日本ボクシング史に残る歴史的瞬間が間近に迫っている。 12月13日、WBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は、有明アリーナでWBO同級王者ポール・バトラー(英国)と対戦する。ここで井上が勝てば、日本初の4団体統…

 日本ボクシング史に残る歴史的瞬間が間近に迫っている。

 12月13日、WBAスーパー、WBC、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は、有明アリーナでWBO同級王者ポール・バトラー(英国)と対戦する。ここで井上が勝てば、日本初の4団体統一王者が誕生するのだ。



4団体統一戦の記者会見で意気込みを述べた井上尚弥

「圧倒的優位」と目される試合で井上はどんな戦いを見せてくれるのか。バトラーはどこに勝機を見出せばいいのか。注目の一戦を前に、アメリカのボクシング専門サイト『BoxingScene.com』のシニアライターであり、全米ボクシング記者協会(BWAA)の副会長も務めるジェイク・ドノバン記者に試合の見どころを尋ねてみた。

 34勝(15KO)2敗という戦績を積み上げてきた33歳のバトラーも堅実な好ボクサーではある。しかし、何度形を変えて聞いても、ドノバン氏の口からバトラーが善戦するシナリオは出てこなかった。その背景には、「世界最高のボクサーかもしれない」「周辺階級にもモンスター(井上)に勝つことを予想できる選手は見当たらない」と言いきるほどの、ドノバン氏による井上への高評価がある。

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 井上が日本初の4団体統一王者になるという歴史の重みは理解できます。この試合が比較的早い段階で実現したことも嬉しく思っています。バトラーのトレーナーを務めるジョー・ギャラガーは大好きな人物ですが、この試合は「井上が圧倒的に有利」と目されており、実際にそうであって然るべきなのでしょう。

 最近ではローマン・ゴンサレス(ニカラグア/帝拳)、ファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)といった軽量級の強豪たちが、アメリカでもビッグファイトを行なうようになりました。ただ、同じ軽量級のボクサーでも、井上こそが「世界最高のボクサー」かもしれません。井上はおそらく、世界で最も才能に恵まれた選手であり、12月13日の試合はそれがわかりやすい形で示される舞台になると考えています。

【井上にはまったく弱点が見当たらない】

 ここで予測を巡らせておくなら、序盤からワンサイドの展開となり、井上のKO勝ちで決着がつくと私は見ています。バトラーのタフネスは過小評価されており、そう簡単に倒されてしまうことはないかもしれない。だからラウンドを重ねることになっても不思議ではありません。しかし、先ほども話したとおり井上は世界最高級のボクサーであり、同時に最高級のフィニッシャーでもあります。6ラウンドに井上が鮮やかなKO劇を完遂し、日本のファンを歓喜させると予想しておきます。

 この試合にバトラーが勝つようなことがあったら、WBO・WBC女子世界スーパーウェルター級統一王者ナターシャ・ジョナス(イギリス)のトレーナーでもあるギャラガーの今年度の最優秀トレーナー受賞は確定。バトラーも殿堂入り確定でしょう。それくらい差があるカードです。

 正直なところ、井上が負けるシナリオは想像できないですが......99%の確率で勝つと言っておきます。ボクシングの歴史ではクレイジーな番狂わせが起こるもので、もちろん何が起こるかはわかりません。バトラーが勝ったら、かつての衝撃的なマイク・タイソン(アメリカ)vsジェームズ・"バスター"・ダグラス(アメリカ)戦ほどではないにしても、日本人選手が絡んだ試合としては最大の番狂わせとして記憶されるはずです。

 私がそこまで言いきるのは、井上に弱点らしきものがまったく見当たらないからです。

 井上のほぼ唯一の苦戦は、2019年11月に行なわれたノニト・ドネア(フィリピン)との第1戦ですが、同じような展開に持ち込むためには井上の強烈なパンチを耐えなければいけません。井上は軽量級では最大級のパンチャーであり、同時に、思いどおりのスタートがきれなかったとしてもすぐに適応する"リングIQ"も備えています。

 スピード、パワー、技術だけでなく、聡明さまで最高級なのですから、本当に危険なボクサーです。バトラーは基本がしっかりとした好選手ではありますが、少々単調すぎるところがあり、井上に脅威を感じさせられるとは思いません。

【1階級上の王者にも「井上が勝ち抜く」】

 たとえこの試合がワンサイドの内容で終わったとしても、過去に誰も成し遂げていないバンタム級の4団体統一という偉業の価値を否定するつもりはありません。バンタム級では2団体王者はいましたが、3団体統一王者すら生まれたことがなかったのですから。

 井岡一翔(志成)がすでに4階級制覇を成し遂げましたが、井上も遠からずそれに続くでしょうし、それに加えてここでバンタム級の完全統一を成し遂げることは彼のキャリアのなかで大きな意味があります。特に井上は、それを成し遂げる過程ですべての対立王者に勝ってきているのだから、特別な価値があると思っています。

 バトラーに勝ったら、井上はスーパーバンタム級で4階級制覇を目指すのでしょう。できればWBC、WBO世界スーパーバンタム級統一王者スティーブン・フルトン(アメリカ)に挑戦してほしいものです。WBAスーパー・IBF同級統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)よりも、無敗のアメリカ人王者であるフルトンとの対戦のほうが楽しみです。

 井上には空位の王座を決定戦で得るのではなく、チャンピオンに挑んでほしいですし、本人もそれを希望しているはずです。フルトンにはフェザー級転向の話もありますが、どうにか井上とのビッグファイトだけは実現させてもらいたいですね。

 相手がアフマダリエフ、フルトンであろうと、私は井上の勝利を予想します。特にフルトン戦は井上のキャリアで最も厳しい試合になるでしょうし、接戦になるかもしれませんが、それでも最後は井上が勝ち抜く術を見つけるでしょう。私は井上のことをそれだけ高く評価しており、周辺階級にもモンスター(井上)に勝つことを予想できる選手は今のところ見当たりません。