実際の研究データから球種による肩と肘への負荷を検証 肘内側側副靱帯再建術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外…
実際の研究データから球種による肩と肘への負荷を検証
肘内側側副靱帯再建術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」だと語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障せず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。古島医師は休養の重要性を訴える一方で、体を鍛えたり、柔軟性を高めたりすることも必要だと話します。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが、実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は佐久間健太郎さんと貝沼雄太さん。テーマは「球種による肩と肘への負荷」です。
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直球やカーブなど様々な球種を投げ分けられることは投球において重要です。しかし、成長期の投手が変化球を多く投げると怪我をしやすいと言われることがあります。日本では、直球の次にカーブを習得することが多いとされますが、アメリカではまずチェンジアップを教えるそうです。なぜチェンジアップかというと、肩や肘への負担が少ないためとされています。成長期に強い負荷が加われば怪我につながるのは確かですが、変化球は本当に“悪者”なのでしょうか。
今回は投球バイオメカニクス(生体力学)から見た、球種による肩と肘への負荷について考えてみたいと思います。紹介する研究は9歳から14歳を対象としたものと14歳から18歳を対象としたものです。
変化球より直球の方が肩と肘に強い負荷が加わると考えられる
まず9歳から14歳を対象にしたものです(※1)。この研究では、直球とカーブとチェンジアップを投げた時の肩と肘の負荷を計測。最も負荷が大きかったのは直球で、チェンジアップは直球の約80%、カーブは同じく約90%という結果が出ています。
次に,14歳から18歳の学生を対象にした研究です(※2)。直球とカーブを投げた時の肩と肘の負担を計測したこの研究でも、直球のほうが負荷が大きいという結果が出ており、カーブの負荷は直球の約90%でした。
この2つの研究から,変化球よりも直球の方が肩と肘に強い負荷が加わると考えられます。しかし、カーブであっても直球の約90%の負荷が加わるので、安全と考えることはできません。また、メジャーリーグの投手を対象とした研究ではスライダーについてのデータも出ており、直球と同じか少しだけ負荷が小さいという結果が出たそうです。今回紹介した研究にスライダーは含まれていませんでしたが、成長期の投手にも直球と同程度の負荷がかかると理解したほうがよさそうです。
直球を投げたときの肩と肘への負荷は球速に依存すると言われています。速いボールを投げられる選手ほど負荷が大きいと考えてください。変化球を投げることで肩や肘に極端に大きな負荷が加わるわけではありません。直球のほうが負荷が大きいだけに、球数や試合数に応じて蓄積されると考えてよいと思います。球数の管理や計画的な休養をとることが何よりも大事なのではないかと考えられます。
▼参考文献
※1 Dun S et al. A biomechanical comparison of youth baseball pitches: is the curveball potentially harmful? Am J Sports Med. 2008 36(4):686-692.
※2 Nissen CW et al. A biomechanical comparison of the fastball and curveball in adolescent baseball pitchers. Am J Sports Med. 2009 37(8):1492-1498.(Full-Count編集部)