元日本代表監督の稲葉篤紀氏は、現在日本ハムのGMを務める 毎年6月に行われる全日本大学野球選手権では、日本一を目指す選手…

元日本代表監督の稲葉篤紀氏は、現在日本ハムのGMを務める

 毎年6月に行われる全日本大学野球選手権では、日本一を目指す選手たちのほかにもう1つの“戦い”も見られる。ネット裏に集まるプロ野球のスカウトにとっては、追い続けている素材が全国の強豪相手にどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか、実力を見極める場でもあるのだ。

 青学大の優勝で幕を閉じた今年の大会でも、ネット裏には眼光鋭いスカウトが並んだ。その中には、2年前の東京五輪で、日本代表監督としてチームを金メダルに導いた稲葉篤紀氏の姿もあった。

 日本ハムのゼネラルマネジャー(GM)を務める現在、5日の東京ドームにだけ姿を見せ、札幌に戻って行った。「この試合だけ、どうしても見たかったんだよ」という視線の先で行われた1回戦では、星槎道都大の滝田一希投手、大商大の上田大河投手というドラフト候補生が、それぞれの持ち味を活かしてマウンドに立っていた。

 通算2167安打の強打者が、それほどまでして見たかったものは、何だったのだろうか。

 星槎道都大の滝田は、最速153キロを誇る左腕。北海道・寿都(すっつ)高時代は全道レベルの大会にも進出したことがなく、部員不足で他校と連合チームを組み大会出場していた時期もある。これが初めての全国大会だった。

 身長183センチの体を、いっぱいに使って投げ込む剛球は魅力十分。稲葉GMが投球を見るのは、昨冬の全日本候補合宿、さらに札幌・円山球場での春季リーグ戦に続く3度目だ。「緊張感がある中でどんな投球をするのか、楽しみにしていました。最初から飛ばしてましたね……。力みがあったのかシュート回転することが多かったけれど、いい球を投げていたと思います」と称えた。

地元北海道に現れた快腕は“勢い”が魅力…相手は侍常連の完成度

 滝田は初回、2死からの長短打でピンチを背負ったものの、そこから立ち直り無失点のイニングを重ねたのを、稲葉GMは「自分のペースにできていた」と高く評価した。5回に自らのバント処理が遅れたところから崩れ、5回5失点で降板した。

「打者・稲葉」には、投球はどう見えたのか。“邪魔になりそうな”ボールはあったのかと聞くと「チェンジアップを左打者にも、右打者にも投げられているし、直球は手元の強さがある。勢いや強さというものをすごく感じました」。まだまだ粗削りなところはあるが、スケールの大きさを何より評価している。

 一方の大商大・上田は、最速154キロを誇る右腕。コールド勝利となった7回までマウンドを守り、被安打は初回の先頭打者に許した1本だけの1失点と好投した。3年生だった昨年も「侍ジャパン」大学代表入りし、オランダ・ハーレムで行われた国際大会で登板している。

 稲葉GMは「コントロールがいいし、フォークもカットボールもいいところに決まっていた。右打者の内角にもしっかり投げ込めているし、自分の投球パターンをしっかり持っている」と完成度の高さを評価。「勢いや強さ」の滝田とは、また違った言葉で称えた。

 敗れた滝田は「まだまだ色々な部分をレベルアップしなければ」と悔しさいっぱいのコメントを残したが「固いマウンドのほうが好きなんですよね。(リーグ戦では)札幌ドームの試合もあったので、これだけ投げられたと思う」とプロでの伸びしろを感じさせるような言葉も。大学生投手は、プロの視点から見れば即戦力との期待がかかる。伸びしろか、完成度か。チームをつくっていく立場となった稲葉GMは今後、他の候補も含めどんな選択をするのだろうか。(羽鳥慶太 / Keita Hatori)