ドイツ卓球ブンデスリーガのノイ・ウルムから12月4日、張本智和(IMG)が待望のヨーロッパチャンピオンズリーグ(ECL)デビューを果たした。 現在、世界ランク2位の"大型新人"は堂々の2点起用で、チームの大黒柱であるオフチャロフ(ドイツ)と…

ドイツ卓球ブンデスリーガのノイ・ウルムから12月4日、張本智和(IMG)が待望のヨーロッパチャンピオンズリーグ(ECL)デビューを果たした。

現在、世界ランク2位の"大型新人"は堂々の2点起用で、チームの大黒柱であるオフチャロフ(ドイツ)とのダブルエースとして2勝を挙げ、ノイ・ウルムに勝利をもたらした。

張本は引き続きドイツに滞在し、13日に開催されるリーグ第2ステージ最終戦のデコルグラス・ジャウドヴォ(ポーランド)戦に向け調整練習を行っている。

試合の様子

ECLは欧州卓球リーグの上位チームで競う欧州最強クラブ決定戦だ。

ノイ・ウルムはECL初出場ながら、東京2020オリンピック男子シングルス銅メダルのオフチャロフや同4位の林昀儒(台湾)、世界卓球2021ヒューストン男子シングルス銀メダルのモーレゴード(スウェーデン)らスター選手を揃える。

張本はドイツにいる間、ブンデスリーガの名門クラブで知られるボルシア・デュッセルドルフの本拠地DTTZ(ドイツ卓球センター)を練習拠点にしている。ボルシア・デュッセルドルフにはドイツの皇帝ボルや躍進著しいチウ・ダウン(ドイツ)らが所属し、現在リーグ首位を走る。

張本智和

また、ここはドイツナショナルチームのトレーニングセンターでもあり、ちょうど男子代表チームが合宿を行っている最中だ。

そのため11月29日にドイツ入りした張本も施設内の宿舎に寝泊まりし、オフチャロフやフランツィスカ、チウ・ダンらドイツのトップ選手たちと存分に打ち合える恵まれた環境に身を置く。

移動中の張本智和

その張本がECLデビューの地ノイ・ウルムに入ったのは12月3日のことだった。前日の2日にデュッセルドルフ中央駅から高速鉄道ICEで3時間半ほどかけウルム中央駅に到着したが、出発時には車両故障で電車が1時間以上も遅れるアクシデントに見舞われた。

時間に正確な日本と違って、ヨーロッパではこれがスタンダード。張本にとっては初めての経験だったが慌てることなく無事ウルム中央駅に到着した。

ウルム中央駅からノイ・ウルムの試合会場までは車で20〜30分で、宿泊ホテルと会場の往復はクラブの送迎があるが、デュッセルドルフとの往復は電車の時刻を調べるのもチケットを取るのも全て自分の仕事。

もちろん荷物も自分で運ぶため、大型のスーツケースを引いて、今回練習パートナーとして渡独している木造勇人(個人)と董崎民コーチと(三崎クラブ)と一緒に移動した。

試合を観戦する張本智和

試合前日の3日にはブンデスリーガのノイ・ウルムvsマインツ戦があった。この試合を張本はスタンドで観戦。ブンデスリーガを会場で見るのは初めての経験だ。

マインツではカットマンの村松雄斗(La.VIES)がエースとして出場し、自身は2勝を挙げながらチームが惜敗した村松を張本と木造が労った。

村松はヨーロッパの男子選手に少ないカットを武器に目下、ブンデスリーガの選手ランキング1位に立っている(2022年12月8日現在)。

村松雄斗(右)と談笑する張本智和と木造勇人

試合後はチームメートのオフチャロフとズムデンコ(ウクライナ)、木造と練習し、夜はクラブオーナーのフロリアン・エブナー会長主宰の夕食会に出席。張本は隣席のオフチャロフと話をしながら食事を楽しんだ。

2人の会話は英語だ。中国語が堪能な張本だが、英語もめきめきと上達している。

サイン会に参加する張本智和

翌日の試合は現地時間13時に開始。相手はスポルティング(ポルトガル)。会場は学校の体育館と小規模ながら、世界ランキング2位のスーパースターを一目見ようと大勢の地元ファンが押し掛けた。

熱気に包まれる会場で、張本は第1試合と第4試合に出場したが、第1試合の立ち上がりはさすがに動きが固く1ゲームを先取された。

「初めてのチャンピオンズリーグの舞台で少し不慣れだった」と本人。

しかし、2ゲーム目以降は本来の調子を取り戻し、第1試合をゲームカウント3-1、第4試合はストレートで圧勝。目の肥えたドイツの卓球ファンを熱狂させた。

その応援たるや、張本の持ち前の雄叫びもかき消すほどで、「今まで感じたことのない熱気や声量だったり、太鼓だったりでちょっとびっくりしましたけど、選手としてこんなに嬉しいことはありません」と張本も喜びを口にした。

ベンチでのオフチャロフと張本智和

先に1ゲームを奪われた際にはベンチのオフチャロフからアドバイスをもらったといい、「『相手はリスクを負って打ってるだけだから、何も変える必要はない。焦って自分から攻めたりする必要はない』と言われたので、僕より十何年も長い間、世界で活躍してきた経験というのは本当にすごいんだなって感じました」と明かした。

一方、オフチャロも「新しいチームでの初戦だったので少しストレスを感じたと思うけど、それが普通。誰もがそうだから。第1ゲームは相手のペースだったけど、彼は自分を落ち着かせて強さを保ち、素晴らしいプレーをした。良いスピリットをチームと観客にもたらしてくれたね」と新たなチームメートのECLデビューと初勝利を称えた。

ノイ・ウルムの応援ハリセン

次戦は13日、デコルグラス・ジャウドヴォ(ポーランド)とのアウエー戦に挑む。

スポルティングよりも格上のチームで11月30日に行われた両チームの試合では41歳の大ベテラン小西海偉がオフチャロフを破る大金星を挙げている。張本もこの一戦には強い思いがある。

「世界卓球2021ヒューストンで負けたディヤスがいるチームなので、個人的にもリベンジしたいですし、次で勝てばリーグを1位で抜けられるので全力で勝ちにいきたい」

ポーランドまではまた鉄道移動で、今度は木造と董コーチが帰国してしまうため一人旅だ。

やや不安そうではあるが、貪欲な19歳は「自分が卓球選手でいるうちは全てを経験し、それを力に変えて、まだまだ強くなれると思う」とプラスに捉えている。


(文・写真=高樹ミナ)