佐々岡真司氏は、妻が書いてトイレに貼ったメンタル強化法を連日読んだという 広島の自宅では毎日、トイレで再確認した。紙が貼…

佐々岡真司氏は、妻が書いてトイレに貼ったメンタル強化法を連日読んだという

 広島の自宅では毎日、トイレで再確認した。紙が貼ってあった。それはメンタルトレーニングの一環だった。前広島監督で野球評論家の佐々岡真司氏はプロ10年目の1999年に15勝をマークした。パーソナルトレーナーによる投球フォーム修正などモデルチェンジに成功して、前年1998年の5勝からの大巻き返しだったが「心技体」の「心」の部分の改善も大きかったという。これはメンタルトレーナーと優子夫人のおかげだった。

 プロ9年目のオフに優子夫人の“提案”もあって始めたモデルチェンジ。30歳を超え、20代前半の頃と同じことをやっていてはいけないと考え、トレーニングの見直しからパーソナルトレーナーの西本直氏にお願いした。それが実に効果的だったわけだが、並行して進めたのがメンタル面の強化だった。「同じようにメンタルトレーニングの先生もお願いしたんです」。広島出身で、メンタルトレーナーの第一人者として知られる高畑好秀氏に指導してもらったという。

「例えばヤクルト戦前なら古田(敦也)さんを抑えたいいイメージとか、ヤクルト戦のいいイメージのシーンばっかりのビデオを見て、試合に臨むとかね。集中力でも、穴があって目を閉じてもそこに通せるようなイメージとか。いろんなことをね」。とはいえ、なかなか難しいものでもあったそうだ。そんな中、さらにバックアップしてくれたのが優子夫人だ。

「僕はメンタルの本とかは読まなかった。それで嫁が一生懸命、大事なところを書き取ってくれて、トイレに貼り出してあった。朝、そこに貼ってあれば、僕が目を通すだろうってね。毎回、毎回、違うことが書いてあったよ。今日はこれ、明日はこれって感じ。そういうこともしてくれた」と佐々岡氏は明かす。「もちろん見たよ。毎日、トイレで。読めば頭に入るしね」。それもあって、結果を出すこともできたのだ。

「なかなか本人の前では言えないけどね、とても感謝しています」

「去年、(広島の)上本(崇司)が、その先生とメンタルトレーニングをしたって聞いた」と佐々岡氏はうれしそうに話す。上本は佐々岡氏が指揮を執った昨季、成績を大きくアップさせただけに「やっぱり。そういうのはいいのかなって思ったね」と言い、昔の自分も思い出したようだ。「1998年は本当に成績も体も下がっていた時の転機で、心技体全部に先生をお願いした。心は精神、メンタルの先生。技術、体力は西本さんにね」。

 振り返れば、1998年オフの「心技体」3つのモデルチェンジには、すべて優子夫人が知人のツテを使うなど、大きく関わっている。トイレの貼り紙もしかりだし、佐々岡氏にしてみれば、あんなこともしてくれた、こんなこともしてくれた。それこそ、言い出せば、いくらでも出てくるのだろう。「本当に一生懸命やってくれて……。なかなか本人の前では言えないけどね、とても感謝しています」と話した。

 2000年は2度目の開幕投手となり、2年連続2桁勝利となる10勝をマークした。2001年も開幕投手を務め、さらに途中からは抑えも……。人生、何が起きるかはわからないが、あそこで変わっていなければ、もしかしたら、その後の現役生活はもっと短かったかもしれない。佐々岡氏はモデルチェンジできてよかったと心底思っている。

 先発でスタートした2003年も途中から抑えとなり、9月14日の横浜戦(広島)でセーブを記録し、NPB史上6人目の100勝100セーブを達成した。2006年5月4日のヤクルト戦(神宮)では先発して勝利投手となり、史上2人目の先発100勝100セーブの偉業も成し遂げた。“スーパー投手”としての勲章が増えていった。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)