スポーツにおいては勝負を争う競技スポーツの他にも、仲間と楽しむスポーツがある。地域におけるコミュニティ形成や健康促進を目的として、楽しめる場を利用したいというニーズも存在する。実際にそういった場を提供しているのが千葉県市川市にある総合型スポ…
スポーツにおいては勝負を争う競技スポーツの他にも、仲間と楽しむスポーツがある。地域におけるコミュニティ形成や健康促進を目的として、楽しめる場を利用したいというニーズも存在する。
実際にそういった場を提供しているのが千葉県市川市にある総合型スポーツクラブ、「市川スポーツガーデン国府台(以下、ISG国府台)」。
ISG国府台(こうのだい)は、2006年4月に市川市で発足した総合型スポーツクラブである。
子どもから高齢者、また種目やレベルの垣根を超えて参加できるスポーツクラブとして、20年近くにわたり市川市に根ざしている。
今回はクラブマネージャーの小幡晶子さんにクラブの歴史や継続してきた想いを伺った。
(協力:ISG国府台・NO EXCUSE 、写真 / 文:白石怜平)
会員数700人を超える総合型スポーツクラブ
ISG国府台では、会員向けに10種目を楽しむことができる。バスケットボールやテニス、フットサルといった球技から、太極拳・ノルディックウォークなど多岐にわたる。
会員数は713人(2022年9月現在)で、有志のボランティアも70名以上在籍し日々運営を行っている。
それぞれの種目で対象が設定されており、幼児から参加可能で親子で一緒に行うものや大人のみで参加するものなど豊富に揃えられている。
同時にスクールも展開しており、小学3年生から中学3年生を対象にしたバスケットボール教室や幼児向けのかけっこ教室、その他チアなど11種目が用意されている。
非会員向けには、行きたいときに事前予約・会員登録なしで参加ができる1回参加型クラス「Plus1」という形で用意し、ノルディックウォークなど4種目が体験できる。
その他、展開する種目を一日で全て体験できる年1回の「スーパーコラボ」や、名門チーム「NO EXCUSE」による「車いすバスケットボールフェスタ」といった、市民に向けたイベントも企画・運営している。
クラブマネージャーとして奔走し続けた日々
ISG国府台のクラブマネージャーを務めるのが小幡晶子さん。立ち上げ時から地道に活動を続け、スポーツを楽しめる場を創り上げてきた。
「我々は総合型地域スポーツクラブの1つとして、地域コミュニティとしての居場所そして仲間づくりを一番に掲げている団体です」
ISG国府台誕生のきっかけは18年前(05年)にさかのぼる。国が「総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業」を掲げ、市川市も事業に沿って同クラブの立ち上げに向けて動き出した。
準備委員会が同年に設置され、1年のプレオープン期間を経て06年4月1日に本格始動した。最初は10種目でスタートし、オープニングイベントでは、川淵三郎・現日本トップリーグ連携機構会長らが基調講演を行い門出を祝った。
小幡さんは05年の準備委員会時からアサインすることになった。当時は大阪から千葉へと引越したタイミングだった。学生時代にバスケットボール部だったのもあり、市が開催したバスケクリニックに体験で申し込んだことが最初のきっかけだという。
大阪では高校教師でバスケットボール部の顧問だったことや、YMCAで地域の大会や指導者研修に参加していたこともあり、協力を依頼され加わることとなった。
その後小幡さんは団体の発展のために各所に奔走した。プログラムの内容や価格の見直しで値上げをしなければならなかった際には、猛反発も受けた時もあったという。
「多くの方に参加してもらうために1回のプログラムの時間を90分から50分にして回数を増やしました。市の補助金頼みから脱却しなければならないですし、加えて人員も足りないのでパートさんを雇うためには人件費もかかります。ただ、講師からも会員さんからも非難轟轟でしたよ(苦笑)」
それでも小幡さんは存続のために試行錯誤を続けることで、周囲の理解者を徐々に増やしていった。
コロナ禍を機に変化した趣向とは
ISG国府台が何より大切にしているのは”スポーツを誰でも長く楽しむ”こと。小幡さんも「ここが原点」と語っており、自身もその想いに共感していることが行動を続ける原動力だった。
風向きが変わっていったのは意外にも最近。20年の新型コロナウイルス禍に入って以降だったという。
自粛生活に入りリアルな交流が減ったことや、現役選手がSNSなどで「少年時代はいろいろなスポーツをやっていました」などという発信が増えてきていたことなどもあり、ニーズに変化が生まれた。
コロナ禍による規制が徐々に緩和され活動が戻った頃、拠点を置く市川市スポーツセンターでは以前とは明らかに違う光景があったという。
「コロナ禍以降は、『仲間と楽しむスポーツも大事だよね』という考えを持つ方たちや、進んで多くの種目に挑戦する会員さんが明らかに増えました。スポーツに対する認識が変わってきて、やっと我々が受け入れられてきたのではないかと思います」
地道な活動でクラブが認知されたとともに、小幡さんは地域の会員の方からある言葉をかけられていたとう。
「『本格的にやらない人同士で集まる場が少ないからありがたい』という言葉をいただく機会が増えました。『緊張しない雰囲気で楽しめるのがいいんです』ということで会員になる方も増えたので、自分たちの色を強く出せるようになりました」
すべてが”ゼロ”からのスタートを支えたものとは
設立当初は資金も人的ネットワークもない。かつ小幡さんは市川市が地元でもない、文字通りゼロからのスタート。それでもなぜ、17年以上も続けることができたのか。自らの想いに加えてある力が大きな支えになった。
「会員になってくれた方の”この場所はいいよね!”と言ってくださる力がすごく大きくて、とても助けてもらいました。何かを形にして地域で発信しようと思うと、賛同する方たちがいないと何もできないと感じたのです」
賛同してもらうために、また来たいと思ってもらうためにどうすればいいか。これは小幡さんの中で今でも自身に問い続けているという。
「実は楽しむスポーツをする場って意外と少ないのですが、来た方に面白いと感じてもらい、”また来たい”と思っていただくしか生き延びる道がなかった。それをしないと組織の存続自体ができないので、自ずとそういう方向になったのだと思います」
現在、有志ボランティアの人数は会員数約700名の中で60人以上。コロナ禍に入る前は40人ほどだった。手伝いたいと思う方たちが今も徐々に増えている。
「『また行きたい』『手伝ってみてもいいかな』と思っていただくには、”行ける時に気楽に行くだけでOKな場”であることをまず感じてもらうことでした。そこから口コミで広がり交流の場にもなっていきました」
NO EXCUSEとつくり上げる車いすバスケの発展
小幡さんが以前からの変化を感じたシーンがもう一つあった。それは車いすバスケットボールのイベントを行った際であった。
ISG国府台は車いすバスケットボールチーム「NO EXCUSE」との関係を深めている。
NO EXCUSEは東京都や千葉県に活動拠点を置いている。都の選手権大会や天皇杯など数々の大会で好成績を収め、香西宏昭選手は日本代表でも活躍しているといった強豪チームである。
現在も競技メインに活動しているが、楽しむスポーツとしても積極的に参加している。ISG国府台とは2018年から関わるようになり、以降車いすバスケットボールの定例体験会を毎月市川市スポーツセンターにて無料で開催している。
「NO EXCUSEさんも我々との関係性の中で、障がいの有無を問わず楽しいスポーツだというのを創っていきたい希望を持ってくださっています。そのおかげで観る・応援するスポーツあると同時に、サークル型として市民の方が気軽に体験に来ることができています」
昨年のイベントでは、子どもたちと選手で車いすバスケの体験会を行い、その後は同じ車いすバスケットボールチームの「千葉ホークス」とエキシビジョンマッチを行った。
会場には519人の観客が迫力あるプレーに目を輝かせた。観客はほぼ市川市民で、熱気に溢れていた。
2017年に開催した車いすバスケットのイベントでは、参加者が100人もいなかったという。昨年のイベントについて訊ねるとこう答えた。
「時代が変わるってこういうことかなと感じた日でした。地域に根付いた活動をやっている団体というのを認知いただいたとすごく感じたので、感慨深かったです」
「市民の方が”一度は行ったことある”」クラブに
メイン拠点である市川スポーツセンターでは連日賑わいを見せている。ISG国府台の展望について最後に語った。
「夢は大きく未来は長くです。市川市の方が『一度は行ったことあるよ』と語られるように続けたいと思っています。地域の連携もより深めていきたいですね」
NO EXCUSEに加えて、東京・千葉で活動しているアメリカンフットボールチーム「ブルーサンダース」もISG国府台とともにイベントを開催した実績もある。これらも踏まえてさらに続けた。
「競技選手の輩出を目指しているとは言えないですが、例えば親子でイベントに来た車いすの子が
『ISGで初めて車いすバスケと出会って競技を始めました。将来代表選手になりたい』
なんて言ってくれたら嬉しいですし、フラッグフットボールを通じてアメフト選手になってブルーサンダースでプレーするというのもいいですよね。今はスポーツチームとも組んでいるので、スポーツを通じて様々なニーズが自然に出てきたらと思っています」
市川市にはスポーツを楽しめる場所もある。地域の方みんなが誇りを持って体育館がいっぱいになる日はそう遠くないはずである。
(おわり)