強い鹿児島を取り戻す――。 前回王者の連覇を阻んだのは、そんな確たる信念だった。 全国高校サッカー選手権大会準々決勝。…
強い鹿児島を取り戻す――。
前回王者の連覇を阻んだのは、そんな確たる信念だった。
全国高校サッカー選手権大会準々決勝。大会連覇を狙う昨年度優勝の青森山田(青森県)が、同校史上初めてベスト8で敗れた。
過去に優勝候補として選手権に臨みながら、大会序盤(1~3回戦)で足をすくわれるケースはあっても、準々決勝まで駒を進めることができれば、必ずベスト4へ進出する。それが、青森山田の強さだった。
特に最近の4大会はすべて決勝に進出し、優勝2回、準優勝2回。"令和の絶対王者"にとって準々決勝は、単なる通過点となっていた。
だが、そんな歴史にもついに終止符が打たれた。
もしかすると、この試合が時代の転換点となるかもしれない。そんな一戦で主役を務めたのは、神村学園(鹿児島県)である。
神村学園は、試合序盤からボールポゼッションでは上回りながら、前半34分に自陣での不用意なボールロストから失点。「今年は守備を強化してきた。1点取って守りきるのが、今年の青森山田の戦い方」(青森山田・正木昌宣監督)であることを考えれば、試合は最悪の展開で進んでいるかに思われた。
ところが、「みんな、慌てることなくできた」とは神村学園のキャプテン、MF大迫塁の弁。
キャプテンの言葉を裏づけるように、後半に入って攻撃姿勢を強めた神村学園は、後半56、60分と立て続けにゴールを奪い、たちまち2-1と試合をひっくり返した。

神村学園が王者・青森山田を下して4強へ
自信の源となっていたのは、昨年12月のプレミアリーグプレーオフ(翌年のU-18プレミアリーグ入りをかけた参入決定戦)。ここでセレッソ大阪U-18に2-1と逆転勝ちした神村学園は、この勝利をきっかけに「劣勢でも粘り強くやれている」(神村学園・栢野裕一監督代行)という。
今大会でも、初戦(2回戦)の山梨学院(山梨県)戦は先制されながら、前半のうちに逆転。後半に一度は追いつかれるも再び勝ち越して、3-2と勝利している。栢野監督代行が語る。
「積み上げてきたものを出せている。そこは成長。(前半劣勢でも)後半勝負ということで余裕を持ってやれている」
とりわけ神村学園らしさ、すなわち、ボールを保持して攻撃を組み立てるスタイルが存分に表れていたのは、青森山田戦での2点目のゴールだ。
相手の決定機をGK広川豪琉が防いだ直後、神村学園はクリアで逃げずにパスをつなぎ、大迫が自陣右サイドのゴールライン手前でボールをキープ。そこへMF高橋修斗がサポートに入り、青森山田のプレスをかいくぐると、高橋からのパスを受けたFW西丸道人がドリブルで前進し、左から上がってきたMF名和田我空へ一度ボールを預け、自身はゴール前へ。
バイタルエリア右で名和田からのリターンパスを受けた西丸が、カットインしながら左足でシュートを放つと、最後はDFに当たってこぼれたボールを、エースストライカーのFW福田師王が左足で押し込んだ。
ピッチの縦いっぱい、およそ100mもの距離を1本のロングボールではなく、パスとドリブルを巧みに組み合わせて前進し、最後はペナルティーエリア内に5人が詰める。これほど厚みのある攻撃を仕掛けられては、さすがの青森山田も防ぐことはできなかった。
「神村の攻撃は自分から始まる。自分が(ボールに)触ることで、得点の確率も不思議と上がる」(大迫)
「狙っていたので、こぼれてきてよかった。(左足の)アウトでチョンとつついて、相手に触られないように早く打った」(福田)
試合はその後、青森山田が前線の枚数を増やし、サイドからの攻撃を仕掛けるも決定機には至らず、2-1のまま試合終了。
青森山田の連覇の夢を打ち砕いた神村学園が、初出場だった85回大会以来となる、16年ぶりのベスト4進出を果たした。
体調不良の有村圭一郎監督に代わり、今大会初戦からチームの指揮を託されている栢野監督代行が語る。
「『強い鹿児島を取り戻す』と言ってやってきた。今は青森山田が(かつての)鹿実(鹿児島実)みたいになっているが、時代を変えたい、(青森山田とは)違うサッカーで日本サッカーを盛り上げたい、と思ってやってきた。(この勝利で)新しい時代、ひとつの歴史を作った部分があるのではないかと思う」
その言葉どおり、かつての選手権を振り返ると、鹿児島実が全国屈指の強豪校としてその名をとどろかせていた時代が確かにあった。過去に2度の選手権制覇を成し遂げているばかりでなく、遠藤保仁、松井大輔ら、数多くの名選手を輩出してもいる。
だが、"鹿実以後"の鹿児島県勢はというと、鹿児島城西と神村学園が2強を形成するも、選手権優勝はなし。大迫勇也を擁した鹿児島城西が87回大会で準優勝したのを最後に、優勝はおろか、ベスト8進出すら神村学園が88回大会で一度あるだけだ。
鹿児島県勢にとっての選手権は、すっかり高い壁となってしまっていた。
対照的に、鹿児島県勢と入れ替わるように強豪校へとのし上がってきたのが、青森山田である。
鹿児島城西が準優勝した翌年(88回大会)、選手権で初の決勝進出を果たした青森山田は、95回大会で選手権初優勝。94回から今大会までの8大会で優勝3回、準優勝2回、3位1回と、圧倒的な実績を残している。
フィジカル面を鍛え、攻守の切り替えを磨き、勝利のために徹底的に無駄を削ぎ落した青森山田のサッカーは、ボールを保持した攻撃的なスタイルを志向するチームにとっての鬼門となって立ちはだかってきた、と言ってもいいだろう。
だが、そんな王者・青森山田を向こうに回し、しかも相手の勝ちパターンに持ち込まれながら、神村学園は逆転勝利。「ひとつの歴史を作った」という表現も、あながちで大げさではないのかもしれない。
「試合前から、歴史を変えようという意気込みだった」(福田)
ドイツの名門、ボルシア・メンヒェングラートバッハ入りが決まっている福田、同じくセレッソ大阪入りする大迫と、どうしても二枚看板ばかりが注目を集めがちな神村学園だが、それ以外のタレントも豊富にして多彩。青森山田戦では、交代出場の選手が貴重な働きを見せ、逆転勝利に貢献した。
また、次の岡山学芸館との準決勝では有村監督も復帰し、ベンチで指揮を執れるとのこと。前回王者を退けて勢いに乗るチームは、いよいよ初の全国制覇へ向け、最高の状態が整いつつある。
「ここから強い鹿児島を取り戻せたらいい」(栢野監督代行)
鹿児島県勢が14年ぶりに国立の舞台に帰ってきた。