Tリーグの新シーズンが華々しく開幕した9月10日。ドイツの卓球プロリーグ・ブンデスリーガでデビュー戦に臨んだ宇田幸矢(明治大学)が所属先のケーニヒスホーフェンで初勝利を挙げた。 宇田は今季、プレーの幅を広げるため日本のTリーグではなく海外…

 Tリーグの新シーズンが華々しく開幕した9月10日。ドイツの卓球プロリーグ・ブンデスリーガでデビュー戦に臨んだ宇田幸矢(明治大学)が所属先のケーニヒスホーフェンで初勝利を挙げた。

 宇田は今季、プレーの幅を広げるため日本のTリーグではなく海外武者修行の道を選んだ。

 本拠地で第3節を迎えたチームはこれが今季3戦目だったが、パリ五輪選考会など日本での試合が立て込んだ宇田は待望の初出場。

ドイツ入りしたのは試合2日前という直前のタイミング。

そのためコンディションは万全とは言えなかったが、世界ランク22位(最新の発表では23位)の実力を買われ第1マッチと第4マッチのシングルスにエース起用されると、第4マッチで白星を挙げチームの今季初勝利に貢献した。

目の肥えた地元ファンからは「ユキヤ!ユキヤ!」という熱いコールも巻き起こった。

アポローニャに勝利した宇田(写真=ケーニヒスホーフェン監督 板垣孝司)

 試合後のヒーローインタビューに呼ばれた宇田は、「初めてのブンデスリーガ1部での試合だったので、ちょっと力が入ってしまって、まだまだ納得のいくプレーができなかった」と控えめに振り返った。

チームを率いる板垣孝司監督には「(ブンデスリーガの)コートに立ってプレーしてすごく楽しかった」と笑顔。
 
とりわけ、マッチカウント1-2で回ってきた第4マッチでは宇田の本領が発揮された。

相手は国際大会で1勝1敗と五分のアポローニャ(ポルトガル)。

1ゲームを先取された後の第2ゲーム終盤には審判の不透明な判定を巡り、選手、審判、監督らが揉めに揉めるアクシデントがあり20分近く試合が中断されたものの、宇田は動じることなくゲームカウント3-1で勝ち切った。

マッチカウントタイに持っていき5番のダブルスに繋げた宇田はエースとしての役割をしっかり果たしたと言えるだろう。

ベテランカットマン、ワン・シと初対戦した宇田(写真=ttbl)

だが一方で第1マッチは欧州卓球の洗礼を浴びた。

グリュンヴェッターズバッハのエースでカットマンのワン・シ(ドイツ)との初対戦は、カットマンの中でも特殊なプレースタイルのワンに翻弄されストレート負け。

中国の帰化選手でもともと実力のあるワンはラケットのバック面に貼った表ソフトラバーでよく切れるカットを打ち、フォアハンドでは攻撃マン顔負けのカウンタードライブを浴びせてくる癖のある選手だ。
 
特にサーブ3球目のフォアドライブは強烈で、板垣監督も「初対戦で対応するのは難しい」と話す。

それでも第1ゲームは17-19まで粘った宇田だが、第2ゲーム以降の逆転はならなかった。

ゲーム間の板垣HCと宇田(写真=ttbl)

デビュー戦の感想を宇田は板垣監督にこう伝えている。

「日本の試合とは雰囲気だけじゃなくて卓球のバリエーションが全然違う。日本の選手はみんなほぼ同じタイプのプレースタイルだけど、ヨーロッパの選手はテンポを変えてきたり緩急をつけてきたりして、いやらしいボールを打ってくる。体も大きいので、お互いに台から下がったときに鋭角に打たれると届かない」

これに対し板垣監督は、「ヨーロッパ選手との戦い方は試合で学び覚えればいい。裏を返せば伸び代は無限だということ」と宇田のポテンシャルに期待を寄せる。

板垣監督といえば、かつて卓球強豪校だった青森山田中学・高校でコーチと監督を務めた後、2016年に渡欧。当時、独ブンデスリーガ2部だったケーニヒスホーフェンをわずか2年で1部に昇格させ、現在6シーズン目を迎える実績豊富な指導者だ。

試合を終えた宇田はすぐ、13日開幕のWTTコンテンダー アルマトイ(カザフスタン)に予選から出場するため、ベルギーに帰るチームメートの車に便乗し最寄りのフランクフルト空港へと向かった。

ドイツに戻るのは19日。早朝にアルマトイを発ちミュンヘンに降り立った後、その日の夜に行われるブンデスリーガのノイ・ウルム戦に出場する。
さらに23日には国内のクラブチームが一堂に会すドイツカップにも出場予定だ。

ノイ・ウルムは、東京2020オリンピック男子シングルス銅メダルのオフチャロフや同4位の林昀儒(台湾)、世界卓球2021ヒューストン男子シングルス銀メダルのモーレゴード(スウェーデン)らが顔を揃える強豪チーム。

また、ドイツカップで対戦する名門オクセンハウゼンにも、フランスのエースであるゴジやアメリカの成長株ジャー・カナクらが在籍する。

宇田と同じ明治大学卓球部でダブルスパートナーの戸上隼輔も今季、オクセンハウゼンと契約しているが、今月末に世界卓球2022成都が控えているため出場予定はない。

世界卓球代表から外れた宇田だが、ドイツで世界のトップクラスと対戦できるのは願ったり叶ったりだ。

そこに万全の状態で臨みたいという本音も宇田の中にあるにはある。だが、ノイ・ウルム戦にはWTTから戻った足で臨まなければならない。この点について板垣監督は「プロ選手に一番大切なのは勝つこと以前にコートに立つこと」とピシャリ。

こうした日本にはないタフな環境を求めてドイツ行きを決めた宇田は、これから揉まれて真の強さを身に付けていくのだろう。


(文=高樹ミナ)