早稲田の「角帽」――。皆さんはこの存在をご存じだろうか。かつては制帽として全早稲田大学生の所持が義務づけられていた角帽。現在は応援部の校旗入場の際に着用されるほか、早稲田大学のアイコンのモチーフにもなっている。しかし、早稲田のシンボルで…

 早稲田の「角帽」――。皆さんはこの存在をご存じだろうか。かつては制帽として全早稲田大学生の所持が義務づけられていた角帽。現在は応援部の校旗入場の際に着用されるほか、早稲田大学のアイコンのモチーフにもなっている。しかし、早稲田のシンボルである角帽は現在、消滅の危機に瀕している。ファッションの変化とともに角帽を着用する文化が消滅。着用しているのは、応援部と野球部、数少ないサークルのみとなってしまった。また、角帽を取り扱う店舗も次々と減少。現在、角帽を取り扱っている早稲田近辺の店舗はほんのわずかしか残っていない。


角帽復活プロジェクトのメインビジュアル(応援部提供)

 そこで立ち上がったのが、「角帽復活プロジェクト」。角帽の文化を継承するだけでなく、早稲田の日常に角帽を取り戻す長期型の壮大なプロジェクトである。当プロジェクトでは最初の取り組みとして昨年11月14日から200万円をゴールとしたクラウドファンディングを展開。当プロジェクトで掲げている3つの目標『①新規需要の創出と提案、発信、②永続的な生産体制の構築、③大学と連携した販売体制の構築』のうち、『②永続的な生産体制の構築』に焦点を当てたクラウドファンディングを実施した。当初は総責任者の笹山俊彦氏(平15一文卒=茨城・清真学園)も苦戦を予想したこのクラウドファンディングだったが、わずか2週間で200万円に到達。『②永続的な生産体制の構築』に向けた資金準備は整った。そして、残る2つの目標『①新規需要の創出と提案、発信』と『③大学と連携した販売体制の構築』を見据え、クラウドファンディングは続行。第二目標金額の300万円も突破し、現在は第三目標金額の400万円に向け進行中だ。今後は応援グッズとして「紙製角帽」を復活させ、早慶戦や行事での配布が検討されているほか、大学公式の記念日としての「角帽デー」の創設やリーダー部員への新品の角帽配布も検討されている。

>>>角帽復活プロジェクトのクラウドファンディングはから!


試作品の角帽と現在使用中の角帽


2015、16年に限定的に復活していた紙製角帽

 次なる目標は支援者数300人と支援総額400万円。クラウドファンディングの期間も1月12日までと残りわずかになった。クラウドファンディングでは支援すると応援メッセージを記入できるほか、5000円以上の支援でさらなるリターンを受けることができる。クラウドファンディング終了後もさまざまな取り組みが計画されているこの「角帽復活プロジェクト」。学生責任者は入鹿山航也(国教4=東京・早実)から永井武尊リーダー会計責任者兼広報責任者(文3=熊本・済々黌)へと引き継がれ、今後も代々引き継がれていく予定だ。5年後、10年後も続いていくであろうこのビッグプロジェクトはまだ始まったばかり。早稲田文化を象徴する角帽の復活劇にあなたも名前を刻んでみるのはいかがだろうか。


執行委員室前で写真にポーズをとる笹山氏(左)、入鹿山

>>>角帽復活プロジェクトのクラウドファンディングはから!

(記事 横山勝興、写真 横山勝興、早大応援部提供)

コメント

笹山俊彦氏(総責任者、平15一文卒=茨城・清真学園)、入鹿山航也(前学生責任者、国教4=東京・早実)


総責任者の笹山氏


前学生責任者の入鹿山

――具体的にどのような経緯でこのプロジェクトが決まりましたか

笹山氏 元々応援部のリーダーは旗手や校旗付として校旗を触る時に角帽を必ず被ることになっていて、僕らにとって角帽はそう遠い存在ではありませんでした。僕が現役だった20年前はみんな個人持ちで角帽を持っていて卒業してもずっと持っている存在だったものが、僕がコーチとして応援部に帰ってきた2018年に現役の子と話していたら、だいぶ事情が変わっていることに気付きました。そもそも僕たちが角帽を買っていた水野帽子店さんが2014年に閉業してしまって、角帽を扱う店がもうわずかしかないことが分かったんですよね。ずっとお下がりで使い続けていると壊れてきてボロボロになってしまうので、新しいものをどこかで調達しないといけないことに気がつきました。どこかの事業者さんと相談して新しく作っていこうと話し始めたのが2019年ごろですね。

――総責任者に就任された経緯は

笹山氏 コーチだった2021年の部員総会の中で僕が考えていることとして初めて発表したんですね。その後複数の関係者にご説明もし、かなり評価が高かったのですが、僕自身も2021年度末でコーチの任期が終わって「これで終わりだな」と思っていたところ、「最後までやれ」みたいな話があって、それで総責任者になりました。

――学生責任者に就任された経緯は

入鹿山 新人や2年生の頃は角帽が作れないことは全く知らなくて。3年生になってその事実を笹山さんから教えていただきました。その当時は角帽は先輩からのお下がりを何十年も使っていくものだと思っていたのですが、実はそうではなく新たに作るのも難しそうで。引き継いでいくことはいいと思うのですが、校旗や早稲田文化を守る意味で角帽はなくしてはいけないという認識はあって、3年生の時に(学年責任者の)お話をいただきました。

笹山氏 入鹿山が手を挙げたんだっけ? それとも1個上に指名されたんだっけ?

入鹿山 指名でしたね。

笹山氏 正式な役職ではないもんね。あと(角帽を)引き継いでいくことはいいよね。

入鹿山 感慨深いですね。

笹山氏 分かる分かる。腕章と一緒に引き継ぐっていい行為だよね。それがなくなるのも良くないから、それはそれで残したいね。

入鹿山 個人的にはそう思いますね。

笹山氏 そういうのはありだなと思う。でもそれをずっと続けられるかというとそうでもないんだよね。

入鹿山 ボロボロになっているものもあるので…

笹山氏 そうだよね。

――笹山さんは総責任者として具体的にどのような活動をされていますか

笹山氏 角帽を扱うプロジェクトなので、どうしても大学との交渉も必要になります。僕たちを統括しているのは競技スポーツセンターなので、まずそこに企画書を持っていって、大学の関係各所との調整も進めていただくことになります。学生だけで進められる部分はたくさんありますが、部の指導者として前に出なければならない部分があって、そこに関しては僕が進めています。あとは応援部や早稲田スポーツ、大学の歴史のマニアでもあるので、プロジェクトが誤った方向に進まないように人脈や知識や知見を提供するアドバイザー的な役割も果たしています。

――入鹿山さんは学生責任者として具体的にどのような活動をされていますか

入鹿山 部内向けの仕事が主になります。角帽を新たに作るのが厳しくなっていることは僕もこの件で初めて知ったので、少なくともリーダーにはちゃんと認知してもらうようにしています。

笹山氏 この間の早慶戦前の部員総会で入鹿山が角帽復活プロジェクトについて部員全員に周知する機会もありましたね。

入鹿山 一番近い存在が部員なので、OBの方々に頼るばかりではなく、できることは現役の部員でやっていくようにしています。

笹山氏 部員の保護者へのメールも打ってもらったりしています。

――お二人はどのように連携を取られていますか

笹山氏 LINEやメール中心で必要な時にZOOMもしていますね。なかなか対面で会えるチャンスが少ないので。

――このプロジェクトをやって良かったことはどのようなことですか

笹山氏 クラウドファンディングを始めるまでは想定していなかったこととして、応援メッセージがたまってきていますね。寄付をしていただくと応援メッセージを書き込めるシステムになっています。それを見ていると純粋な「頑張れ!」という言葉もありつつ、自分の角帽とのエピソードを教えてくださる方もいっぱいいて。「早稲田4代目です!」みたいな方や「親父が生きていて、このプロジェクトを知っていたら寄付したがっていただろうなぁ」みたいな方、あとは「私の娘が早稲田を目指して受験勉強中です!」みたいな方だったりとか。クラウドファンディングが始まるまでは想定していなかった、自分と角帽の関わりを教えてくれる方がたくさんいて、貴重な証言で僕らが知りえなかったことだと思っています。このクラウドファンディングを通じて皆さんのエピソードを引き出して集めることができたのはすごくいいことだと思っていますね。エピソードが集まること自体が、クラウドファンディングが終了したあとに企画になるんじゃないかなという気がしています。例えば『早稲田学報』に記事を載せて「あなたの角帽エピソードをお待ちしています!」みたいな。それ自体も角帽復活プロジェクトの一つとしてクラウドファンディングが終わったあとに成立するんじゃないかなと考えています。

入鹿山 最近、応援部の80周年式典があったのですが、年代問わず多くの人が(角帽復活プロジェクトを)支持してくださって。角帽が100年以上続いてきた伝統であることを改めて実感することができて、力になりました。あとはクラウドファンディングをやることで応援部外からの声もいただいていて、OBやOGの方ももちろんなのですが、現役の学生の方からも声がもらえているのはすごくうれしいですね。「やって良かったな」と実感しています。

笹山氏 クラウドファンディングが世の中に広がっていって、早稲田のOBやOGだったり、あるいは学外の人からも「早稲田といえば角帽だったはずなのに今はそんなことになっているんですね、ささやかではありますが支援します」というようなお話をいただいたりして、支援の輪が広がっていって、可視化されるようになって、充実感を感じています。

――角帽復活プロジェクトの理想はどのようなものを描いていますか

笹山氏 200万円に達するこれまでの道のりの中で課題が浮き彫りになったと感じています。支援してくださっている方々のエピソードや属性を考えると、どうしても50代以上がボリューム層であることが分かったんですよね。その反面、このプロジェクトの最終目的は早大生たちに角帽を自分たちのものだと思ってもらうことなので、このクラウドファンディングは果たして現役の早大生に刺さっているかはまだ分かっていないです。今まさに大学と調整している中でネクストゴールを設定しようとしています。今までは200万円をゴールと考えていましたが、さらに新しいゴールを設定してさらにご支援を募っていく予定です。そしてその過程で新しい目標を設定しようと進めていて、次の100万円にこそ明確に早大生に角帽の文化を啓蒙していくゴールをつくろうとしています。例えばその一つが、大学のあらゆる行事で角帽を啓蒙する機会を設けていくことです。新しく「角帽デー」あるいは「角帽の日」を大学の公式の記念日にしていただいて、角帽を広く啓蒙しようと考えています。そのPR資金としても新たに資金を調達しようと考えています。例えばSNSで角帽に関する投稿を一斉に発信してもらうようなキャンペーンを実施したり、実際に角帽を被れるようなフォトスポットを作って画像を発信してもらったり、、みたいな感じですね。

入鹿山 実際の学生に配るのは値段的に厳しいと思うのですが、紙製の角帽を応援部のグッズとして早慶戦などでかつては配布していたので、それを復活させたいですね。昔の写真を見ていると角帽を被っている早大生が本当に多いので、それを紙というかたちで復活できないかなと思っています。ワセメシや早稲田文化があると思うのですが、その中に角帽というものも入ってきたらうれしいですね。その足掛かりとして、手軽に手に入れられる紙製角帽が作ることができたらいいなと思っています。

笹山氏 昔は紙製の角帽を早慶戦の応援グッズとしてたくさん作っていたのですが、今は作っていないんですよね。タオルやチアスティック、クリアファイルなどの新しい応援グッズに代わられてしまって。早稲田の象徴は角帽であると啓蒙していくためにも、この紙製角帽を早慶戦で復活させる取り組みは大事だと思っています。資金の問題があるので、最初はクラウドファンディングで調達したお金で作らせていただいて、それをオープンキャンパスなどで配れたらいいなと思います。「早稲田って角帽がシンボルなんだよ」というところを早稲田を目指す学生に知ってもらうところから地道にやっていこうと思っています。一方で、新入生に対しては大学としっかりと連携をして、入学式の配布物の中に入れてもらうこともできるかなと思っています。考えられることや、やらなきゃいけないことはいっぱいあると思います。

――掲げている目標である「①新規需要の創出と提案、発信、②永続的な生産体制の構築、③大学と連携した販売体制の構築」のうち、②に特化した200万円のクラウドファンディングは見事達成されました。「①新規需要の創出と提案、発信」について具体的に取り組んでいきたいことは

笹山氏 ①に関して言うと、野球の早慶戦がコロナでしばらくリアルで応援しに行くのが難しい時期がありました。コロナがようやく落ち着き始めて、リアルの応援が戻りつつある中で、早慶戦がいろいろな早大生が集まるいい機会になると思います。例えば早慶戦では必ず角帽を被ったりして新しいカルチャーを僕らの方から提案して拡大していくことも必要かなと思います。あるいは(本庄~早稲田)100キロハイクや早稲田祭やオープンキャンパスなどの大学の大きな行事の時に角帽を被ってもらって、被ってもらった人への特典も僕らのプロジェクトから発信していって、少しずつ角帽の所有率や着用率を上げられるような取り組みをしていきたいです。

――「③大学と連携した販売体制の構築」について具体的に取り組んでいきたいことは

笹山氏 今、角帽を売っている店が早稲田近辺で非常にわずかになってしまいました。このままではゼロになってしまう危機感があります。ただ、角帽は大学の校章が入っている関係で僕らが勝手に作って勝手にネットで売れるものではないんですね。必ず大学が認めた販売窓口で売ることになっているので、大学と調整して販売体制の整備に着手し始めたところです。

――後輩にはどのようなことに取り組んでもらいたいですか

入鹿山 角帽を着用しているのが応援部と野球部と一部の団体になっているので、そうではなくて早大生全体が被っていいものであることをちゃんと周知していってほしいですね。

――第一目標の200万円に到達した感想を教えてください

笹山氏 正直僕は200万円に達するのは相当厳しいと思っていました。元々クラウドファンディングの期間は1カ月間だけの予定でした。入鹿山君の引退と一緒のタイミングにしようと思っていたのですが心配になってしまって。クラウドファンディングのサイトの最長期間の1月12日にさせてもらいました。その期間内に200万円が達成できるように応援部として頑張っていこうと思っていたのですが、まさか2週間で達成するとは思っていなかったです。途中で大手メディアさんに取り上げていただいたりしていろいろな広がりを見せてくれていったのが金額の達成以上にうれしかったですね。このプロジェクトにかける期待が相当大きいことを実感させられました。

入鹿山 笹山さんと同じにはなりますが、金額も金額ですし、厳しいかなとは思っていたのですが、達成できたことでほっとしました。多くの人に協力していただいているので、その人たちにも達成したことを報告したいです。角帽復活のためにも必要な資金だったので。クラウドファンディングで終わりではないので、今後のためにも今回まずはクラウドファンディングの第一目標金額を達成できたのは良かったのかなと思います。

――今後のクラウドファンディングの目的を改めて教えてください

笹山氏 200万円のクラウドファンディングは掲げている目標のうち、「②永続的な生産体制の構築」に焦点を置いていました。ですが、角帽って帽子屋さんにすぐに頼んでできるわけではなくて、帽章や耳章の部分は金属でできているので、金属成形の新たな金型が新たに必要になってきます。その金型や試作品を作る製作費がかかります。あとは帽子のつばやあごひもの部分が革製なので、素材の検討や試作が必要になります。早稲田大学の校章も入ったりしてイニシャルコストが大きかったのですが、第一目標の200万円の中で調達していこうというところでした。逆に200万円があれば初期費用はまかなえるので、次の新たな100万円でもって「角帽デー」や紙製角帽の復活、配布の費用あたりをまかなおうと思っています。あとは現役のリーダー部員に対して新しく作った角帽を全員に配布することも新たな100万円の中で収められればと思っています。

――最後にこの記事を読んでいる方にメッセージをお願いします

笹山氏 まずは読んでいただいている方の中で今までご支援をしていただいた方に御礼の言葉を申し上げたいと思います。200万円のクラウドファンディングを募る中で新たな課題や目標が生まれました。その目標を達成するためにさらなるご支援をお願いしたいと考えています。もし現役の早大生で記事を読まれている方がいらっしゃったら、角帽は自分たち早大生のものであるという認識を強く持ってぜひプロジェクトに参加してほしいです。

入鹿山 まずは角帽復活プロジェクトに興味を持ってくださってありがとうございます。もちろん既に支援してくださった方にも感謝を申し上げたいと思います。角帽のことを知らない学生も多いと思いますが、早稲田文化を守っていくためには現役の学生の力が大事になってくると思うので、他人事と思わずに少しでも協力してもらえればありがたいです。

笹山氏 クラファンは単なる寄付とは違って、寄付した人がプロジェクトを「自分事」化してくれるものだと思うんですよね。自分がプロジェクトに関わって成功のカギを握っていると感じることができるので、他人事だと思わずに自分たちの問題としてプロジェクトに参加してほしいです。