NCAAディビジョン1、ネブラスカ大学で富永啓生は2シーズン目に終えた。勝ち星をアップするなど躍進したチームを後押ししたのは富…
NCAAディビジョン1、ネブラスカ大学で富永啓生は2シーズン目に終えた。勝ち星をアップするなど躍進したチームを後押ししたのは富永の急成長があってこそだった。シーズン終了後、NBA挑戦を宣言した富永に今シーズンの振り返りをしてもらうとともに、NBA挑戦の理由、さらに今夏に開催を控えているワールドカップについて話を聞いた。
取材・文=永塚和志
シューターからスコアラーに成長。カリーも活躍に反応
日本が誇るスーパーシューター、富永啓生はネブラスカ大学へ転校してから2年目のシーズンを終えた。ビッグ10カンファレンスというNCAAで最も強豪が集まるアメリカの大学リーグで同大は前年の10勝22敗から16勝16敗へと躍進。22歳のシューティングガードはチームの中心選手として、終盤は20得点超えの試合を連発するなど成長した。
2022−23シーズン序盤、富永はベンチからの出場が大半だったが、これは彼自身の脚がつるという状況もあったため。が、1月18日のパデュー大学戦からフレッド・ホイバーグヘッドコーチは富永を先発起用し始め、彼も期待に応えるように得点を重ねた。
結果、富永は前年の平均5.7得点から同13.1点へ、3ポイントシュートの成功率も同33パーセントから40パーセントへと伸ばした。2月5日のペンシルベニア州立大学戦で30得点を挙げたのを皮切りに、5試合連続で20得点以上をマーク。最後の12試合だけで見ると平均17.4得点と本来の得点力を花開かせた。
「シーズンの序盤は、前年からチームが変わってチームメートとまだ噛み合わない部分があったんですけど、シーズンが進むにつれてどんどんチームの士気も上がって噛み合ってもきたので、うまくバスケットができました」
富永は、シーズンをそのように振り返った。
昨シーズンのエースだったブライス・マクゴーウェンズがNBA(シャーロット・ホーネッツ)へ行ったことで、富永によりボールが回ってくるようになったことも大きかった。また、チームのケミストリーが高まり仲間も彼の良さを生かそうとしてくれたことで後半はより「自分らしくバスケットができた」と感じている。
「序盤のほうはまだまだ(今シーズンの)チームに馴染めなかったところもあって自分の思うようなプレーはできなかったんですけど、最後の、2月あたりから自分のプレーをというのを出せるようになってきました」
冒頭で彼を「シューター」と形容したが、今の富永は3ポイントだけの選手ではなくなり、今シーズンは2ポイントシュートからの得点も増え、よりレベルの高い「スコアラー」となった。これは長距離シュートに優れフェイスガードされることもより多くなったところをあるため、逆手に取ってドライブインなどでリング近くからの得点を増やすことで、相手ディフェンスの的を絞りにくくさせたといったところだ。
実際、富永の全フィールドゴール試投数における3ポイントの割合は、2ポイントシュートが増えたことで前年の70パーセントから今シーズンは53.9パーセントに下がっている。また同時に、ピッタリと相手からマークされる中でもシュートに行けるよう、ディフェンスを剥がし、オフボールの動きでオープンな状況を作り出す技量も磨いてきたことも奏功した。
「(ネブラスカでの)1年目はもっと『シューター、シューター』っていう感じだったんで、なかなか切れ込んでシュートとかバックカットしてシュートとかそういうオプションが少なかったんですけど、今年はいろんなオプションからシュートを決めきれたところで自分の得点につながったかなと思います」
20得点連発の際にはNBAゴールデンステート・ウォリアーズのスーパースターで富永自身も憧れるステフィン・カリーからツイッター上で「Love it, Keisei(最高だよ、啓生)」というメッセージをもらっている。
それについて富永は「めちゃめちゃうれしいですね。びっくりしました」とほくそ笑んだ。
今夏の挑戦は選手、指揮官のNBA経験を持つホイバーグから提案
残念ながらチームは全米一決定戦のNCAAトーナメントへの出場はならなかったが、4月末にNBAドラフトへのエントリーをし、夏にはFIBAワールドカップでプレーする可能性の高い富永に、休む暇はない。
「大学ではもう1年あるんですけど、シーズン後半に自分のバスケットができて自信につながったというところで、(ホイバーグヘッド)コーチのほうから『挑戦してみるか』という感じになりました」
富永は経緯をそう説明し、NBA挑戦と日本代表活動が今年、同時にあることについては「ワールドカップに出ることもNBAで注目される」手段の1つだとして、前向きに捉えている。
テキサス州のレンジャー短大で2年、ネブラスカで2年を過ごした富永だが、コロナ禍でシーズンが中断された2019-20シーズンは選手たちの資格年数に含まれない特例処置のため、彼ももう1年大学でプレーする資格を持っている。大学へ戻る場合には5月31日(日本時間6月1日)までにアーリーエントリーを取り下げることとなる。取材の時点ではNBA球団のワークアウトに参加して自身をアピールしていくとしており、掲載の段階ではすでにいくつかのチームへ赴いていることを推察される。
日本のファンにとって、富永のNBA挑戦も楽しみだが、今夏のワールドカップ出場へも期待感が大きい。トム・ホーバスヘッドコーチ指揮下の日本代表で富永は昨夏のワールドカップ・アジア地区1次予選Window3とFIBAアジアカップ2022の計7試合に出場し、ワールドカップ予選では平均17.5得点(3ポイント成功率35パーセント)、アジアカップでは15.2得点(同41.3パーセント)と力量を示している。アジアカップの準々決勝では敗れはしたものの、オーストラリアを相手にディープスリーを含め3ポイントを8本ねじ込むなどで33得点をマークし、見るものを熱狂させた。
「本当にすごくやりやすいですし、自分のバスケットスタイルにめちゃめちゃ合っています」
速いテンポでプレーし3ポイントが重宝される日本代表のホーバスHCのゲームとの相性について、富永はそう話した。
4月末の組み合わせ抽選で日本は1次ラウンドでドイツ(世界ランク11位)、フィンランド(同24位)、オーストラリア(同3位)という強豪揃いの組へ入り、相当に苦しい戦いを覚悟せねばならない。
しかし、頼もしいことに富永の表情に悲壮感はない。むしろ声のトーンは明るい。
「ドイツとフィンランドとは僕は今までに1回も試合をしたことがないんですけど、彼らにはNBAの選手がたくさんいて、それはオーストラリアもそうなんですけど、すべてがすごくレベルの高い国だと思うので、1つでも多く勝って予選リーグを突破することが目標ですし、自分がそのレベルの相手にどこまでできるかを見るのもすごい楽しみです」
一昨年には3人制で東京オリンピックという大舞台を経験している富永は、言葉を続ける。
「そういうチームと対戦できるということがまずすごいことだと思っていますし“アンダードッグ(下馬評の低い者)”のほうが燃えるタイプなので、自分的にはそのほうがいいです」
NBA選手の多い対戦相手からどういった選手とマッチアップしたりコートで対峙するのが楽しみかと問うと、富永はドイツのデニス・シュルーダー(ロサンゼルス・レイカーズ)やオーストラリアのパティ・ミルズ(ブルックリン・ネッツ)や、勝ち進めば当たる可能性のあるスロベニアのルカ・ドンチッチ(ダラス・マーベリックス)の名前を挙げた。
「そういう今、NBAでやっている選手たちとナショナルチームの試合で対戦できるのは自分にとってすごく良い経験になりますし、本場のNBAのレベルを知ることができると思います。自分が今の状態でどれだけ通用するのかっていうところを見るのも楽しみです」(富永)
桜丘高校(愛知県)時代には、最終学年時のウインターカップで平均39.8得点を記録するなどで周囲を沸かせたが、アメリカに渡った2019-20シーズン以降、日本で自身のパフォーマンスを披露する機会がない富永にとって、ワールドカップを沖縄アリーナで母国のファンの声援を背に戦うことができることもより気合が入る理由になっている。
「アメリカに来てからは、高校のウインターカップ以来、1回も日本のファンの前でプレーしたことがないので、そこは本当に楽しみですし、日本のバスケットの盛り上げに貢献できるように頑張りたいです」
今シーズン、ネブラスカ大での飛躍を経て、彼の左腕から放たれるシュートは見る者を惹きつける魔力をさらに大きくした。NBA挑戦、そしてワールドカップ。成長の階段を上り続ける富永にとっては、大事な夏を迎える。
【動画】『B MY HERO』で富永啓生のインタビューを配信