2022-23 CL注目チームの現状第4回:マンチェスター・シティハーランド(左)という強力な個人をシティに加えたグアル…

2022-23 CL注目チームの現状

第4回:マンチェスター・シティ



ハーランド(左)という強力な個人をシティに加えたグアルディオラ監督(右)。CL制覇なるか

【天才たちのプレーを再現化】

 ジョゼップ・グアルディオラ監督の最高傑作は、初めて指揮を執ったバルセロナだろう。バイエルン、マンチェスター・シティでも国内タイトルを獲りまくってきたが、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝にはまだ届いていない。プレーのクオリティの面でも、衝撃的だったバルサを超えるには至っていない。

 グアルディオラはその呼び方を嫌っているようだが、バルサには「ティキ・タカ」があった。バイエルンにもシティにもそれはあったが、バルサの時ほどの威力はない。ショートパスの連続で相手守備陣を操り、破壊していくティキ・タカは史上最高クラスだった。

 それ以前には、たとえば1970年メキシコW杯のブラジル代表があり、74年西ドイツW杯のオランダ代表、82年スペインW杯のブラジル代表、ヨハン・クライフ監督が率いたドリームチームのバルサ(80年代後半~90年代中盤)、ルイ・ファン・ハール監督下のアヤックス(90年代)など、同種のプレースタイルのチームは存在していた。

 だが、リオネル・メッシ、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタのバルサはそれ以上のクオリティを見せつけていた。なぜなら、ペップは過去の偉大なチームの偉業を理論化していたからだ。

 何人かの天才たちが偶然揃った時に現出していたプレーを、再現可能なものとした。だから散発的でも偶発的でもなく、どの試合でもルーティーンのように繰り返されていた。

 CL決勝で二度敗れたマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、「彼らは一晩中でもパスを回し続けるだろう」と述べている。これは比喩でも誇張でもなく、体力が続くかどうかは別として、いくらでもパスを回し続けられるのが当時のバルサであり、それは読まれれば抑え込まれるパターンではなく、同じ原理を使った無限のバリエーションを持つ攻撃だったわけだ。

 それがバイエルンとシティでなぜ再現できないのか。ペップはティキ・タカの秘密を握っている。ただ、かつてのバルサのように実現するには、メッシ、シャビ、イニエスタが必要というのが今のところの結論なのだと思う。天才たちが織りなしてきた極上のパスワークの原理は解明できたが、実際に完璧に行なうには天才が必要という皮肉な帰結だ。

 昨季、シティは最もバルサに近づいている。「偽9番」に「偽サイドバック(SB)」、「偽GK」まで現れた。ほとんどのポジションが偽化し、「トータルフットボール2.0」とも言うべき、アップデートされた偉大な足跡を継いだチームだった。しかし今季、グアルディオラ監督はあえてそれを壊しにかかっている。

【グアルディオラ監督のチーム作り】

 グアルディオラ監督のチーム作りは、率いた3つのチームに共通している。

 まず、フィールドプレーヤー化できるGKとともに、自陣からの確実なビルドアップを構築する。そのためのギミックを入れる。バイエルン時代はSBフィリップ・ラームのMF起用とサリーダ・ラボルピアーナ(※MFがDFラインに下りて数的優位を作る)に始まり、ダビド・アラバの「偽SB」。さらに両SBの偽化。シティではジョアン・カンセロのアラバ的な偽SB。バルセロナではそれらすべてが断片的に行なわれていた。

 確実にボールを敵陣に運んでから、後方からのプラスアルファによる数的優位の創出は共通。カンセロが去ったあとのシティでは、右SBリコ・ルイスがMFとして振る舞い、中盤の厚みとカウンターアタックへの予防役を務める。バルサとシティでは「偽9番」を多用。これも数的優位を作るもの。バイエルンでやらなかったのはロベルト・レバンドフスキという本物の9番がいたからだ。

 そして、アタッキング・サードに関しては、ゴールゲッターの特徴次第という点が共通している。メッシ、レバンドフスキ、セルヒオ・アグエロではそれぞれ特徴が異なるため、フィニッシュへのアプローチは違っているが、得点源の特徴に合わせるという手法自体は一緒である。ペップは天才との化学反応で黄金を作る錬金術師のようだった。

 昨季のシティは軸になるゴールゲッターがいなかった。そのため、常にボックス内に4人以上を送り込む一種の人海戦術を採っていた。ポケットをとって低いクロス、そこへ4人が飛び込む。誰かの能力に依存するのではなく、誰でもいいから当たれば入りそうな状況へ持っていった。

 特定の得点源に依存しないので、よりトータルフットボール的な印象の強い仕上がりになったが、今季はアーリング・ハーランドを獲得している。ごりごりの9番だ。

【ハーランド加入の意味】

 ハーランドはU-20ワールドカップで1試合9ゴールを決めたことがある。一方的な試合でも1人で9得点はなかなかとれるものではない。得点に特化したストライカーだ。

 ハーランドの加入によってシティのバランスは崩れた。偽9番による数的優位はなくなり、全員守備もできない。それどころかゴール前以外、ハーランドはほとんどプレーに関与さえしない。ただ、点はとれる。グアルディオラ監督は誰もが得点できる体制を放棄して、誰も得点できそうもない状況でもゴールできる1人を選んだ。

 裏をつく抜群の走力、届きそうもないクロスボールに触れる能力、左足のパワフルなシュートを持つハーランドは規格外のゴールゲッター。こうした「個」を組織で封殺するのは難しい。人海戦術には人数で対抗もできるが、突出した個人に対抗できるのはそれに匹敵する個になる。CL優勝のための切り札と考えられる。

 チームの組織力では、すでにシティは頭ひとつ抜けた存在だ。その組織力を多少犠牲にしても強力な個人が必要と判断した。最もデジタル化したチームであるシティが、底知れない得点能力という、アナログな力を必要としたのは興味深い。