人気と実力を兼ね備えた久米詩【「がむらしゃらに踏んで」初優勝】 5月4日に開催されたガールズケイリンの特別レース「ガールズケイリンコレクション2023平塚ステージ」で、ニュースターが誕生した。優勝トロフィーを手にしたのは、出場7選手のなかで…


人気と実力を兼ね備えた久米詩

「がむらしゃらに踏んで」初優勝】

 5月4日に開催されたガールズケイリンの特別レース「ガールズケイリンコレクション2023平塚ステージ」で、ニュースターが誕生した。優勝トロフィーを手にしたのは、出場7選手のなかで最年少23歳の久米詩。彼女は特別レースで初の栄冠に輝いた。

 このガールズケイリンコレクションは、3月、5月、8月に開催されるが、この5月の大会に出場するためには、2022年8月~10月までの平均競走得点の上位者42名になったうえで、3つのグループに分かれたレースで勝ち抜く必要がある。つまりこの大会はトップレベルの選手たちが争う決勝大会の位置づけだ。

 下馬評では、東京五輪へ出場し昨年9月に競輪へ専念することを表明した小林優香、昨年末の頂上決戦「ガールズグランプリ」を制した柳原真緒、そして今年はここまで7回の優勝を誇り本大会6回目の優勝を目指す石井寛子が優勝候補に挙がっていた。

 レースは残り1周まで予断を許さない展開だったが、3番手に位置していた久米がバックストレッチで動く。「奥井(迪)さん、(石井)寛子さん、私の順番になっていたらいいなと考えていて、そうなったら寛子さんよりも先に仕掛けたいなと思っていました」との思惑どおりの展開となり、一気に外から抜きにかかった。

 そして第3コーナーで石井、後方から抜きに来た小林と並ぶ形になったが、狭いところを抜け出して第4コーナーでは先頭に。そこから小林と柳原に猛追されるが、「詰め寄られている感じもなかったので、最後は気にせずにがむしゃらに踏みました」と冷静に状況を把握しつつ、そのままゴールラインを通過。優勝が決まった瞬間、久米は右手を大きく振り下ろして喜びを表現した。

 この初優勝について、「自信を持って戦えたので、それが勝ちにつながったと思います」と語るとともに、「今回のレースに向けて、緊張に対する向き合い方などを、イチから見つめなおして調整しました」と並々ならぬ思いでこのレースに臨んでいたことを明かした。



ゴール後にはガッツボーズを見せた

【硬式テニスから一転、競輪へ】

 久米がデビューしたのは今から4年前の2019年。競輪学校(現日本競輪選手養成所)には2018年に入学した。ただ「硬式テニスを小学2年から高校3年までやっていた」と、それまで自転車競技の経験はなかった。

 そんな彼女が競輪選手になろうと思ったきっかけは、父・康徳さんの影響だった。父は元競輪選手で、日本競輪選手養成所の教官を務めている。久米は、高校卒業後は漠然と大学への進学を考えていたが、目指すべき将来を描けていたわけではなかった。そんな時に父からの助言を受けて急遽進路を変更。競輪への道を志した。

 競輪学校へは、自転車競技未経験者を対象とした適性試験に合格して入学した。しかし「そんなに覚悟は決まっていなかったので、入ってからだいぶ苦労した」と言うように、校内のレースでは3着にもなかなか入れず、学校卒業時の成績は20名中14位。プロ選手としての船出は不安に満ちたものだった。

 しかし父や師匠をはじめとした周りからのアドバイスを吸収してメキメキ実力をつけ、デビューから約3か月後には初優勝を果たす。そして2021年にはガールズケイリンコレクションなどの特別レースに出場できる力がつき始め、今年1月には通算100勝も達成。そして今回の特別レース初優勝へとつながった。



チャーミングな笑顔を見せる久米

【ナショナルチームとの両立】

 そんな彼女を一回り大きく成長させたのは、速さと強さへの飽くなき欲求だ。自分の走りにさらに磨きをかけるために、「(昨年)8月頃に全日本(選手権)の競技大会があって、それが終わったタイミングで(ナショナルチームの方に)『一緒に練習させてもらいたいです』とお願いした」という。ナショナルチームは、スプリントやチームパシュートなどトラック競技全般を対象としていて、UCIトラックネイションズカップなどの世界大会への派遣をはじめ、五輪選手を輩出することを主な目的としている。目指しているところは、世界トップクラスの速さと強さだ。

 この無謀とも言える久米の直訴が実り、「9~10月頃からウエイト(トレーニング)もトラック(トレーニング)も一緒に練習している」。日本を代表するトップレーサーたちが集うナショナルチームでの鍛錬によって、彼女の走りはさらにレベルアップした。

「(自転車)競技と競輪の両立をやっている方もいて、やっぱり難しいんですが、私はどちらかに絞るわけではなく、強くなれればいいかなという感じでやっています。結果的に競技にも競輪にもつながると思うので、今は継続してやっていきたいと思っています」

 今回のビッグレースでの優勝は、彼女の貪欲な姿勢が実を結んだ結果と言え、ひとつの大きな勲章になったはずだが、レース後の記者会見でも気の緩みは見えなかった。

「足りないところは、走り方だったり、メンタルだったり、調整の仕方だったり、本当にやることはいっぱいあります。全部含めて底上げはしたいですね」

 この優勝で久米は賞金ランク1位となり、獲得賞金額で上位になることで出場できるガールズグランプリ(12月29日)にも一歩近づいたが、グランプリ優勝への意欲を見せつつも「1戦1戦、誠心誠意戦いたい」と目の前の勝利に全力を尽くすことを誓った。

 今後はナショナルチームのメンバー入りを果たすために、自転車競技でも結果を出すべく力を注ぐ久米。競輪との両立は決して簡単な道ではないが、チャレンジすることによって、その走りはさらに洗練されるはずだ。彼女のこの姿勢が、今後のガールズケイリンを盛り上げる一助になることは間違いないだろう。

【Profile】
久米詩(くめ・うた)
1999年9月3日生まれ、京都府出身。高校まで硬式テニスに励み、卒業後に競輪学校に入学。2019年7月にデビューし、同年10月に初優勝を飾る。2020年にはデビュー2年未満の選手で競うガールズ フレッシュクイーンで優勝。2021年に初めて特別レースのガールズケイリンコレクションに出場し、2023年5月の同大会で初優勝する。