アテネ、ロンドン、リオとパラリンピック3大会に出場したベテランが、久々の国際舞台で快挙を成し遂げた。射撃・エアライフル伏射混合の瀬賀亜希子が5月に韓国で行われたワールドカップで女子選手中2位となり、パラリンピック全競技の日本代表として1枠目…

アテネ、ロンドン、リオとパラリンピック3大会に出場したベテランが、久々の国際舞台で快挙を成し遂げた。射撃・エアライフル伏射混合の瀬賀亜希子が5月に韓国で行われたワールドカップで女子選手中2位となり、パラリンピック全競技の日本代表として1枠目となるパリ2024パラリンピック出場権を獲得したのだ。約5年のブランクをものともしない瀬賀の射撃を支えるものとは――。パリへ照準を合わせ始めた瀬賀に聞いた。

休んで手に入れた自由な射撃
写真は2017年度強化合宿。2018年以降、日本代表活動から一時離れた photo by X-1

途中、10.0点という低い点数を撃ってしまい、同じチームの(水田)光夏ちゃんと(金尾)克くんに『ごめん』って心の中であやまりました。でも、終わってみたら634.2点と点数もなかなかで、団体戦の銅メダルも出場枠も獲得できて。いやあ、自分でもすごいと思います。

射座に座って、的のど真ん中を撃ち抜くためにあれこれ考える時間も、考えごとをしている自分も、そして思い通りに撃てたときの爽快感も好きなんです。だから、競技のための射撃は一区切りをつけたけど、それ以後はおまけと考えて、自由で楽しい射撃をしようと思いました。

以前はルーティンがあったんです。銃をかまえて照準器をのぞいたときに、銃口の先に(的のど真ん中を示す)黒点があるように、的に対して足とお尻、肩、ひじの位置と角度がいつも通りかを確認して、銃身を見て……って。でも、きっちりルーティンをしても黒点が見えないときもあるわけです。それがいやだなと思ってしまうと、なんかうまくいかなくなる。ついには、ルーティン通りにできないと怖さを感じるようになってしまいましたし、そんな射撃に息苦しさも感じました。

慢性関節リウマチにより両股関節と両手関節などに障がいが残る瀬賀

だから、競技から離れたことをきっかけに、ルーティンにとらわれず、最終的に点数が良ければいいやって考えるようにしたんです。そうしたら、すごく楽になりました。いまは、ゴミ箱にゴミをポンっと投げたら入る、みたいな簡単で楽しい射撃を目指しています。

射撃で大切なのは、イメージです。私の場合は、銃身の中を弾がすーっと抜けていく様子を思い描きながら、じわじわと引き金を引いてパンっと引き切ると、弾がまっすぐ飛び出す、というイメージで撃っています。タイミングも大切なので、引くときに『だるまさんがころんだ』と頭の中で唱えたりもします。『ころんだ』の『だ』の後に動きをピッと止める、その瞬間に引き金を引き切るんです。タイミングが少しずれただけで、点数がまったく変わってしまうので、同じタイミングで撃ち続けることが大切なのですが、60発も撃っていると、なぜか途中でずれてくるんですよ。そういうときは、また別の引き出しを開けて撃つ。その繰り返しです。

疲れすぎると体が痛むため、競技を続けるうえでも日常生活でも休むことを大切にしているという

ずれてきたなと思ったら、すぐに別の策を繰り出すことで、大崩れを防ぎます。そのためにも、常に自分の状況を客観的に判断することも必要です。

再び世界の舞台で輝くために

的に当たるのが気持ちよくて、続けてみることにしました。本当は車いすでスピードを競うようなアクティブなスポーツが好きなのですが、私の障がいではできません。でも、射撃はほとんど動かずに済むおかげで関節が痛まないので、私にもできるんです。もしかしたら、私の状態でできる唯一のスポーツかもしれません。

パラリンピックは2004年アテネ、2012年ロンドン、2016年リオの3大会に出場したスーパー主婦だ

私にとって、あれこれ考え続けなければならない日常生活はオンで、自分だけに集中できる射撃はオフ。成長させてくれるものであり、だからこそ、譲れないものでもあります。高得点を狙うには技術とともに用具も大切になってくるので、パリに向けて、ライフルの支持スタンドやひじを置く台、椅子といった用具類を自分に合わせて調整していけたらと思っています。

text by TEAM A

photo by Hiroaki Yoda