世界卓球団体戦・女子準決勝 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)は7日、中国・成都で女子準決勝が行われ、世界ランク2位の日本は同5位ドイツに3-0のストレート勝ちで4大会連続の決勝進出を果たした。8日は4連覇中の同1位・中国…

世界卓球団体戦・女子準決勝

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)は7日、中国・成都で女子準決勝が行われ、世界ランク2位の日本は同5位ドイツに3-0のストレート勝ちで4大会連続の決勝進出を果たした。8日は4連覇中の同1位・中国と頂上決戦。21歳のエース・伊藤美誠(スターツ)は東京五輪後の苦悩を乗り越え、チーム全員で「挑戦者」でいることを強調した。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 淡々と拳を握る姿には、挑む気持ちが溢れていた。伊藤はドイツのエース、カットマンのハン・インと第2試合で激突。これまで何度も対戦してきた相手は、揺さぶりをかけてきた。変化をつけたり、突然打って来たり。しかし、日本のエースは冷静だ。スマッシュ、カウンターを繰り出し、相性のいい世界ランク8位の39歳をさばいていった。

 第1試合の早田ひな、第3試合の木原美悠がフルゲームにもつれ込んだ末に勝利した一方、危なげないストレート勝ちだ。

「自分の中で凄く自信があって、挑戦者の気持ちで戦えた。1ゲームの1本目から出足もよかった。予選よりもっと挑戦者の気持ちで戦おうと思っていました。毎日、毎日いい感じです」

 男子の試合が行われた隣のコートでは、地元の中国がスウェーデンを撃破。女子の試合をよそに観客席から鳴り物の応援グッズが響いたが、伊藤は「あまり気にならなかったです。逆にいま経験できてよかった。明日は(中国に)声援があるので」と“予行演習”と捉えた。

 中国はいつも高い壁だった。17歳だった4年前の前回大会決勝。第1試合で世界ランク1位にも立った劉詩文を撃破した。世界を驚かす大金星。しかし、チームは3連敗で銀メダルに終わった。4連覇した女王の底力を目撃。「1点を取って、1ゲームを取って、1人の勝ちになる。スタートが凄く大事」。先制攻撃の大切さを見せつけられた。

 東京五輪でもそう。シングルス準決勝で現世界ランク1位・孫頴莎に敗れた。金メダルの夢が潰えた7時間後、3位決定戦に勝利。しかし、銅メダルで流したのは悔し涙だった。「どんな大会でもいいから、やっぱり中国選手に勝ちたい」。水谷隼との混合ダブルスで金メダルを獲っても、シングルスで勝てない悔しさの方が大きかった。

 五輪後は大きな目標を立てられなかった。もう一度、24年パリ五輪で金メダルを目指すには、とてつもない覚悟が必要。目先の目標は立てられるが、先々の大目標がないことで自然と練習量が減った。すると、試合で自信が持てなくなる悪循環。今年1月の全日本選手権は単複ともに優勝したが、3月のパリ五輪代表選考会は5位に終わった。

負けて成長するのは当たり前、大事にしてきた「勝っても成長すること」

 母・美乃りさん、コーチと相談。一度、卓球から離れる選択肢もよぎった。しかし、「このままやっていても自分にも失礼だし、サポートしてくれている方にも失礼」と覚悟を決めた。「『パリ五輪で優勝する』という言葉を自分の口で言った時にスッキリした」。長い期間で気づいたのは、「挑戦者」で居続けることの大切さだった。

「挑戦者の気持ちでいることで、自然と中国選手に競れたり、勝てたりすることが続くと思う。時間が経ってから気づきましたね」

 日本のエースにとって、負けた後に成長するのは当たり前。卓球人生で大事にしてきたのは、「勝っても成長すること」だった。

「負けた後は、とにかく必ず成長する気持ちでいっぱいですけど、負けた後よりも勝った後に成長する方が難しい。負けた後は課題が見えやすいし、このままだとダメだって思うから他のことに挑戦できるんです。そういう時は凄く成長しやすい。逆に勝った後に挑戦するのが凄く大事。勝っても、少しずつでいいから成長すること。前を向きながら成長できれば、勝ち続けられるので」

 そのために、取材のたびに「挑戦者でいたい」と口にする。9月からTリーグに参戦。日本でしのぎを削る選手たちの成長スピードに驚いた。追われる立場とはいえ、気を抜けばすぐに追い抜かれる。「練習でも挑戦者になる」。燃えるような闘志を取り戻し、中国に乗り込んできた。

 その挑戦者の魂が最も発揮されるのが、8日の決勝だ。母国開催で威信をかけて臨む女王は、世界ランクトップ4を揃えた。伊藤が東京五輪で敗れた孫もいる。再び相まみえる可能性は高い。

 日本人トップの世界ランク5位を誇る早田、次世代の天才・木原、今大会注目度が急上昇した長崎美柚、最強カットマン・佐藤瞳。過去、類を見ないほど個性豊かなメンバーが揃った。「一人が挑戦者になれば、チームも挑戦者でいられる」。気合いを波及させながら向かう頂上決戦。目をギラつかせながら、自らに言い聞かせるように繰り返した。

「中国が相手なので、もっともっと挑戦者の気持ちでみんなで勝ちたい。とにかく強気で向かっていく。自分自身も、チームも、もう完全に挑戦者。挑戦者として思い切ってやりたいです。それができたら楽しめるので」

 そして、天真爛漫な笑みを浮かべた。

「凄く楽しみでいっぱいです」

 勝てば51年ぶりの世界一。いよいよ、歴史を動かす時が来た。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)