2022-23 CL注目チームの現状第3回:レアル・マドリードCL連覇を狙うレアル・マドリード。2月11日には、FIFA…

2022-23 CL注目チームの現状

第3回:レアル・マドリード



CL連覇を狙うレアル・マドリード。2月11日には、FIFAクラブワールドカップを制した

【ベンゼマ&ヴィニシウスという武器】

 昨シーズン優勝、ディフェンディングチャンピオンのレアル・マドリードは、最多14回の優勝回数を誇る。ファイナル進出時の勝率も高く、欧州カップ戦は得意中の得意。ただ、レアルが戦術のイノベーターだったことはない。

 今季も優勝メンバーは健在、カゼミーロはマンチェスター・ユナイテッドに移籍したが、フランス代表のオーレリアン・チュアメニを獲得して穴を埋めている。攻撃の切り札は2022年のバロンドール受賞者カリム・ベンゼマとヴィニシウス・ジュニオール。

 左ウイングのヴィニシウスは、積んでいるエンジンが違う。初速でトップスピードに入り、ボールコントロールも乱れない。単純なワンツーでもスペースがあれば突破できる。縦突破もカットインもできて、そこからのシュートが正確。

 そして得点力の高い左ウイングとの関係の作り方において、ベンゼマほど経験値の高いCFもいない。レアルではクリスティアーノ・ロナウドとコンビを組んできた。ただ、ヴィニシウスはロナウドのようにクロスボールから得点するタイプではないので、ボックスの中は基本的にベンゼマのものだ。

 左のヴィニシウスが固定的であるのに対して、逆の右サイドは流動的。フェデリコ・バルベルデはウイングというよりMFで、プレーエリアも内側になる。マルコ・アセンシオは右に張りながらカットインするタイプ、ロドリゴはコンビネーションで真価を発揮するので、プレーエリアはやはり中寄りになる。

 空きがちなサイドを使うのは右サイドバック(SB)の役割だ。ダニエル・カルバハルにやや衰えも見られ、ここをどうするかは課題の1つかもしれない。

 右サイドの流動性は戦術的な特徴と言えるかもしれないが、最初からそう設計されているわけではなく、起用する選手に合わせてそうなっているのがレアルらしさだ。伝統的にまず「選手ありき」のクラブで、ライバルのバルセロナとは仕上がりは似ているが、その過程が理詰めのライバルとは対照的なのだ。

【カギを握る新世代の成熟】

 強いヤツを集めれば強い――この身も蓋もない強化方針を貫いてきた。スタジアムにその名が残されているサンティアゴ・ベルナベウ会長の時代から、その時々のスーパースターを片端から取りそろえる補強戦略は、補強というよりコレクションである。

 ポジションがまる被りしても気にしないかつての無頓着さはなくなったが、豪華スカッドは現在も変わらない。GKには世界トップクラスのティボー・クルトワ。ダビド・アラバ、エデル・ミリトン、アントニオ・リュディガーと屈強なDFを揃える。

 SBが目下のところ決め手がない状態とはいえ、万能DFのナチョがいて、アラバはセンターバックとSBのどちらでもプレーできる。

 レアルのエンジンルームは長い間、ルカ・モドリッチ、トニ・クロース、カゼミーロのトリオだった。この3人こそ栄光の原動力だったのだが、カゼミーロが移籍し、クロースも以前よりも出場機会を減らしている。

 37歳のモドリッチも、さすがにフルシーズン出ずっぱりというわけにはいかなくなった。彼らに代わる世代としてチュアメニ、エドゥアルド・カマビンガ、バルベルデがいるとはいえ、まだ完全な世代交代には至っていない。

 モドリッチとクロースが左右に開きながら落ちてSBを押し上げるビルドアップはレアルの定番だが、これも戦術的に用意したというより2人のアイデアとプレースタイルから自然にそうなったと思われる。他の選手でも同じ動き方はもちろん可能だが、モドリッチとクロースほどの効果は期待できないだろう。カゼミーロを含めて3人の阿吽の呼吸がフィールド上の解決策だったからだ。

 チュアメニ、カマビンガ、バルベルデ、ダニ・セバージョスがその域に達するにはまだ時間がかかる。昨季はその過渡期の状態をうまくよい結果に結びつけたが、カルロ・アンチェロッティ監督は焦らずに新世代を熟成している。それだけにチーム力のマイナスとプラスが同時に生じていて、昨季からの大きな積み上げには至っていない。

 ただ、そうした状況とは無関係に勝ってしまえるのが伝統でもある。

【アナログの強み】

 全体的にデジタル化している欧州トップクラブのなかで、レアルはアナログ感の強いチームと言える。

 昨季はアナログの強みが全開だった。戦術が「人」に依存しているので、選手が変わってしまうと再現性はない。ベンゼマ、ヴィニシウス、モドリッチを欠けば違うチームになってしまうだろう。しかし、逆に選手が揃っていればデジタルにはない強みもあるのだ。

 自動車のスピードメーターなら数字で表記するのがデジタル、針が動くのがアナログ。デジタルのほうが明確だが、数字と数字の間がない。サッカーはそんなに明確に割りきれるものではなく、そこまで合理的になっていないので、間を埋めるものが常に必要とされている。また、そうでなければ、敗退しているはずの試合をことごとく切り抜けて優勝した昨季のような現象は起こりえない。

 かつてシャビ・エルナンデス(現バルセロナ監督)はライバルチームを「理由もなく勝つ」と評した。確かにそのとおりで、レアル・マドリードというチームの得体の知れなさを的確に表現している。

 ただ、「理由もなく勝つ」理由はたぶんある。それを誰も説明できないだけで、おそらく当人たちもそうなのだが、理由もなく勝てることだけはわかっている。1950年代から、ある種の奇跡を起こし続けているクラブなのだ。

 デジタル化が進んだチームは洗練されていて強く見える。例えば、カーナビの指示どおりに運転すれば、スムーズに目的地に着くことができるようなものだ。ドライバーが指示を無視しさえしなければ、ほぼ確実に着く。

 ただ、ナビゲーションというシステムが失われたらどうなるか。レアルは道を覚えている選手たちの集団で、だからシステムにはあまり頼らない。見た目は変わらないかもしれないが、何かアクシデントが起こったり、窮地に追い込まれたりした時の修正能力は格別なものがある。アナログの強みだ。

 結局は「人」。レアルの方針は今のところ合っている。ただし、人的資源に頼ることでの無秩序や混乱も起きやすく、決勝まで進めば無類に強いかわりに、その手前であっさり敗れることもある。

 昨季のように奇跡を連発することはまずないので、レアルの連覇は難しいだろうという予想は簡単だが、なにせ得体の知れないチームなので何が起こるかはわからない。