全日本男子バレーボールチームが参加した、ワールドリーグ2017グループ2の戦いが終わった。中垣内祐一新監督が異例の途中合流となった大会だったが、全日本男子は予選ラウンドを4位で抜けてファイナル4に進出。アウェーでの試合となったオースト…

 全日本男子バレーボールチームが参加した、ワールドリーグ2017グループ2の戦いが終わった。中垣内祐一新監督が異例の途中合流となった大会だったが、全日本男子は予選ラウンドを4位で抜けてファイナル4に進出。アウェーでの試合となったオーストラリアとの準決勝をフルセットで勝ち切り、決勝ではスロベニアに完敗したものの、グループ2準優勝を手にした。



代表デビューとなったワールドリーグで活躍した大竹壱青

 昨年のワールドリーグは、オリンピック世界最終予選の敗退直後でモチベーションを上げるのが難しかったとはいえ、ホームで2勝した以外は全敗。グループ2の12チーム中11位に沈み、グループ3との入れ替え戦に回りかねない状況だった。それを考えれば、今大会の準優勝は「ガイチジャパン」の第一歩として十分すぎるほどの結果だった言えよう。

 今大会で最も際立つ働きをしたのは、6月からプロに転向し、ドイツブンデスリーガへの移籍を発表した柳田将洋だ。グループ2の中で、ベストサーバー1位、ベストスパイカーは2位(準決勝のオーストラリア戦で、スパイクで10得点したはずが帳票上では0得点と誤記されたため、本来ならベストスパイカーもトップだった)を獲得。苦手としてきたレセプション(サーブレシーブ)でも7位と、数字だけ見ても活躍の度合いが分かる。今大会では、控えに回った主将の深津英臣に代わり、コートキャプテンとしてチームを鼓舞する姿も頼もしかった。

 また、大会が始まる頃は腰の状態が万全でなく、フル出場できなかった石川祐希も、大会が進むにつれて調子を取り戻していった。特に、ファイナル4の準決勝では、審判がオーストラリア寄りのジャッジをする中、ホームタウンディシジョンの余地がないスパイクで試合を締めくくったのが印象的だった。初選抜の司令塔・藤井直伸のトスに、途中まで合わせることができず苦しんでいたが、最後は高めのトスに修正してもらうことで対応。今後の練習でさらに息を合わせ、来月の世界選手権アジア最終予選では楽に得点を決めるシーンを増やしてもらいたい。

 そして何より、大会を通しての一番の収穫は、長らく清水邦広が務めてきた全日本のオポジット(セッター対角で、攻撃専門のポジション)に、新星が現れたことだろう。身長202cm、91kgと、文字通りの”大型新人”である中央大学4年の大竹壱青(いっせい)だ。

 中大では主にミドルブロッカーとして出場していたが、昨夏、同期である石川からポジションのコンバートを提案されたことで、大竹のバレー人生が変わった。

「2メートルあっても動けて、高校時代はサイドをやったこともあるし、オポジットのほうが将来的に輝けると思って提案しました。本人もやりたかったみたいで、自分が提案した次の日には監督に掛け合っていました(笑)。転向したばかりだから、まだまだ伸びしろがいっぱいあると思うし、一緒に成長していけたらいいなと思います」(石川)

 大竹は、バルセロナ五輪代表で”日本の壁”と呼ばれた208cmのミドルブロッカー、大竹秀之氏の息子だ。姉は全日本としてワールドカップにも出場したミドル・大竹里歩。完全な「ミドルブロッカー家系」だったが、石川の提案を受けてチームの点取り屋のポジションに転向し、才能を開花させた。

 国内の大会であれば、ほとんどの試合に応援に駆けつけるという秀之氏は、大竹が全日本で国内デビューを飾った高崎大会にも姿を見せていた。大竹への勝利者インタビューでは、そんな父について毎回のように質問が飛んだが、嫌な顔ひとつせず、時に笑いを交えながら答える姿には”大物感”があった。

 秀之氏は、最終的に有明アリーナでの開催が決まった東京五輪の会場問題でも、「娘や息子がいい環境でオリンピックでプレーできるよう、お願いします」とオリンピアン関係者などに頭を下げて訴えていた。「ふたりが東京五輪を戦う全日本のメンバーに選ばれる」という父の夢は、今回の息子の活躍で着実に実現に近づいたといえる。

 今回のワールドリーグ予選ラウンド・スロバキア大会で、第2戦のポルトガル戦の途中から出場した大竹はチーム最多得点を挙げている。得点源のひとつになっているのは、高さを活かした守り(ブロック)だ。202cmの大竹と、NEXT4のひとりで204cmの山内晶大が並ぶと、日本人離れした高さの壁になる。ブロック得点以外にも、相手が嫌がってミスをしたり、相手のスパイクをワンタッチすることで反撃につなげることができた。

 そして、スパイクもかなりパワフル。高崎大会では、韓国戦で打ったスパイクが相手のブロックをはじき飛ばし、約19メートルある天井に当たるなど、パワーを随所で発揮した。大竹と同じオポジットだった中垣内監督も、このパワーに惚れ込んでいる。

「まさに”ハンマースパイク”ですよね。非常にパワーがある。選手は、ある時期にぐっと伸びることがありますが、今の大竹はそのゾーンに入っていると思う。将来的には、クレイトン・スタンリーのような選手になってほしい」

 スタンリーは、昨年に引退を発表したアメリカの名オポジット。圧倒的なパワーで北京五輪のMVPを獲得した金メダリストを引き合いに出すあたりに、期待の大きさが伺える。

 だが、大竹には課題もたくさんある。勝負どころとなるセットポイントやマッチポイントになると、急激に決定率が落ちるのだ。実際に、今大会のポルトガル戦やスロベニア戦では、大竹の被ブロックやミスで落としたセットがあった。U-23の大会などアンダーカテゴリーの試合から休みがなかったことで、疲労が溜まっていたこともあるだろうが、ファイナル4では15打数6得点と精彩を欠いた。 

 中垣内監督も「勝負どころで決めきれないというのは、(大竹がこれまでプレーしてきた)アンダーカテゴリーのスタッフからも話は聞いている。そこは経験を積んで変わっていってもらうしかない」とし、こう続けた。

「得点できているのも、決めるべくして決めたわけではないケースが多い。たまたま相手のブロックが悪かったから決まったというのは、上位国には通用しない。それは今のうちに修正しなきゃいけませんね」

“勝負強さ”に課題は残るものの、石川が「意外と動ける」と評価する点は、つなぎのよさで証明した。

 これまでのオポジットは、攻撃に意識が集中するあまり、フェイントカバーやディグ(スパイクレシーブ)でボールが上がった後のつなぎが疎かになることも多かった。しかし大竹は、得点率を落としたファイナル4でも、相手コートの奥深くまで2本目を取りにいき、日本の得点につなげる場面があった。この献身性は大いに買いたい。

 まだ荒削りながら、大器の片鱗を見せた大竹。父のかつての”戦友”である中垣内監督について、「子供の頃からよく知っていますし、バレーも教わってきました。今、全日本の監督として指導していただいていることは、少し不思議な気持ちもありますが、すごく嬉しいですね」と語ると同時に、「同じポジションだったこともあって、いろいろアドバイスをもらっています。それをしっかり吸収して、いいオポジットになろうと思います」と成長を誓った。

 異例の途中合流となった中垣内監督にとっても、自然体で受け入れてくれた大竹の存在は大きな支えになっただろう。あとは、中垣内監督が現役時代に最大の売りとしていた”勝負強さ”を受け継げるかどうか。7月12日にオーストラリアで開幕する世界選手権アジア最終予選では、”動ける202cmアタッカー”が成長した姿を見せてくれることを期待したい。