早稲田戦で3トライをあげた帝京大・江良颯 激しいコンタクトと安定したセットプレー(スクラム、ラインアウト)。ラグビー・大学王者の帝京大が強みを存分に発揮し、ライバル早大を49―17と撃破して5戦全勝とした。特に成長株の3年生フッカー、江良颯…



早稲田戦で3トライをあげた帝京大・江良颯

 激しいコンタクトと安定したセットプレー(スクラム、ラインアウト)。ラグビー・大学王者の帝京大が強みを存分に発揮し、ライバル早大を49―17と撃破して5戦全勝とした。特に成長株の3年生フッカー、江良颯(えら・はやて)が3トライと大暴れ。「楽しかったです」と笑うのだった。

 11月6日、帝京大ジャージの赤色や黄色に色づく紅葉に囲まれた熊谷ラグビー場。ノーサイドから約1時間。場外に帝京大ラグビー部員百数十人の喜びの輪ができた。「MVPは」と、相馬朋和監督が声を発した。

「江良っ」

 お~と部員たちのどよめきが起きた。拍手が巻き起こる。ラグビー協会による試合の「プレーヤーオブザマッチ」はSO(スタンドオフ)の4年生、高本幹也だったけれど、相馬監督は試合のチーム最優秀選手として江良を選んだ。それほど、21歳フッカーの動きはチームの勝利への貢献大だった。監督はこう、漏らした。

「どんどん成長していますね」

 江良にとっては、1年時の筑波大戦以来、2度目のチームMVPだった。ご褒美にチームTシャツがもらえる。「うれしいです」と、顔をくしゃくしゃにした。

「個人にとっても、チームにとっても、とてもいい成長ができたのかなと。本当にいいスクラムを80分間、組み続けられた。帝京大の2番(フッカー)として、いろんな場面で勝ててよかったのかなと思います」

 この日奪った7トライのほとんどに江良は絡んでいた。開始直後の帝京大の先制トライは右から左、右、左の密集サイドを4度突破し、ボールをつないだ。その後、早大のしぶといタックルに追加点をなかなか奪えなかったけれど、前半25分、ラインアウトのサインプレーから自身が突進し、右オープンに連続攻撃。最後は密集サイドを持ち出し、相手ウイングを右上腕でガツンと弾き飛ばし、早大フッカーの佐藤健次のタックルを受けると、からだをくるりと半回転してインゴールに倒れ込んだ。トライ!

帝京フッカーの意地で早大・佐藤を圧倒

 江良も佐藤も将来、日本代表入りが有望視される好フッカーである。素材は抜群だ。互いに意識しないわけがない。早大2年の佐藤は今年、ナンバー8からフッカーに転向したばかり。江良は言った。

「フッカーの意地として、(佐藤に)負けられないと思っていた。本当にいい選手だと思っているので、フッカーの意地を見せられたんじゃないかと思います」

 このあと、帝京大はラインアウトからのモールをうまく押し込んで、江良が2本、トライをマークした。圧巻なのは、21歳フッカーの運動量だった。地味だけれど、ピンチになれば、必死でバックアップする。倒れてもすぐ立ち上がり、ディフェンスの穴を埋めていた。

 シーズンの今後のことを考えると、攻守の軸のスクラムで押し勝ったことが大きい。8月の夏合宿の両チームの練習試合では、江良は左足のケガで欠場していたが、その際、早大に押される場面があった。でも、この日は、江良のスクラムワークがいいのだろう、がちっと8人がまとまり、絞り込んだアングルで押した。

 江良はもちろん、8月の試合の映像をチェックした。「自分たちの帝京のスクラムを組み続けるだけでした」。自分たちのスクラムとは、まずは一人ひとりがやるべきことを遂行すること。そして、8人結束。フッカーは両プロップとのバインドをきつく締め、塊となってコントロールするだけだ。まっすぐ、ねじり押す。

 帝京大はヒットで当たり勝って、重量を相手に乗せた。プッシュでぐいと押す。4本のコラプシング(故意に崩す行為)の反則をもぎとった。江良の述懐。

 「一人ひとりやるべきことが明確になってきたおかげで、スクラムが強くなりました。今日は全員がそれをわかっていた。僕は、どこかが崩れていたらすぐに修正する状況判断だったり、8人全員がまとまるように持って行ったり、また何が足りないか周りに伝えられるよう、しっかり練習から考えてやってきました」

 一方、早大の佐藤は完敗を認めた。

「江良選手に勝ちたいと思ってやっていたんですけど、モールからのトライだったり、フィールドプレーのトライだったり、アタック、ディフェンスのところだったり、スクラムワークだったり、やっぱり、まだまだ遠い存在というのがわかりました」

S&Cコーチとの練習でパワーアップ

 江良の座右の銘が『雲外蒼天(うんがいそうてん)』。そのココロは?と聞けば、こう答えた。

「雲を突き抜けたら、晴天が待っている。努力して、つらいことを乗り越えれば、自分の世界が広がる、いい結果が待っているんです」

 171センチ、105キロ。大阪桐蔭高卒。逸材が真面目に努力すれば、そりゃいい選手になるに決まっている。S&C(ストレングス・コンディショニング)コーチと、フィジカルアップに努め、相手への当たり方、効果的なボディコントロールも研究しているそうだ。

 どんな?

「僕がいつも考えているのは、相手がイヤなことをすることです」

 帝京大は強い! 対抗戦グループ制覇、大学選手権連覇にばく進する。次は11月20日、明大との全勝対決。江良がリードする。"大学ナンバーワン・フッカー"の意地にかけて。