1月4日から始まる春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)。前回大会、女子は就実高校(岡山)、男子は日本航空高校(山梨)が初優勝を飾ったが、今年はどうなるのか。優勝候補の高校や注目選手を見ていこう。男子注目の東山3年・麻野堅斗(…

 1月4日から始まる春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)。前回大会、女子は就実高校(岡山)、男子は日本航空高校(山梨)が初優勝を飾ったが、今年はどうなるのか。優勝候補の高校や注目選手を見ていこう。


男子注目の東山3年・麻野堅斗(左)と女子注目の共栄学園1年・秋本美空

  photo by 坂本清、Sankei Visual

 男子はまず、昨年のインターハイを制した東山高校(京都)。現役時代に日本代表でもプレーした松永理生監督は、現日本代表の主将・石川祐希が在学していた時の中央大学の監督で、2019年に東山高校のコーチに赴任してからは髙橋藍などを指導。翌年の春高で日本一になり、昨年の春に監督となってからもインターハイで全国を制するなど勢いもある。

 注目選手は、シニア代表にも登録されているレフティーのミドルブロッカー、麻野堅斗(3年/207cm)。姉の七奈未(デンソーエアリービーズ)も2022年度の女子代表に登録される"エリート姉弟"だ。日本の長身選手にありがちなもっさりとした動きはなく、俊敏なプレーを見せる。昨年の春高では、男子では珍しいブロードも披露した。

 昨秋に行なわれた国体ではエースの尾藤大輝(2年)が不在だったため、ハイセットを託される場面も多かった。本人は「まだ代表で試合に出場できる力はない」と謙遜するが、長く男子日本代表の"泣きどころ"と言われてきたミドルブロッカーの期待の新星。左利きを活かすために、将来的にオポジットに転向する構想もあるとも言われているが、どちらにせよ日本代表を支える選手になるだろう。

 前回の春高の決勝で、日本航空とフルセットの激闘を演じた鎮西高校(熊本)も優勝候補のひとつ。前年の王者として迎えた昨夏のインターハイでは、準決勝で東福岡高校(福岡)に敗れて涙をのんだが、国体では日本一に輝いた。

 かつてはエースの舛本颯真(3年/182cm/アウトサイドヒッター)が打って打って打ちまくる、「戦術舛本」とも言われるほどのワンマンバレーだった。しかし国体では舛本が右足を痛めたこともあり、適度に他のアタッカーにもトスが散らされ、勝負どころで舛本が決める新たな得点パターンが築かれた。舛本も「平田悠真(3年)、井坂太郎(2年)が打ちきってくれたので、自分も最後に力を振り絞れた」と仲間をたたえた。

 迎える最後の春高。イエローのユニフォームもお馴染みの、伝統の強豪校ゆえのプレッシャーもあるだろうが、年度をまたいでの3冠を達成できるか。セッター平川天翔(3年)のトスワークとともに注目したい。

 ダークホース的な注目校は、春高初出場の昇陽高校(大阪)。昇陽中学3年時にJOC杯で優勝し、全日本中学選抜でもプレーした逸材の秦健太郎(3年/193cm/アウトサイドヒッター)がチームを牽引する。秦は「強いチームを倒して日本一になる」という目標を掲げて昇陽に進学。3年目で全国の切符を掴み、「初めてなので楽しんでやります」と屈託なく答える18歳の躍動と、「初出場で初優勝」にも期待もかかる。

 そのほか、インターハイ準優勝の東福岡、インターハイ、国体ともにベスト4で天皇杯にも出場した松本国際高校(長野)も虎視眈々と上位を狙う。

 一方の女子は、インターハイ優勝、国体3位の金蘭会高校(大阪)が優勝候補の筆頭に挙がる。U20代表にも選ばれた上村杏菜(2年/168cm/アウトサイドヒッター)は「身長は関係ないというところを見せたい」と話す強気のスパイカー。昨夏に行なわれたアジアU20大会では相手国の高いブロックを次々に打ち破り、チームを優勝に導いてMVPを受賞。そこで自信がついたのか、インターハイでも高校生トップクラスのパワフルなスパイクで、金蘭会を8年ぶりの日本一に導いた。

 チームとしては、徳本歩未香(3年/152cm/リベロ)なども含めてアンダーカテゴリーの日本代表に5人が選出される層の厚さが強み。春高でダブルヘッダーになった場合は、他の高校にはできない選手の使い分けもあるかもしれない。総力を挙げて今季2冠目を狙う。

 国体優勝を果たした古川学園高校(宮城)は、昨年の春高は準優勝、2021年はベスト4だったこともあって「今年こそ優勝」という思いが強い。インターハイ終了後、岡崎典生監督はミドルブロッカーだった阿部明音(3年/172cm)をレフトにコンバートし、2年生の本田凛和(180cm)を新たなミドルブロッカーとして抜擢するなど思いきった策を講じ、ここに臨む。

 3年のタピア・アロンドラ(U23ドミニカ共和国代表/196cm/ミドルブロッカー)の高さは圧倒的。ドミニカ共和国出身の彼女はブロードを打ったことがなかったが、古川学園で学んでからは大きな武器のひとつになった。ミドルブロッカーではあるものの、レフト、ライト、バックからでもボールが上がれば打ち込むことができる。


古川学園3年の196cmミドルブロッカー、タピア・アロンドラ

 photo by坂本清

 今回の春高は、母親が初めて来日するとあって特別な思いも。有観客試合は準決勝からのため、「準決勝までは絶対いかないと!」と心に決めている。その先に見せたいのは、もちろん日本一になった姿だ。

 もうひとり、女子の注目選手として挙げたいのが、共栄学園高校(東京)の秋本美空(1年/183cm/ミドルブロッカー・オポジット・セッター)だ。

 母はロンドン五輪銅メダリストの大友愛。春高予選では3位決定戦にまわり、勝てば春高出場、負ければ終わりという試合でのびのびと打ちまくり、チームを春高へと導いた。2021年度の全日本中学選抜認定選手で、2022年度のU18代表にも選ばれている。将来の目標は、母と同じ「オリンピックでメダルを獲ること」。後衛ではサーブレシーブに入り、セッターも経験するビッグルーキーが、春高のコートに立つ。

【著者プロフィール】
中西美雁(なかにし・みかり)

名古屋大学大学院法学研究科修了後、フリーの編集ライターに。1997年よりバレーボールの取材活動を開始し、専門誌やスポーツ誌に寄稿。現在はweb Sportiva、バレーボールマガジンなどで執筆活動を行なっている。『バレーボールスピリット』(そしえて)、『バレーボールダイジェスト』(日本スポーツ企画出版)、『球萌え。』(マガジンハウス)『全日本女子バレーコンプリートガイド』(JTBパブリッシング)などを企画編集。スポルティーバで西田有志の連載を担当