現在、夢の甲子園を目指し地方大会で熱戦が展開されている。7月8日に開幕を迎えた香川大会では、この春急成長した多度津(たどつ)の髙橋快秀(3年)が注目のひとりだ。 なぜ髙橋はスカウト陣からも熱視線を浴びるまで成長を遂げられたのか? 監督と二…

 現在、夢の甲子園を目指し地方大会で熱戦が展開されている。7月8日に開幕を迎えた香川大会では、この春急成長した多度津(たどつ)の髙橋快秀(3年)が注目のひとりだ。

 なぜ髙橋はスカウト陣からも熱視線を浴びるまで成長を遂げられたのか? 監督と二人三脚で築き上げた、最速146キロ右腕の成長記録を記していきたい。


急成長を遂げた香川・多度津の高橋快秀(3年)

●スカウトたちの視線の先に背番号

「11」

 4月1日、丸亀市内で行なわれた春の県大会・準々決勝、多度津対志度。ネット裏は多くのスカウトが訪れていた。

 その数、実に6球団。その熱視線とスピードガンの先にあったのは......この大会で突如最速146キロを出した髙橋であった。

 178センチ72キロのやや細身ながら、長い手足をフルに使って放つストレートは、志度戦でも球場表示で144キロをマーク。

 疲労が残っていたという中盤以降、相手打線にとらえられ4失点を喫したが、130キロ前後のツーシームやスライダー、カーブを駆使し8回完投。球数はわずか87球だった。特に6回1死までは無失点・無四死球という数字を残した。

「サイズは大きくないけど、手足も長いし背中を立てて投げられている。体重移動もスムーズだし面白いね」とスカウトからも一定の評価を得ている。

 春の県大会全体でも全3試合に先発し22回を投げて20奪三振で防御率1.23。ところが、髙橋の背中につけられた番号は「1」ではなく「11」。エース扱いではなかった。

 過去の記録を見てみた。髙橋は1年夏に背番号「18」で初戦の藤井学園寒川戦で2番手登板も0回3分の2で4失点(自責点0)。1年秋は背番号「11」、2年春は背番号「18」で登板機会はなし。香川大会初戦敗退に終わった2年夏に再び「18」を背負い、2番手で2回を無失点に抑える。

 ようやく「1」を手にした2年秋は守備の乱れもあって延長10回5失点(自責点1)で香川中央に初戦敗退。公式戦で実績は残せておらず、前川正勝監督は「春先の練習試合でも決して状態はよくなかった」と話す。それなら3年春の背番号「11」の理由も納得である。

 ただその舞台裏で、髙橋と前川監督はジャンプアップの準備を着々と整えていた。

●「冗談抜きで150キロを目指そう」

 丸亀南中の軟式野球部時代から速球派右腕として県内では有名だった髙橋。高校進学に際しても強豪の高松商など多くの選択肢があったが、あえて前川監督が指揮する多度津への進学を決意する。

「監督は練習見学に行っても熱い方だったし、僕に合っていると思いました」と髙橋は振り返る。

 2021年4月、多度津に入学。髙橋の能力を有望視した前川監督がまず取り組んだのが「絶対にケガをさせない」プログラムづくりだった。

「快秀は中学時代にはコントロールが微妙だったし、右肘に少し痛みを抱えていたので、『冗談抜きで150キロを目指そう』と伝えたうえで、肘に負担をかけない投げ方を教えました」と前川監督は話す。



高橋へ常に寄り添い指導してきた前川正勝監督

 そのプログラムは多岐に渡った。フォームの土台をつくるための肩回りや股関節の柔軟性を高めるトレーニング、制球力を高めるため「8割の力でラインに乗せる」「4球で1アウトをとる」という投球スタイルの意識づけ......など。

「上のステージで活躍するために自分で組み立てる、自分で追い込む気持ちの部分にもアプローチしました」と前川監督は語る。

 1、2年時の起用法についても、「内気だけど真面目にコツコツ取り組む」という髙橋の性格を見越したものだった。結果、130キロちょっとだった球速は昨秋には140キロ近くまでアップし、モチベーションアップしたまま、冬に突入した。

「スクワットでは入学時の70キロから140キロ、デッドリフトも60キロから140キロを上げられるようになりました」と髙橋は胸を張る。

 そして冬を越してブレイクの時が訪れた。練習試合で140キロ超えを記録すると、春の県大会3回戦では一気に146キロまで伸びた。

「下半身の筋力がアップしたことで8割の意識で球速を上げられるようになりました。正直、146キロも出そうという意識ではなかった。いつもどおり投げたら出た感じです。監督から教わったことを継続したことで、今の自分があると思います」

 髙橋にとって大収穫の春だった。

●プレッシャーを超えて「真のエース」へ

 それから約3カ月。「もうちょっと頑張ったら行ける」との手応えを持って、髙橋はプロ志望を心に定めた。だが最後の夏を前に、髙橋は新たな壁にぶつかっていた。

「練習や練習試合で多く球団の方に来ていただき、今までにない環境で緊張もするなかでいいピッチングを見せなくてはいけない」とプレッシャーを感じていたのだ。周囲の変化に「いつもどおり」がなかなかできずにいる。

 実際、6月17日に生光学園(徳島)との間で行なわれた練習試合でも相手の川勝空人が2年生世代最速となる150キロをマークする一方で自身は141キロにとどまり、制球力も定まらず、スカウト陣が首をかしげるシーンが目についた。

 試合後には生光学園・川勝のストレートについて打者目線から「スピンの利いたボールで転がしにいこうとしてもできなかった」と苦笑いを浮かべた髙橋。ただ、最後にはもう一度前を向いて夏の大会へこう決意を述べた。

「チームメイトも『夏までに万全にしてくれたらいい』と言ってくれるので、今まで一番いいピッチングをして1勝でも多く勝ちたいです」

 多度津の初戦は7月9日の坂出工戦。髙橋は最後の夏にエースナンバー「1」を背負うことが決まった。

「快秀は野球が本当に好きなので、どこにいこうが長く野球をやってほしいし、野球に関わってほしい」と話す前川監督。

 髙橋は多度津に初の甲子園をもたらすため、そして前田大輔(元オリックス)、鈴木義広(元中日)に続く、学校3人目のプロ入りへ向けて戦いに挑む。