まだ出ぬNFL選手輩出へ向けて、日本のアメリカンフットボール界が本腰を据える。というと、少々大仰かもしれない。が、わずか…
まだ出ぬNFL選手輩出へ向けて、日本のアメリカンフットボール界が本腰を据える。
というと、少々大仰かもしれない。が、わずか1万8000人ほどと言われる国内での競技人口を鑑みても、何もせずにそれが実現するほど甘い世界でないのは事実だ。
7月初頭。日本アメリカンフットボール協会の委託を受けた形でXリーグが他競技の有望選手発掘等を目的とした「クロスオーバーアスリート測定会」の実施を発表した。
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■日本では大学からアメフトを始める例も
同リーグは先月末の会見で、測定会の報告を行った。それによると、野球やバスケットボール、サッカーといったチーム競技から陸上、柔道、水泳部など個人競技の運動部に所属する計30名が参加したという。
参加者は身体測定の他、40ヤード走や20ヤードシャトル、垂直跳びといったアメフトの能力測定で用いられる種目をこなした。参加者の名前や測定記録は非公表だったが、NFLのコンバイン(プロ入り志望選手を一堂に集めて実施されるトライアウト)でも注目度の高い40ヤード走では最速タイムは4秒81だったそうだ(NFLの最速クラスだと4秒2〜4程度)。
日本ではそもそも高校までは野球部で、大学からアメフトを始め、Xリーグでもプレーするという例は少なくない。
中には、アメフト以外でも高いレベルで競技をしていた選手もおり、例えば元日本代表のワイドレシーバー(WR)としてワールドカップにも出場している前田直輝(胎内ディアーズ)は、京都府立鳥羽高校在学時まではバスケットボールに熱中。全国大会の同府の地区予選では有名な双子の竹内公輔・譲次兄弟(公輔は現Bリーグ・宇都宮ブレックスに、譲次は同大阪エヴェッサ所属)らの洛南高校と争い、ベスト4にまで進出するほどの実績もある。
私は新聞記者時代、7年ほど前に前田に取材をしたことがあるが、バスケットボールではコート上で広く視野を持つ必要のあるポイントガード(PG)としてプレーしていたことが、アメフトでも役立っていると話していた。
NBAではアレン・アイバーソン(元フィラデルフィア・セブンティーシクサーズ等)、日本では田臥勇太(現・宇都宮ブレックス)が好きだったという前田は、バスケットボールで培った一歩目の速さは、WRとしても相手ディフェンダーを一気に抜き去る時に効果的だとも述べていた。
■桑田理介は阪神の佐藤輝明とバッテリーを組んだ
今回の測定会は「もう一つの甲子園」という謳い文句が付いている。甲子園といえば高校野球で有名だが、アメフトでも大学全国一決定戦は甲子園ボウルという同球場で行われている。つまり、甲子園を目指す高校球児に、アメフトでもそこを目指してみないか、といった趣旨だ。
現役Xリーグ選手の中にも、既に前例はある。オール三菱ライオンズのWR小田快人は近江高校の中堅手として2014年、夏の甲子園に出場。その後、関西学院大学からはアメフトへ転向し、甲子園ボウルに出場している。
パナソニック インパルスWRの桑田理介は、野球でもアメフトでも「甲子園出場」は叶わなかったが、仁川学院高校ではエースで主将を務め、現阪神タイガースのスラッガーで高校までは捕手も務めていた佐藤輝明とバッテリーを組んだこともあったという。
■北米4大スポーツで最も国際化進まないNFL
北米の4大スポーツリーグ(メジャーリーグ、NBA、NHL、NFL)の中でNFLが最も国際化が進んでいない。それでも現在は、NFLインターナショナル・プレーヤーズ・パスウェイ・プログラム(IPP)という非北米出身の選手発掘の動きを始めており、オーストラリア出身でラグビーリーグ(13人制ラグビー)の選手だったジョーダン・マイラタ(フィラデルフィア・イーグルス)やドイツ出身のヤコブ・ジョンソン(ラスベガス・レイダース)といった選手がNFLで活躍している。
2021年の同プログラムには、チリ出身のサミス・レイエスという選手が参加し、同年、ワシントン・フットボールチーム(現ワシントン・コマンダーズ)で同国初のNFL選手となった。身長196cmでアメフトではTEやスペシャルチームでプレーするレイエスは、元々はバスケットボール選手で、同国のバスケットボール代表として2019年のFIBAワールドカップ南米予選にも出場しているほどの力量の持ち主だ。
レイエスと同じ21年にIPPプログラムを経て、攻撃ラインマンとしてロサンゼルス・ラムズでプレシーズンゲームに出場したイタリア人のマキリミリアン・パーチャーはハンドボールのバックグラウンドがあるということで、こちらも面白い。
マイラタやレイエスのような、アメフトの経験がないながらIPPを通じてアメフトでの才能を開花させる例は今後、あるいは増えていくのではないか。Xリーグによると、10月にロンドンで開催されたIPP入りを目指す選手たちが集ったインターナショナルコンバインには13カ国から計44名の参加者がいて(Xリーグ・富士通フロンティアーズWRの松井理己も加わった)、うち13名がクロスオーバーアスリート、つまりアメフト未経験者だったという。

21年CFLジャパンコンバインでのRB李卓。同年のNFL IPPプログラムの候補生にも選出された 撮影:永塚和志
■プロリーグがない日本の環境
日本で他競技からだと野球経験者がアメフトに転向する例が多いように感じられる。アメフトにはボールを投げる、捕る、走る、タックルする、キックをする、といった体格や適正によって多岐のポジションがあるが、筆者個人としては、バスケットボールからの転向者がもっといてもいいのではないかと感じている。
バスケットボールでは体躯と俊敏性の兼備、速いパスを捕球すること、瞬時の判断力、リバウンド時に体をぶつけながら優位な位置取りをするボックスアウトといったアスリートとしての総合的な能力が養われる。これらがアメフトにおいても生きると感じるからだ。
NFLでも、元選手のアントニオ・ゲイツはケント州大時代、全米大学バスケットボール王座決定大会のNCAAトーナメントに出場するほどの力量を持っていた。ゲイツは大学でフットボールはまったくプレーしていないにも関わらずNFL入りを果たし、サンディエゴ・チャージャーズ(現ロサンゼルス・チャージャーズ)タイトエンド(TE)として歴代1位の116タッチダウンを挙げた名選手となった。
トニー・ゴンザレス(元カンザスシティ・チーフス等、TE)やジュリアス・ペパーズ(元カロライナ・パンサーズ等、ディフェンシブエンド)などもNCAAトーナメント出場経験のあるNFL選手だが、こうした例は他にも多い。
しかしながら、冒頭でも述べたように、競技人口が少なくプロリーグがない日本の環境で、NFL入りができそうな選手が自然発生的に出てくる確率は少ないと言わざるを得ない。今回実施されたクロスオーバー測定会は、従来ならば高校で競技生活を終えていた他競技の選手たちに、アメフトに来ることで大学以降もプレーを続けてもらうという意図がある一方で、IPPプログラムを通してNFLを目指せるような選手を輩出する道筋を示す目的もあると言える。
「NFLに挑戦しようとする場合、通常(アメリカの選手だと)ならカレッジからNFLへということになりますが、日本の大学の環境とはかなりの差があるということもあるので、であれば優れたアスリートに対してXリーグが練習や試合に参加できるような環境を作ることで(選手たちが)NFL、に挑戦することができればと考えております」
■まだ実現していない日本人NFL選手誕生へ

日本で最もNFLに近づいたWR木下典明 撮影:永塚和志
日本社会人アメリカンフットボール協会の深堀理一郎理事長は冒頭に記した会見で、このように話している。
Xリーグでは、NFLサンフランシスコ・フォーティーナイナーズでプレシーズンゲームに出場の経験がある河口正史氏や山田晋三氏(Xリーグ・IBMビッグブルー監督。NFLプレシーズンゲーム出場経験がある)、昨年春、IPPプログラムの候補者となった李卓(Xリーグ・オービック シーガルズ所属)ら国際経験の豊かな有識者らによる助言、Xリーグ所属チームによる選手の練習受け入れ、支援企業による英語力強化といったところで、クロスオーバーアスリートへの支援をする予定だ。
Xリーグは、クロスオーバーアスリート測定会の実施を来年以降も継続する意向だ。またNFLのIPPプログラムの対象が高校卒業から3年が経った者が対象だということもあり、20歳前後の大学生を対象としたクロスオーバーアスリート発掘のコンバイン実施も検討する。
同リーグは2019年よりカナダのCFL(世界でNFLに次ぐリーグ)とパートナーシップを結んでおり、以来、日本人選手が数人、CFLでプレーをしているが、クロスオーバーアスリートをCFLの日本国内コンバイン参加に「推薦」することも考えているという。
今回の測定会とは関係ないが、20年に全日本相撲選手権を制し史上2人目となる大学1年生でのアマ横綱となった花田秀虎が、今年3月開催のXリーグ合同トライアウトに参加し、その逸材ぶりで周囲を驚かせた。花田は今夏、所属していた日本体育大学の相撲部を事実上休部し、IPPプログラムを経てのNFL入りを目指してアメフト専念を決断。現在は、Xリーグ・富士通フロンティアーズ等で練習に参加し、英語習得にも務めている。
日本からNFLが誕生したことがないだけに、どうすればそこへたどり着けるのかの「認識が曖昧」(深堀理事長)だというのが現況だが、競技人口が少ないことを鑑みれば、今回のクロスオーバーアスリート発掘のような施策は可能性を広げる上であってしかるべきものだ。XリーグやCFL、あるいはアメリカの高校や大学を経て、と様々な道筋があることを若い選手たちに示してあげることが肝要であり、かつ日本協会やXリーグ側としても情報収集に努める必要があると、深堀理事長は言う。
「クロスオーバーアスリートだと20歳前後の優秀なアスリートたちに対して『大学からアメリカに行くっていう道もありますよ』というのを示してあげることも大事だと思いますし、国内でやるにしてもちゃんと英語をやって、トレーニングをしてスキルを上げれば『日本のXリーグからもIPPに選ばれますよ』と。そういういくつかのパス(道筋)を整えてあげることが重要かなと考えています」
野球、サッカー、バスケットボール。あるいは個人競技。日本のスポーツ界も「トップ中のトップ」を論じる際、「世界」が基準だ。
同国のアメリカンフットボール界も、まだ実現していない日本人NFL選手誕生へ向けて、「世界」を意識し始めた。
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著者プロフィール
永塚和志●スポーツライター 元英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者で、現在はフリーランスのスポーツライターとして活動。国際大会ではFIFAワールドカップ、FIBAワールドカップ、ワールドベースボールクラシック、NFLスーパーボウル、国内では日本シリーズなどの取材実績がある。