東京オリンピックから正式種目として採用され、世界中で人気上昇中の自転車競技「BMXフリースタイル・パーク」。近年、世界で結果を残す日本人選手が増えているこのスポーツは、キッズライダーのレベルに関しては世界最高とも言われるほどで国内でシーンが…
東京オリンピックから正式種目として採用され、世界中で人気上昇中の自転車競技「BMXフリースタイル・パーク」。近年、世界で結果を残す日本人選手が増えているこのスポーツは、キッズライダーのレベルに関しては世界最高とも言われるほどで国内でシーンが急成長している。
今回は世界最高峰の舞台で戦う注目の若手BMXエリートライダーである小澤楓(おざわ・かえで) 選手にインタビュー。小澤選手は昨年、全日本フリースタイルBMX連盟(JFBF)が開催する国内のシリーズ戦において最高カテゴリーのエリートクラスに最年少の14歳で出場し初戦から準優勝。その後も国内では周りの選手を寄せ付けない勢いで安定した好成績を残し、国際大会であるFISEにも出場を始め世界の更なる高みを目指している。
そんな彼にBMXを始めた経緯から強さの秘訣、そして弱冠15歳で世界のトップ選手たちと戦う中で感じていることなど様々な角度から彼のBMXに対する想いを聞いた。
小澤 楓(以下:K)
当時14歳で初出場したエリートクラスでの快挙
高木聖雄選手とのツーショット
–エリートクラスでは初出場した大会で準優勝という好成績でした。どうしてこのような結果を初戦から残せたのでしょうか?
K:実は僕自身、エリートクラス初出場のこの大会は予選突破できれば良いかなという程度に考えていました。でも前年の2021年シーズンのJFBF最終戦にて2位という悔しい結果で年齢別最後の大会を終えたこともあり、もう同じ思いはしたくありませんでした。
その時の敗因が、大技にこだわりすぎてラン全体の流れを見た時にトリックをしないシングルジャンプが多くなってしまったことだったので、それ以降は大技のレベルを少し下げてでもすべてのジャンプでトリックを入れられるようにランを構成してたくさん練習してきました。
そのような練習の甲斐もあって、エリートクラス初めての大会でも自分の思った通りのライディングができたので準優勝できたのだと思います。ただ最初にも話した通り予選突破を目標にしていて、初めから勝ちに行くつもりではなかったので、予想以上の結果に驚きましたがとても嬉しかったです。
–年齢別クラスからエリートクラスに昇格し、周りの選手たちの年齢もレベルも変わったと思います。エリートクラス初戦はどんな印象でしたか?
K:年齢別クラスに出ていた頃は年齢的にまだ体が小さいこともあって、大技をメイクすること自体が難しいので基本的には大技がメイクできたら勝てるという印象でした。
でもエリートクラスは大技をメイクしたからといって勝てるわけではないので、どういう風に試合を進めるのかをすごく考えないといけないですし、もちろん周りの選手たちも同じことを考えながら戦っています。エリートクラス独特のピリついた空気感もあり、今までのクラスとは全然違うと感じました。
–改めて、そういった空気感の中で準優勝という結果を残した初戦でした。率直にどんな気持ちでしたか?
K:2位という結果は素直に嬉しかったですが、2位と1位とではその座を勝ち取る難しさが全然違うので今後どうやって戦おうかなと考えるようになりました。それと周りの選手も僕みたいに初めて出てきた選手には負けたくないと思いますし、次の大会からは更にギアを上げてくると感じたので自分自身ももっと気を引き締めて頑張らないといけないなと思いました。
この初戦の準優勝という結果によって次の大会でも良い成績を残さないといけないというプレッシャーが生まれたり、他の選手からの見られ方が変わったのを感じた大会でした。
–ちなみにその準優勝を勝ち取ったライディングは個人的にどんな評価ですか?
K:大技をする前の小技も含めてランを通して、全てのジャンプでしっかりトリックを決めることができたので満足のいくランだったと思います。ただ、決勝ランは他の選手たちももちろん本気で来るわけなので、結果として表彰台には乗れなくても「自分のルーティンがしっかり決められたらいいかな」という気持ちで挑んだライディングでした。
BMXフリースタイルパークとの出会いとBMXの持つ魅力
BMXを始めるきっかけとなったのは父・健司さん(一番左)
–BMXを始めたきっかけを聞かせてください。
K:元々は父がBMXを趣味でやっていました。それを僕が見ていた時に父から「一緒にやろう!」と誘われて、幼稚園年長くらいの頃にBMXに乗り始めました。当時、父がやっていたのはフラットランドという種目だったので、最初は僕も一緒にフラットランドをやっていたのですが、たまたまパークに行く機会があり、そこで今もトップでやられている高木聖雄選手と出会い、パーク種目の魅力に惹かれて小学2年生の時にパーク種目を始めました。
–小澤選手が思うBMXの魅力と好きなところを聞かせてください。
K:BMXフリースタイルパークの好きなところは、まず「ジャンプ中に色々なトリックを決めるのがかっこいい 」というところです。また最近海外転戦をするようになってからは、大会で色々な国に遠征に行くことで世界中の選手たちと友達になれることもBMXの魅力だと感じるようになりました。
–小澤選手がライディング中に特に意識していることはありますか?
K:ジャンプ中の大技の完成度はもちろんですが、大会で特に意識していることはトリックをしないシングルジャンプをなるべく作らないようにすることです。大技をメイクする前のジャンプでもしっかり技を入れるようにしたり、各ジャンプでトリックを入れてバリエーションのあるライディングを意識しています。
国内最強の15歳を生み出した練習環境
楓選手の練習の様子
–ちなみに大技を決めるために意識していることもありますか?
K:僕の考えでは、大技はタイミングとテンポが合えばメイクできると思っています。そのため大技をする前はしっかり自分のライディングをイメージして、セクション1個1個を綺麗にこなしていくことを意識しています。特に練習の時は大技にトライする一個手前のジャンプを綺麗に合わせて十分に加速することを大切にしています。
–国内での練習環境についてですが、普段はどこで乗ることが多いですか?
K:普段は父とBMXの仲間が作った、地元の岐阜県本巣市の根尾にある「Neoパーク」で練習しています。でもこのパークは屋外にあり天候が悪いと乗れないので、そういう時は愛知県あま市にある屋内パークの「Hi-5 スケートパーク」に行って練習しています。また父が休みの時は遠方のパークに行って練習することもあります。
–新しいトリックに挑戦する時はどういう風に練習していますか?
K:「Hi-5 スケートパーク」にはスポンジプールがあるので、そこで新技を挑戦してみてメイク率が上がってきたら、自分が走り慣れている「Neoパーク」の実際のジャンプセクションで挑戦する感じです。
BMXライダー仲間とライディングを楽しむ楓選手
–ちなみに地元で普段から一緒に乗るBMXライダー仲間はいますか?
K:地元にはいないですが、同じ岐阜県には高木聖雄選手や他にも一緒に乗るライダーはいます。普段は「Neoパーク」に岐阜県内からライダーたちが集まってきて一緒に乗っています。
–他のアクションスポーツのライダーとの繋がりもあったりしますか?
K:「Neoパーク」にはBMX以外のライダーはいませんが、「Hi-5 スケートパーク」ではスクーターやスケボー、インラインスケートなどのライダーがいて、よく一緒に乗ることもあるので結構繋がりはあります。
15歳の等身大の姿と大家族の存在
7人兄弟のうち6人がBMXライダーの小澤兄弟
–パークで乗らないオフの日は主に何をしていますか?
K:重機を使ってBMXダートコースを自分たちで作ってライディングしたり、BMXフラットランドは近くの駐車場でたまに乗ったりしますね。数年前に鎖骨を骨折してBMXが乗れなかった時はドローンを飛ばしたりラジコンでよく遊んでいて今でも趣味で父と一緒に楽しんでいます。また接骨院の先生にはとても可愛がってもらっているので時間がある時は先生の家に遊びに行ったりもします。
–小澤選手は7人兄弟とのことですが、妹の美晴選手を始め兄弟と一緒に乗ることもよくありますか?
K:兄弟6人で一緒に乗ることはそんなに多くないですが、美晴の下の3番目の妹まではたまに乗る感じで、その下の4番目と5番目の弟と妹はお父さんがいれば乗るという感じです。
また、上石津のパークに行く時はBMXを練習するためにみんなで行くので一緒に乗りますが、「Neoパーク」の場合はBMX以外にも楽しめる遊びがたくさんあって、乗るかどうかも基本的に自分たちの自由なので弟たちは一緒に来ても乗らないことが多いです。
楓選手に良い刺激をくれるのは妹の美晴選手
–BMXに導いてくれたお父さんや一緒に練習している美晴選手など、家族は小澤選手にとってどんな存在ですか?
K:練習するには車でパークへ行かないといけないので父のサポートが必要ですし、妹が一緒に練習してくれると一人で練習するよりも気分が上がって楽しく乗れるので、家族は僕にとってとても大事な存在です。
世界最高峰への挑戦のために始めた海外転戦
2022年ワールドカップ最終戦があったオーストラリアでの一コマ
–海外遠征で色々な国に行くようになったと思います。海外に行って感じた日本との違いはありますか?
K:BMX関係ではとにかく海外はパークが多く、車で10分くらいの距離間でボウルのあるスケートパークがあるので1日に5ヶ所くらいは周って乗れるような環境があります。その中でも特にオーストラリアは比較的治安が良く気楽に乗りに行けるので個人的には好きです。ただ逆にこの前行ったアブダビはかなり治安が悪く、荷物にも鍵をかけながら動かないといけないので精神的にも疲れましたね。
–自分より先に世界で戦っている中村輪夢選手や溝垣丈司選手の存在についてはどう感じていますか?
K:一緒に海外転戦する上で、自分より先に海外を経験している二人の存在は心強いです。普段とは全く違う環境で多くの海外選手を目の前にしても気後れすることなく大会前の練習ができたのも彼らのおかげだと思います。特別よくコミュニケーションを取るわけでもないですが、一緒にいるだけで乗りやすくなり自分に自信がつく雰囲気が作れています。
–また大会最年少選手として世界最高峰の選手たちと対峙して感じたことを聞かせてください。
K:海外のトップ選手たちは基本的なランの構成がすべて大技で組まれていて、どのセクションでも大技を決めてくるところが凄いと思います。また彼らはもちろん僕のトリック以上に高難度な大技を入れてきますし、その大技まで繋ぐジャンプでも日本では大技と言われるようなトリックを軽々メイクしてくるので、全体的なランの完成度が自分よりも1段階も2段階も上なのでとにかく凄いなと感じました。
–そのようなハイレベルの戦いを求められる中、昨年12月のFISEでは準決勝へ進出し全体18位という結果でした。この成績についてはどう感じていますか?
K:予選突破を目指していた大会だったので、自分のルーティンをしっかり決めたことで準決勝進出という結果がついてきたのは良かったです。まだ海外選手に比べてスキル的にも体格面でも劣るので不安な部分も多かったのですが、今回の結果から正しいトレーニングを積めば戦えることが分かったので、そういう意味では自分に自信がつきました。
–今後自分が勝つためには何が必要だと思いますか?
K:確実に大技をメイクすることはもちろんですが、ライディングのスピードも採点に影響するのでスピードも上げつつ、大技を決められるようにすることが課題だと感じています。今後は筋力トレーニングを本格的に取り入れ体格面も強くしていきながら、自分の思い通りに身体をしっかり動かせるように着実にレベルアップしていきたいと思っています。
小澤楓が目指す今後の目標と理想のBMXライダー像
–年齢的にはパリオリンピックにも出場可能ですが、今後に向けて取り組んでいくことはありますか?
K:パリオリンピックに向けてというよりも、まずはFISEで確実に準決勝以上へ進出していかないとオリンピック出場は難しいのでそこを目標とした上で、どれだけ自分のトリックを決めて順位を上げていけるかというところを考えながら戦いたいです。
–今シーズンの意気込みと今後の目標に聞かせて頂けますか?
K:先ほども言いましたが、まず今シーズンの一番の目標はFISEで準決勝に残ることです。そして来年の2024年はUCIとFISEを含めた世界のポイントランキングでトップ6に入れるように頑張りたいと思っています。なぜかというと、パリオリンピック出場選考基準の中にトップ6に入ることが一つの条件としてあるのでそのスポットを目指しています。
–最終的にどんなBMXライダーになりたいですか?
K:日本で開催された「Chimera A-side Final」にも出場したオーストラリア出身のBoyd Hilder(ボイド・ヒルダー)という選手がいるのですが、彼はどちらかというストリート系のライダーでスタイルもかっこよくてインスタグラムのフォロワー数も多く、みんなに憧れられる選手なんです。
もちろん大会で優勝したり結果を残せる強い選手になることも重要だと思いますが、僕はスタイルがあってみんなから憧れられる彼のようなBMXライダーになりたいです。
小澤楓プロフィール
2007年9月7日生まれ。岐阜県本巣市出身のBMXライダー。小学校2年生の時にBMXフリースタイルを始める。自宅の近くには父親が手作りで作った練習場「Neoパーク」が設置されており、現在は7人兄弟のうち6人がBMXフリースタイルの練習に日々励んでいる。2017年及び2019年には世界選手権で優勝しジュニア世界チャンピオンとなる。2021年には13歳~15歳の年齢別クラスでJFBFの年間シリーズチャンピオンに。そして2022年からはJFBFのエリートクラスに昇格し初出場となった2022年シリーズ第1戦では準優勝、その後の第2戦では優勝。2022年のワールドカップシリーズFISEの最終戦では準決勝進出を果たした。
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