世界卓球団体戦・男子準々決勝 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が7日、中国・成都で行われ、男子準々決勝に臨んだ世界ランク3位の日本は、同9位のポルトガルを3-1で破り、2大会ぶりのメダルを確定させた。エース・張本智和は2…

世界卓球団体戦・男子準々決勝

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が7日、中国・成都で行われ、男子準々決勝に臨んだ世界ランク3位の日本は、同9位のポルトガルを3-1で破り、2大会ぶりのメダルを確定させた。エース・張本智和は2勝を挙げ、5大会連続メダルが途切れた前回2018年大会のリベンジに成功。4年前は敗戦後に「眠れない夜」を経験したが、真のエースに成長し、日本をメダルに導いた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 4年間、この瞬間を待っていた。10-3のマッチポイント。最後の一球を奪うと、張本は上半身をのけ反らせた。持てる力の全てを使って絶叫。2大会ぶりのメダルだ。仲間と一人ずつ抱き合い、第1試合で先勝した年上の戸上隼輔の頭を撫でた。

 第2試合を危なげなく勝利。第3試合は及川瑞基が粘りながらも2-3で敗れ、運命はエースに託された。「ここで決めるしかない」。しかし、第1ゲーム(G)は気合いが空回り。7-11で落とした。田勢邦史監督は「メダルを獲りたい気持ちが表に出過ぎてしまっていた」と分析。ゲーム間に「勝ちたいんだったら一本、一本やるんだよ」と肩を叩いて送り出した。

 張本はハッとさせられた。

「自分のミス。別に相手に何かされたわけじゃない。ミスをしなければ流れは来る」

 別人に変貌した。第2Gは11-7と逆襲。早めに攻勢を仕掛け、絶妙なコースにフォアハンドを叩き込んだ。連取して迎えた第4G。出だしから6連続ポイントの猛攻で主導権をがっちりと握った。日本ベンチ側で戦う時は得点のたびに振り返り、仲間に向かってガッツポーズ。逆サイドの時は日本スタッフが座る関係者席に向かって拳を突き上げた。

「4年前を超えたのが嬉しい。チームで3点を取ってメダルを取るのが目標だった。それができて嬉しい」

 4年前の負けは今でも忘れない。前回団体戦、準々決勝の相手は韓国だった。

 14歳の張本は第1試合で2-3の逆転負け。マッチポイントを奪われた瞬間、仰向けに倒れ、天井を見つめた。第2試合は水谷隼が取り返したものの、松平健太、水谷が連敗。「韓国チームが凄く喜んでいた」。3メートル隣のベンチで狂喜乱舞する勝者。張本は寂しく背中を丸める水谷を後ろから眺めることしかできなかった。

「メダル獲得はそれだけ大きな出来事。自分たちはそれが獲れなかった。今でもその時の悔しさは残っている。日本のメダルの連続記録も途切れさせてしまって、本当に責任を感じていた」

「水谷さんはエースの自覚があったと思う。それを自分に託してくれた」

 6大会連続メダルを逃した日。「眠れない夜だった。悔しさはずっとあった」。世界で勝つ難しさ、日の丸の重みを思い知った。

 世界卓球以来の団体戦となった昨年東京五輪の前。水谷と話し込み、経験談を聞いた。「4年に一度の舞台。本当に緊張するから」。どんなに経験を積んでも、プレッシャーのかかる世界大会。心の準備の仕方を教わった。

 水谷、丹羽孝希と出場した東京五輪男子団体は銅メダル。大会を終えた後の会見、水谷は「張本のプレーを見て、頼れる後輩がいることは凄く嬉しいですし、卓球界の男子はこの先も明るいんじゃないかなと思っています」と期待していた。同席した張本は背筋を伸ばした。

「水谷さんも自分自身がエースだという自覚があったと思う。それを次は自分に託してくれた」

 2020年の世界卓球団体戦はコロナ禍で中止に。リベンジを狙う今回は、4年ぶりの開催となった。水谷が引退し、丹羽がインフルエンザで大会直前に出場辞退。否が応でも、期待は19歳の背中にのしかかった。

 ここで教わった心の整え方が生きた。

「日本の皆さんからの期待も大舞台の方が大きい。そういう時ほどプレッシャーを感じてしまう。五輪は大舞台だと意識しすぎた。けど、実際はいつもと変わらない相手。今回はあまり世界卓球だと意識せず、TリーグやWTTツアーと同じ気持ちでプレーした。中学生の時は全くプレッシャーを感じていない中でいいプレーができた。そういうメンタルに近づけるためにも、いつも通りやる意識を持つという工夫が必要だった」

 いまだチーム最年少の19歳ながら、誰よりも経験で上回る。年上選手にも遠慮なくアドバイス。背中でも、言葉でも日本を引っ張った。「水谷さんがいた頃みたいに『エースの2点+1点』ではない。どこでも点を取る可能性があるチーム。4年前より強いと言い切れる」。グループリーグのルーマニア戦、自身は1勝1敗。仲間が取り返してくれたから勝てた。

 ベンチからも送り続けた声援。いつの間にか声は割れていた。

 この日の試合前、田勢監督の前で「やばい、緊張してきた」とポツリ。これも敢えて弱音を漏らすメンタルコントロールだった。「自分で抱え込むよりも、共有した方がいい。監督はきっと理解してくれるので」。真のエースへと成長を遂げ、丹羽にメダルを持ち帰る約束も達成。8日の準決勝は、10連覇を狙う最強中国が相手だ。

「丹羽さんと一緒にメダルを取れたと思っている。このチームにできないことはない。明日、どこが来ても目標は世界チャンピオン。みんなで一致団結して明日も勝ちたい。自分たちが歴史を変えられるメンバーだと思う」

 4年間で頼もしく成長した。数々の最年少記録を塗り替えてきた日本の至宝。卓球ニッポン新時代を背負う張本の栄光は、これからだ。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)