ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<01>松田力也(埼玉ワイルドナイツ)前編 9月8日に開幕するラグビーワールドカップ・フランス大会──。ラグビー日本代表は前回大会のベスト8を超える「史上初のベスト4」以上を目標…

ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<01>
松田力也(埼玉ワイルドナイツ)前編

 9月8日に開幕するラグビーワールドカップ・フランス大会──。ラグビー日本代表は前回大会のベスト8を超える「史上初のベスト4」以上を目標に、日々強化を続けてきた。

 その日本代表の主力メンバーとして10番を背負い、司令塔として期待される選手がいる。本番を29歳で迎えるSO(スタンドオフ)松田力也(埼玉ワイルドナイツ)だ。

 2019年大会はSO田村優(横浜キヤノンイーグルス)の存在が前に立ち塞がり、控えスタートという苦渋を味わった。また昨季は、左ひざ前十字じん帯を損傷する大ケガを負い、テストマッチに出場すらできなかった。

 それでもケガから復帰を果たした松田は、確固たる決意を胸に秘めている。「誰にも負けたくない。W杯で10番を背負う」と。

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松田力也●1994年5月3日生まれ・京都府京都市出身

── いよいよラグビーW杯開幕まで、残り半年を切りました。

「個人としては昨年ケガをしましたが、2019年大会からの悔しさも含めて、本当にいい準備ができている。10番として日本代表を勝利に導けるパフォーマンスを出して、結果で恩返ししたい。それに尽きるかなと。

 2019年大会は『ベスト8』というすばらしい歴史を作ったので、そこからまたもうひとつ上のステージへ、ファンのみなさんも期待されていると思います。選手もそこを目標にしていますので、さらにレベルを上げていきたい。もっと積み上げないといけないなと、チーム全員で思っています」

── 前回大会は4試合出場しましたが、10番を背負えず、すべてベンチスタートでした。

「初めてのW杯では、日本開催ですごくいい思いをさせてもらいました。しかし、自分自身が納得できなかったこともたくさんありました。

 出場したことはすごく幸せでしたけど、先発で出ることが叶わず......ベスト8で終わった次の瞬間から『次の大会では10番を背負ってW杯に戻ってきたい』という思いを常に持っていました。

 今もずっと、その悔しさを持っています。もう2019年大会のような思いはしたくないと、正直に思っています」

── 2020年以降、日本代表で10番を背負うことが増えました。

「田村優さんの下でいい経験をたくさんさせてもらって、準備の仕方なども学ぶことができました。ただ、そのなかで『自分の色を出す』ところも必要だなと感じました。

 僕というプレーヤーの強みをどんどん出していって、周りとコミュニケーションを取って、自分が納得できる、チームを勝利に導けるプレーをしたいなと。そこで勝負したいと思っています」

── 自分の色、とは?

「山沢拓也(埼玉ワイルドナイツ)と李承信(リ・スンシン/コベルコ神戸スティーラーズ)のふたりは、僕とは違う『自分で仕掛けるファンタジスタ系のSO』だと思いますが、僕はFWとBKのコネクションを取って『チームを動かすタイプのSO』かと思います。

 キックやパスでチームをオーガナイズしていくなかで、自分も活きていくようなプレーができればいいと思います。コミュニケーション力や判断力でチームを引っ張っていきたい。もちろん、前が開けば常にランで行ける準備はしていますし、そこで引くつもりもないですが、チームとして一番いい選択をできる選手になりたいです」

── 高校時代はFB(フルバック)で、帝京大時代もSOだけでなくWTB(ウイング)などさまざまなポジションを経験し、日本代表初キャップも15番でした。いつから10番としてプライドを持つようになりましたか?

「たしかに大学時代のはじめはWTBでしたね! タイミングよく1年生の終わりで10番を経験させてもらったことが、今につながっています。たくさんのポジションを重ねてきたことが、その後の強みになっているかと。

 ワイルドナイツに入った時も、そこまで10番に対する思いは強くなかったです。SOベリック・バーンズ(元オーストラリア代表)というすばらしい選手の下で、1年目は12番として彼にうまく光を当ててもらっていただけでした。

 彼がケガをしたこともあって2年目から10番を背負うようになったんですが、すごく苦労しました。ゲームメイクが大変でしたね。ただ、少しずつ10番で出る機会をもらったことで、『もっとレベルアップしないといけない。もっとラグビーを知らないといけない』という自覚が芽生えました。

 日本代表でも10番こそ背負っていなかったですが、『10番のカバー』という役割が多くなりました。その影響で、10番への思い入れも強くなりました。

 今から思えば、自分はCTB(センター)をやるにはちょっと小さい気がするし、ロビー(ディーンズ/埼玉ワイルドナイツ監督)さんも10番としてイメージしてくれていたみたい。10番がベストポジションだと思います」

── SOとして、どういったところで苦労しましたか?

「サインを出すにしても、状況を判断するにしても、バンジー(バーンズ)にアドバイスをもらいながらやっていました。また、当時のワイルドナイツでは堀江(翔太)さん、史さん(田中史朗/グリーンロケッツ東葛)、章さん(山田章仁/九州電力キューデンヴォルテクス)といったベテランの方々と一緒にプレーさせてもらえたので、いろいろと身につけることができました。

 もちろん準備段階から、いろんな方々とコミュニケーションは取っていました。たとえば、ラインアウトのサインを出すのは僕なので、ラインアウトリーダーと『どのエリアではどのサインで行く』とか、準備の段階で仲間と話しておくことはすごく大事です。

 日本代表では(田村)優さんとは準備の段階ですごくコミュニケーションを取っていました。ただ、SOに専念して3年目くらいまでは、まだまだ準備が足りないなと思っていましたね」

── 日本代表ではSH(スクラムハーフ)流大(東京サンゴリアス)やSH齋藤直人(東京サンゴリアス)とハーフ団を組むことが多いです。ふたりの印象は?

「ふたりともタイプは違います。大さんは(帝京大学時代から)影響力を持っているし、ずっと一緒にやってきたので信頼できる選手です。大さんと組む時は『FWのことは任せといてもいいかな』と思いますし、僕がほしいタイミングで(パスを)出してくれる。本当に安心して一緒にプレーできます。

 一方、直人の持ち味は強気なゲームメイク。パス、キックもいいし、タックルもいけます。直人とプレーする時は僕がしっかりとチームを見て、直人に背負わせすぎないようにして、のびのびプレーさせることが一番大事だと思います。

 誰と組んでも、一緒によさを引き出して、ゲームを作っていければいい。コミュニケーションをたくさん取っていけば、どんどんよくなっていくと思います」

── 日本代表SOとして印象に残っている試合はありますか?

「まずは社会人1年目、2017年11月のオーストラリア代表戦(30-63)ですね。初めてテストマッチで10番を背負いました。ずっと12番をやっていたシーズンでしたが、10番で使ってもらって『何もできなかった』という悔しさがあります。そこから、ほぼ日本代表では10番を背負わせてもらうことはなくなりましたし、あの試合ではすごく挫折を覚えました。

 10番として準備やスキルなど、全部が足らなかったなと思います。でも、そこから見つめ直すことができて、10番としてすごく手応えを感じ出したのは(優勝した)トップリーグ最後のシーズンくらいからです。スタメンで出ることも多くなって、チームに勝つ流れを持って行くことができるようになったので。

 そんななか、2021年10月に大分で行なわれたオーストラリア代表戦で、再び日本代表の10番をつけて戦うことができました。負け(23-32)はしましたけど、今までにはない手応えを掴むことができ、『インターナショナルレベルでもいけるな』って感じた試合でした。

 その後、アウェーでのスコットランド代表戦(20-29)で10番を経験させてもらったことも、すごく自信をつけることができました」

── W杯フランス大会で日本代表が予選プールを通過すれば、準々決勝でそのオーストラリア代表と対戦する可能性があります。

「そうですね! そうなれば、すごく縁があるなと思います。想像したらちょっとゾッとしましたけど(笑)、3度目の正直になるので、次は勝つしかないと思っています!」

── 予選プールでは、初戦でチリ代表、続いて優勝候補のイングランド代表、次にサモア代表、そして最後は強豪アルゼンチン代表と対戦します。

「チリ代表はU20日本代表で対戦して負けているので、油断できない相手ですね。イングランド代表は強力なフィジカルで昨秋に戦った時もディフェンスでプレッシャーをかけてきたので、今回も堅いラグビーをしてくると思います。SOオーウェン・ファレルとの対戦がすごく楽しみ。タックルされてターンオーバーされた思い出があるので、やり返したいですね。

 サモア代表もフィジカルが強い。フィジー代表と似ているイメージなので、日本代表は堅いプレーをしないといけない。そして最後のアルゼンチン代表戦は、ベスト8進出へカギを握る試合になるかと。すごく勢いのあるチームだと思うので、勢いに乗せないようにコーチ陣のプランをしっかりと遂行することが大事だと思います。

 ただ、本当に大事なことは、日本代表のスタイルを貫き通すこと。ボールをキープするのか、キックして相手にボールを渡すのか、瞬時の判断力がキーになってくると思います」

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【profile】
松田力也(まつだ・りきや)
1994年5月3日生まれ、京都府京都市出身。伏見工業高→帝京大を経て2017年に埼玉パナソニックワイルドナイツに加入。日本代表歴は2016年6月のカナダ戦で初キャップ獲得。2019年ラグビーW杯メンバー。ポジション=SOスタンドオフ、CTBセンター、FBフルバック。身長181cm、体重92kg。