中尾孝義氏「打者は抑えて振らないと術中にはまる」 真夏の夜の夢ではない。阪神が“猛虎”に変貌している。開幕9連敗と悪夢のスタートを切り、借金が最大16まで膨らんだが現在は貯金生活で2位にまで浮上した。驚異的な巻き返し…

中尾孝義氏「打者は抑えて振らないと術中にはまる」

 真夏の夜の夢ではない。阪神が“猛虎”に変貌している。開幕9連敗と悪夢のスタートを切り、借金が最大16まで膨らんだが現在は貯金生活で2位にまで浮上した。驚異的な巻き返しの原動力に、今季両リーグトップの11勝(1敗)、防御率1.37をマークしている右腕・青柳晃洋の存在が挙がる。現役時代に中日、巨人、西武でプレーし、1982年に捕手としてMVPに輝いた中尾孝義氏が投球内容を分析した。(記録は7月末日時点)

「おもしろいピッチャーだとは思いましたが、コントロールはなかった。ここまで良い投手になるとは思いませんでした」。中尾氏は“嬉しい誤算”を笑顔で表現する。同氏が阪神でスカウトを務めていた2015年のドラフト会議、帝京大の青柳は5位指名された。

 最大の特徴は腕の位置だろう。横手よりもやや低い位置。多くの投手のボールを受けてきた中尾氏は良い意味で「変な投げ方」と表現する。「変な投げ方をする投手は打者から見るとタイミングが取りづらいんです」。

 球質も相手打者を悩ませる。独特の角度から繰り出される真っ直ぐは140キロ台半ばを超え、高めは伸びる。低めにくるシュートやスライダーなどの変化球は打者の手元近くで急に沈んだり、曲がったり。中尾氏は青柳をリードしたら楽しいだろうと想像する。「ブンと振ってくる打者に対してゴロを打たせられる。手元でボールが変化する投手に対して、強く振りたいという気持ちが打者にはあるのですが、もうちょっと抑えて振らないと術中にはまります」

青柳は「計算した打ち取り方ができている」

 おまけに表情を変えずスイスイ投げる。クイックモーションも素早い。「ポーカーフェイスは余計に打者は嫌なもの。打者は(投手が)喜怒哀楽を出してくれた方がいい。サイドスローやアンダースローが良いと思う点は、クイックがオーバースローより絶対に速いところです」と強調する。

 昨年は13勝(6敗)で最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。今年はさらにハイペースで白星を稼ぐ。中尾氏はフォーム改善によって制球力がアップし、投球術にもつながっていると見る。以前は後ろに体重が残ったままだったというが、今季は左肩の開きが従来より遅くなり、そこから回転するため体重が滑らかに移動しているという。「自分の狙ったところに投げられるようになったし、失投が少ない。こう投げたらここに打たせられるという計算した打ち取り方が出てきています」と分析する。

 4完投も両リーグ最多。中尾氏は「自信を持ってくると、段々力が抜けてくるもの。ここさえ力を入れればというところが分かってきます。青柳はつかみかけている。それで完投能力が上がってくる。斎藤がそうでした」と明かす。中日から巨人に移籍した1989年、右横手投げの斎藤雅樹を強気のリードで支え20勝に導いたのが中尾氏だった。斎藤はこの年、11試合連続完投勝利のプロ野球記録を樹立している。

 青柳は今シーズン、自身初の開幕投手に内定していたが、開幕直前に新型コロナ陽性が判明。大役を果たせなかった。それでも4月15日に1軍復帰してからは獅子奮迅の働き。「マイナビオールスターゲーム2022」にファン投票で選出され、第1戦で先発した。中尾氏は「彼が後半もずっとエースでいて20勝近くいけば、阪神は当然クライマックスシリーズ圏内の3位以内に入れる。逆転優勝のチャンスもあるかもしれません」と注目している。(Full-Count編集部)