「世界卓球・日本代表連載」、開幕まであと4日―第1回は伊藤美誠 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が30日に中国・成都で開幕する。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4年ぶりの開催となる世界最強国決定戦。男女別に行われ…

「世界卓球・日本代表連載」、開幕まであと4日―第1回は伊藤美誠

 世界卓球団体戦(テレビ東京系&BSテレ東で連日放送)が30日に中国・成都で開幕する。新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、4年ぶりの開催となる世界最強国決定戦。男女別に行われ、日本は男子4人、女子5人が代表に名を連ねた。「THE ANSWER」では開幕4日前から当日まで連載を実施。日本代表全選手の想いを伝え、大会を盛り上げる。

 26日の第1回は伊藤美誠(スターツ)が登場。東京五輪では金、銀、銅のメダル3つを獲得した女子のエースは、モチベーションの維持に苦悩してきた。3大会連続銀メダルから悲願の金メダルを狙う今大会。チームを「全勝」で引っ張る覚悟を見せた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、協力=テレビ東京)

 ◇ ◇ ◇

 苦しみながら前を向いてきた。金メダルなら1971年大会以来51年ぶりの快挙となる日本女子。団体戦は3大会連続出場の伊藤が燃えている。

「自分が一番ハラハラドキドキさせてしまうかもしれないですけど、みんなでカバーしながら試合をしたいです。私自身の目標はやっぱり全勝で終えたい。そこでしっかり自信をつけて、またオリンピックを目指したいと思っています」

 快挙の後、実は人知れずもがいていた。昨年の東京五輪はシングルスで銅、女子団体で銀、水谷隼と組んだ混合ダブルスで日本卓球界初の金。以降は11月の世界卓球個人戦にも出場した。早田ひなと組んだダブルスは準優勝だった一方、シングルスは準々決勝敗退。持ち前の負けん気の強さが影を潜め、どこか気持ちが入りきらずにいた。

「意識の問題ですが、(東京五輪以降は)大きな目標を立てていませんでした。練習でも世界選手権のために頑張ろうと思えたけど、頑張ることはできても長続きしない。小さい頃から大きな目標を立てることで、『この大会で優勝したい』と一つ一つの目の前のことに集中できる状態になれたと思います。

 でも、目の前すぎて逆に努力できないというか、練習量も確実に減りました。練習をやっていないと自信が少なくなってくる。『これだけやった』とは言えないので、試合をしていても経験だけでやっている感じでした。もちろん負けは悔しいです。ただ、どうやってスイッチを入れるかわからなかった」

何気ない一言に葛藤「あれ、パリを次の目標にするって言ったっけ」

 20歳で世界一になり、さらに高まる周囲の期待。「次はパリ五輪で優勝してね」。何気ないファンのエールが心を曇らせた。

「あれ、まだ口に出してないのにな。パリを次の目標にするって言ったっけ」。東京五輪まで「全てを出し切って、シングルス優勝で終わる」とストイックに懸けてきた。だからこそ、五輪に向かう覚悟はどれほど重いものなのか、誰よりも理解している。

「凄く嬉しいことではあるんですよ。応援してくれる方、優勝した姿を見たいと言ってくれる方がいるのは凄く嬉しかったです。でも、少しモヤモヤする部分もありました。その瞬間は自分の中でプラスには捉えられなくて、『ちょっとだけ自分の時間にしてもらっていい?』と思った時があって。

 パリオリンピック優勝を目標にするとなったら本当に覚悟がいるし、口で言うのは凄く簡単。どちらかと言うと、目を逸らしていた感じでした。自分の目標は自分で決めたいし、『なんで先に言われているんだろう』みたいな感覚にはなりました。でも、それってどう考えてもマイナスの発言。何かしらプラスに変えられることはあったんじゃないかなって思います」

 年が明けても大会はやってくる。今年1月の全日本選手権は単複ともに優勝したが、3月のパリ五輪代表選考会は5位。「次に繋がる大会という感じにならなかった。気持ちで最初から負けている状態」。日々の練習は今までと変わらずしんどい。母・美乃りさん、コーチと相談した。

 母からは「気持ちが入っていないから、どっちかにした方がいい。やらないならやらない。やるならやる」と言われた。

「確かに中途半端だなと思いました。結局、目標がないと本当に苦しくて、『何のために頑張っているんだろう』と繰り返すことも毎日あって。苦しいことを乗り越えづらい。やっぱり大きな目標が必要だと思います。

 このままやっていても自分にも失礼だし、サポートしてくれている方にも失礼。金メダルの嬉しさよりも、シングルスの悔しさの方が強かった。ここではやめれないなって思いました。覚悟を決めて、『パリオリンピックで優勝する』という言葉を自分の口で言った時にスッキリした。最終的に自分で決めることですが、今思うと、いろんな方が道を開いてくれたのかなと思います」

打倒・中国の世界卓球へ、伊藤「寿命が縮まる覚悟で見てほしい(笑)」

 春先に目標を決めた。「もう意地でも出場して優勝する」「そこまでの実力をつけたい」「卓球を楽しみたい」。少しずつ心は晴れ、練習も充実していった。今では五輪金メダリストの肩書きも「日本の卓球選手では私と水谷選手だけ。逆にずっと自信を持ち続けられるのは有利」とプラスに捉えられる。

「この経験があったからって言えるようにしたいです。どん底に落ちた分、這い上がるしかない。(卓球を)20年くらいやっても、まだまだいろんな感情ってあるんだなって思いました」

 9月4日の第2回パリ五輪代表選考会で優勝。コロナ禍で度重なる大会延期、東京五輪後の苦しみを経験し、何事もプラス思考を意識するようになった。これが成長だ。

 紆余曲折を経て迎える世界卓球団体戦。同学年の22歳・早田ひな、20歳の長崎美柚、18歳の木原美悠、24歳の佐藤瞳とともに日の丸を背負う。大黒柱として期待される伊藤は「一言でいうと若い」とチームの印象を明かした。それぞれの戦型が異なり、バラエティーに富んだ布陣だ。

「(普通の選手が)いないですね。みんな爆発できる卓球ではあるので、誰に勝ってもおかしくない。自分が一番経験しているとは思いますけど、みんな実力があります。若い選手がいればいるほど、何が起きるかわからない。ハラハラドキドキすると思います。自分でも爆発する時って周りを考えていなくて、10代後半の方がバカバカいける。

 自分が安定しているとはあまり思わないんですよ。だって、みんなに『寿命が縮まる』って言われます。でも、それが自分らしい。最終的に『やっぱ強いよね』と言ってくれるような選手になりたいです。自分の中で絶対に2点(2勝)を獲る。申し訳ないですけど、寿命が縮まる覚悟で、それを楽しみに見てほしいです(笑)」

 中国の5連覇阻止へ。負けん気を取り戻した日本のエースが、溢れる自信を胸にコートに立つ。

(第2回は長崎美柚が登場)

 ◆世界卓球 9月30日からグループリーグが行われ、上位16の国と地域が10月5日からの決勝トーナメントに進出。テレビ東京系&BSテレ東で連日放送。中継キャッチフレーズは「新時代の、目撃者になる。」(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)