトの福井翔大

【ジャッカル連発でチームMVP】

 スタンドは2万2283人のファンで埋め尽くされてチケットは完売。日本代表は6月からの合宿で鍛えたタックルで観客を沸かせ、前半は6-11と善戦した。だが、後半はアタックでミスやペナルティが重なって逆襲を食らい、結果的には6-38で完敗を喫した。

 ただ、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)はこの試合をワールドカップ最終スコッド33名に絞るための試金石という意味合いも持って臨んでいた。「本番までまだ時間があるので、若い選手にチャンスを与えた」と、ノンキャップの選手5人を起用している。

 彼らにとって、オールブラックスXV戦は絶好のアピールの場だ。なかでも際立っていたのは、高いパフォーマンスとドレッドヘアで観客の目を引いた23歳のFL(フランカー)福井翔大(埼玉ワイルドナイツ)だった。

 日本代表として初の試合となった福井は7番を背負って80分間フル出場。持ち前の運動量を武器にボールキャリーを繰り返し、前後半ともジャッカルで相手の反則を誘った。そのプレーが認められ、チーム内MVP「ソード賞」にも選ばれている。

「(福井)翔大は7番として常にボールを持って仕事をしていた。今日のプレーはチームにとって非常に明るい材料。伸び伸びとプレーしていたし、タックルやターンオーバーもして非常にいいパフォーマンスだった。若く有望な選手だ」

 ジョセフHCは福井のプレーに満足し、高く評価した。

【高校卒業後すぐにプロの道へ】

 試合後、福井は初めてのジャパンの経験をこう振り返る。

「むちゃくちゃ緊張していましたが、バックロー(FLとNo.8の総称)はポジション争いが激しく、背水の陣でやるしかなかった。1対1で黒いジャージーの人(オールブラックスXV)に絶対に負けられないと思っていました。(満員の観衆のなかでプレーして)本当に幸せ。やっとここまで来られたな......ラグビーをやってきてよかった瞬間でした」

 この試合で共同キャプテンを務めたFLリーチ マイケル(ブレイブルーパス東京)と、福井は初めてチームメイトとして出場した。「堀江翔太さん、坂手淳史さんも偉大なリーダーですが、また違ったリーダー。(リーチさんは)言葉は多くないですが、ついていきたいリーダーです。リーチさんのような一貫性のあるプレーがしたい」と話す。

 ただ、自己採点は「50点」とやや辛め。「負けたら意味がない。勝てるビジョンがあったし、(6月の浦安合宿で)すごくきつい練習を乗り越えてきたので、純粋に悔しい。ミスも何回かしてしまった。相手のフィジカルも高くてテクニックもうまくてやられた」と唇を噛んだ。

 福井の父親(由樹)はコカ・コーラの元選手。その影響で5歳からラグビー競技を始めた。その当時から、福井にとってワールドカップは「憧れの大会」だった。

 福岡県の強豪・東福岡に進学後、福井はすぐに頭角を現わす。高校2年時には「高校3冠」に大きく貢献し、高校3年時はキャプテンとして「花園」全国高校ラグビー大会でベスト4に入った。

 世代トップクラスの選手となった福井は、高校時代にU17、高校日本代表、さらにひとつ上のU20日本代表にも選出される。海外のチームと対戦した影響もあり、福井は「早く世界のトップで戦いたい」と大学に進学せずに、高校卒業後にプロ選手としてワイルドナイツに入団した。

 最初の2年間は、思うように試合に出られなかった。だが、国際経験の豊富な選手が多いワイルドナイツで研鑽を積んだ結果、3年目からレギュラー陣に絡むことができるようになった。2021年秋には初めて日本代表合宿に呼ばれ、欧州ツアーも経験できた。

【リーチや姫野に戦いを挑む】

 ただそれでも、福井はテストマッチに出場することが叶わなかった。

 ケガの影響で日本代表に選ばれない時期には、年下のLO(ロック)ワーナー・ディアンズ(ブレイブルーパス東京)、SO(スタンドオフ)李承信(神戸スティーラーズ)がキャップを重ねていった。彼らの姿を見て、福井は「悔しかったです!」と正直に吐露する。

 その悔しさを糧に、福井は自身のパフォーマンスに磨きをかけ続けた。その日々があったからこそ、今季リーグワン全18試合(うち12試合は先発)出場を果たし、ワールドカップイヤーに再び代表に返り咲くことができた。

 高校を卒業してすぐにトップリーグ(現リーグワン)に入り、初の日本代表戦まで4年かかった。しかし、その過程に一切の後悔はないと言う。

「大学がどうこうと言うつもりはないですし、(大学卒業してすぐに活躍する)長田智希(埼玉ワイルドナイツ/CTB)みたいな例もあるのでそれも正解だと思いますが、僕自身はこの道のりがなければここまで来られていないと思います。後悔はしていない。自分の道が間違っていないことを証明したい」

 国内での強化試合は、残り4戦──。間違いなく、次のチャンスもあるはずだ。

 リーチや姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ/No.8)だけでなく、現在合宿に参加していない代表候補選手のテビタ・タタフ(東京サンゴリアス/No.8)やピーター・ラブスカフニ(スピアーズ船橋・東京ベイ/FL)など、バックローには実績のある選手が多い。だが、そのメンバーに物怖じすることなく、23歳の福井は高いパフォーマンスを披露して名乗りを上げた。