スラムダンク奨学生USA奮闘記須藤タイレル拓(21歳)インタビュー@後編 スラムダンク奨学金13期生に選ばれたことをきっ…

スラムダンク奨学生USA奮闘記
須藤タイレル拓(21歳)インタビュー@後編

 スラムダンク奨学金13期生に選ばれたことをきっかけに、留学のため2年前にアメリカへと渡り、2022年11月からNCAA ディビジョンⅠのノーザンイリノイ大でシーズンをスタートさせた須藤タイレル拓(アメリカでの登録名はタク・ヤングブラッド)。

 彼にとって漫画『SLAM DUNK』は、井上雄彦氏が主宰するスラムダンク奨学生に選ばれるずっと前から大好きな漫画だったという。そこでインタビュー後編では、漫画『SLAM DUNK』についての想いをたっぷりと語ってもらった。

 漫画の内容について語っているのだが、どのシーンを振り返っても、話は彼自身のバスケットボールに対する姿勢や理想像へと広がっていく。それだけ『SLAM DUNK』は彼の選手としてのあり方に大きな影響を与えた漫画だったことがうかがえる。

NCAAデビューを果たしたスラムダンク奨学生「これが自分の選んだ道」

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須藤タイレル拓にとって『SLAM DUNK』とは?

── 日本では12月に、井上雄彦さんが自ら監督・脚本を務めたアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』が公開されます。見たいですよね。

「めちゃくちゃ見たいです。相当、いいものになるんじゃないですかね。こっち(アメリカ)で公開しないかな」

── 日本では12月3日が封切だそうです。

「12月公開だと、まだ日本には帰れない......。12月23日がクリスマス前最後の試合で、1月3日にはまた試合だから、すぐ戻ってきて練習だと思うので、たぶん3日間くらいしかオフはないですね。ま、お母さんに感想を聞きます」

── お母さんに代わりに見てもらう?

「はい。お母さん、絶対に見に行くと思うんで」

── 漫画『SLAM DUNK』は全巻、持っているんですよね?

「はい。実家のベッドの枕元に置いてあります。寝た時、頭上にダーって並んでますよ。暇な時に読んで、いつも友だちと話したりしていました」

── 以前の取材で一番好きなシーンについて聞いたら、山王戦で湘北のシュートが全然決まらない時、三井寿がひとりでスリーポイントを決めてチームを引っ張っていた場面を挙げていましたね。

「あのシーンはハンパじゃないですね」

── それは、みんながうまくいっていない時にチームを引っ張れるような選手になりたいということですか?

「そうですね。みんな(の流れ)が回っていない時、自分がチームを引っ張っていけるような選手になりたいですね。去年もおととしも、STM(セントトーマスモア)ではそういう意識でやっていて、その結果ここまできたので。ここ(ノーザンイリノイ大)が自分の今までの人生のなかで一番大きなチャプターだと思うので、しっかりやっていきたいなって考えています」

── ほかにも『SLAM DUNK』で印象に残るシーンはありますか?

「赤木(剛憲)が(海南大附属戦で左足首を)ケガした時も、なかなか(心に)きましたね。自分もすぐどっかが痛んだりして、ケガが多いタイプの選手なので。

 ケガした赤木が『テーピングだ!』って叫んで、テーピングしてもらってすぐ試合に戻るシーンは、けっこう好きなんですよ。つえー、すげー、と思います。気合いが違うなって。自分も本当に歩けないぐらいのケガじゃないかぎり、『テーピング!』『コーチ、大丈夫です』って言って、すぐ行きます。

 なんか、日本感がありますよね。気合いで乗りきるって、アメリカ(のマインド)ではないじゃないですか。だから日本人ってすごいなと思います。日本のアニメって『鬼滅の刃』でも『NARUTO -ナルト-』でも、絶対に全部どこかに"気合い"が出てくるんですよ。

 やっぱり、その気合いってのがすごく大事なんだなと思いました。こっちではそういう文化がないから。コンディショニングも、アメリカでは試合のためという感じですけど、僕ら日本人からしたら気合いを鍛えるトレーニングじゃないですか。僕は高校時代、先生から厳しい言葉を浴びながら走っていたので、それがあったからこそ今は(つらい練習も)全然気にならないですし」

──『SLAM DUNK』のなかで一番好きな言葉は?

「ずっと『バスケがしたいです』が一番好きでしたね。その気持ちが自分もすごく強かったから。高校でも怒られて練習させてもらえない時期がすごく多かったんです。だからそういう時、その言葉がいつも出てきましたよね。

『バスケしたいな、バスケしたいな......』って思いながら、ずっと(罰として)学校内の掃除をしていました。体育館の下の階で『あー、バスケしてえなー』と思いながら掃除をして、先生が来たらすぐ走って謝りに行く......みたいな、そういう生活だったんで。すごくありきたりな、みんなが選ぶようなフレーズですけど、自分的にはすごく沁みるんですよね」

── バスケット選手の気持ちとして、一番の根本ですよね。それを忘れなければ、壁があったり、苦しいことがあっても、乗り越えられると。

「そうですね。好きじゃなかったら続かないんで。やっぱり、バスケをした時はすごく楽しいから。バスケしてる時の自分が好きですし、チームメイトがシュートを決めた時は自分もうれしい。もちろん自分の成功もうれしいんですけど、それよりチームメイトがいいプレーしたり、いいハッスルプレーした時のほうが、なんか自分的にはうれしいんですよね。

 自分のやることは『これをしなきゃ』『よし、これができた』みたいに課題を1個1個チェックしていく感じなんですけど、味方がいいプレーすると自分の成功よりもうれしい。結局、ひとりじゃバスケはできないんで。周りがうまくいって、自分もうまくいくと、もう絶対、それはいい試合になる」

──『SLAM DUNK』がそういう漫画ですよね。いろいろなキャラクターがいるけれど、それぞれに持ち味があって、そしてチーム全員で戦っている。

「そうなんですよ。だから『SLAM DUNK』が大好きなんです。バスケ漫画だけど、人生漫画というか。人生として大事なことが、あの漫画には入ってるなと思います。

 人を思う気持ちとか、どれだけ自分が努力しなきゃいけないかとか、何かに対する思いだったりとか、チームとしての結束力だったりとか......。『SLAM DUNK』を読んでいると学ぶことが多い。だから(日本の)実家にいる時はしょっちゅう読むんです。バスケをしている人にも、していない人にも、誰にでもオススメしてます」

── 『SLAM DUNK』の登場人物のなかで、プレー的には流川楓が好きで、キャラクター的には桜木花道が好きだと以前は言っていました。流川のプレーはどんなところが好きですか?

「派手だけど、ちゃんと確実。しかも、相手の裏を突く。(ディフェンスが)ふたり寄って来たから、これは絶対にない(自分ひとりでは攻められない)と思うけど、そこからしっかりダブルクラッチで決めていくんです。

 誰か(ディフェンスのマーク)が来ても、上からダンクする。味方が空いていたら、自分で行くフリをして、そこにパスを出す。派手な時もあるし、シンプルな時もあるし、でもちゃんと確実っていうプレーがすごい好きなんです」

── 理想の選手像ですか?

「はい、そうですね」

── 性格的には桜木花道が好き、というのは?

「花道はすごく努力する。そしてすごく負けず嫌い。ずっと流川に向かっていくじゃないですか。『俺のほうがうまい!』って言うじゃないですか。でも、流川のほうがうまいんでボコボコにされて、試合の結果でも5試合連続ファウルアウトとかして......。

 それでも、結果的に主力選手になる。すごい"おとぼけキャラ"だけど、ちゃんと努力して、ちゃんと結果を出すっていうのが、すごい好きなんですよね」

── それも別の意味でお手本になりますね。

「そうですね。バスケしてきたこの11年間のなかで、(チームに)入ってすぐ自分が一番うまいっていうことは1回もなかったんです。全然メインの選手じゃなくて、そこから努力して努力して努力して、メインの選手になっていく......そういう人生だった。

 そういう意味でも、花道とマッチしている。完全に同じではないですけど。努力して、そのチームを引っ張っていけるような選手になる。今もまた、壁に当たってるんで。でも、この環境には慣れっこだから、ここからいつもどおり努力してやっていきます」

── 桜木花道になった気分で。

「はい。フンフンフンフン、フンフンフンフンってハンドリングして(笑)。また頑張ろうかなって思っています。でも、こういう環境のほうが自分、好きなんですよね。テングにならないっていうか。

 入ってすぐ『うまい』となると『俺が一番だぜ』みたいになって、何でもしていい感覚になるじゃないですか。そういう選手って嫌いなんですよ。常にstay humble(謙虚に)。ちゃんと地に足をつけていく環境が自分は好きなんです。

 僕はけっこう"浮かれ者"なので、余裕があるとすぐウワーって浮かれちゃうから、こういう環境に自分を置くのがすごく大事だと常日頃から思っています。チームを引っ張っていくような選手になったとしても課題はいっぱいあるので、それをしっかり頭に置いて。『これはできているけど、これはできてないじゃん』っていうのを、自分のなかの鏡とにらめっこしていくように意識しています」

── いつも高いレベルを目指していくと、そういうふうになりますよね。それを繰り返すからこそ、成長できる面もあるでしょうし。

「間違いないです。やっぱり、最初からうまい人って(バスケが)つまらなくなっちゃって、結局続かない。こういう環境があるからこそ、『バスケが楽しい』っていうのをすごく感じられる。だから、常に自分をこういう環境に置くようにしています」

【profile】
須藤タイレル拓(すどう・たいれる・たく)
2001年4月6日生まれ。神奈川県横浜市出身。アメリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、小学6年生の時に横浜ビー・コルセアーズのユースチームに参加してバスケにのめり込む。横浜清風高2年の時にスラムダンク奨学金に応募して合格。2020年8月から渡米先のセントトーマスモアスクールでプレーし、そこでの活躍が評価されて2022年4月にNCAAノーザンイリノイ大への進学が決まった。アメリカでの登録名は「タク・ヤングブラッド」。ポジション=シューティグガード、スモールフォワード。身長188cm、体重84kg。