ヴィッセル神戸がサガン鳥栖を敵地で0-1と下し、首位の座を守っている。開幕から5試合で4勝1敗。上々のスタートだ。「攻守にアグレッシブに、まずはそこで負けない、というところから入りました。選手が90分間、集中した戦いをしてくれて。泥臭さい…

 ヴィッセル神戸がサガン鳥栖を敵地で0-1と下し、首位の座を守っている。開幕から5試合で4勝1敗。上々のスタートだ。

「攻守にアグレッシブに、まずはそこで負けない、というところから入りました。選手が90分間、集中した戦いをしてくれて。泥臭さいというか、それで勝ち点3を取れているのが、今のうちの強さかな、と考えています」(神戸/吉田孝行監督)

 端的に言って、神戸の好調の理由はどこにあるのか?



サガン鳥栖戦で泉柊椰の先制ゴールが決まり、喜ぶヴィッセル神戸のイレブン

 3月18日、鳥栖。前節、神戸は浦和レッズに本拠地で0-1と敗れていた。左からの攻撃がやや迫力に欠け、守備のズレも作られた格好だった。そのポジションを2人入れ替えたのは必然だろう。

 そして入れ替えて戦力アップするところに、神戸の資本力と言うべきか、戦力の分厚さが際立っていた。

 大迫勇也を筆頭に、武藤嘉紀、山口蛍、酒井高徳という元日本代表に、齊藤未月も含めて、日本人選手の「個」の力は、今のJ1で別格と言える。組織としての「仕組み」にこだわって、敵陣での能動的プレーを目指す鳥栖のよさを各個で撃破。序盤に左サイドの綻びを突かれ、ピンチも迎えたが、局面で勝利することによって押し返した。

 象徴的だったのが、前半7分だった。バックラインから何気なく蹴り込んだボールに対し、右タッチラインの武藤がダイナミックなヘディングで競り勝って、大迫へ。大迫は巧みにボールを収めながら、武藤へリターン。武藤は右サイドを豪快に駆け上がってクロスを送り、ファーから入った泉柊椰がヘディング。ボールはバーの上に外れたが、ほとんど何もないところから、個の精強さで決定機を作った。

 どのチームも、相応の対策はしているだろう。しかし、たとえば「左サイドの酒井がビルドアップの出口になり、ラストパスも出してくる」と分析しても、遮断するのは簡単ではない。また、大迫は昨シーズンの体の重さが嘘のようで、ボールキープ力や展開力、あるいはシュートに持っていく技量は破格。そこに武藤のプレー強度が加わるのだ。

【ボール支配率で下回っても...】

 前半22分の先制点も個が目立った。初先発の機会を得た泉が、左サイドからカットインして相手選手のマークを突き放すと、思いきりよく右足でシュート。これがわずかに相手の足を掠めて軌道が変わり、ゴールネットに収まった。

「カットインからのシュートは得意で、ずっとやっていた。とにかく結果を出して、スタメン争いをしないと、とは思っていたので、ゴールはよかったですが、それ以外は足りないことばかり」(神戸/泉)

 競争力の高さは明白だろう。結局のところ、サッカーはひとりの選手が戦術を動かし、作り出すところもあるのだ。

 その点、神戸はアンドレス・イニエスタの処遇が気になるところだ。イニエスタがスペインに一時帰国したことにより、神戸の守備は昨季から好転した。全員がプレッシングの感覚を共有できるようになって、一本筋が通った。イニエスタがいた場合、その肉体的消耗を考慮し、戦術的に前からボールを追う行為を最小限にせざるを得ない。浦和戦のように、ボールを持たされる展開になると、難も見えるのだが......。

 その点で、ボールを握りにくる鳥栖との噛み合わせは、悪くなかった。ボール支配率では鳥栖の57%に対して43%と下回ったが、シュート数は相手の3本に対して14本と大きく上回っている。後半3分、相手クリアの跳ね返りを拾った大迫はゴールほぼ正面からシュート。後半34分、左CKから大迫が2人に挟まれながら競り勝って、ヘディングを飛ばした。ボールを持っていなくても、ゴールに迫った。

 神戸も苦しい時間はあった。前半の序盤、後半、鳥栖に富樫敬真が入って負傷後退するまでの10分弱、さらに終盤、交代で入った堀米勇輝が躍動した約10分間。個人が「仕組み」を旋回させた鳥栖に対し、神戸は後手に回っていた。しかし、その劣勢をどうにか凌いだ。

「前にいる迫さん(大迫勇也)とか、(コースの)切り方もうまいんで、あえてスペースを空けながら、狙って潰しにいくこともできるので、そこは考えてやっていますね」(神戸/齊藤)

 神戸は5試合でわずか2失点。守備の安定は武器だ。 

「シーズンに入るとき、『連敗はしない』というのはあったので、(勝利という)結果はよかったと思います。チームの守備の形がはっきりしてきました。前線からみんな(ボールを)追って、制限をしてくれるので、後ろはやりやすい」(神戸/山川哲史)

 個人の精強さで守備から入って、ゴール前で迫力を出し、それが戦術になりつつある。個の力は絶大である。

 代表戦の日程が入り、ルヴァン杯を挟んでしばらくJ1リーグは中断。イニエスタの去就も気になるところだが、4月1日、首位・神戸は敵地で京都サンガと関西ダービーを戦う。