独自の強化路線を貫いてきた日本女子のエース・伊藤美誠(スターツ)が大きな決断に踏み切った。主力選手で唯一、Tリーグと距離を置いてきたが、リーグ4連覇中の「日本生命レッドエルフ」の運営会社である日本生命保険相互会社と契約合意に至り、9月10日…

独自の強化路線を貫いてきた日本女子のエース・伊藤美誠(スターツ)が大きな決断に踏み切った。

主力選手で唯一、Tリーグと距離を置いてきたが、リーグ4連覇中の「日本生命レッドエルフ」の運営会社である日本生命保険相互会社と契約合意に至り、9月10日に開幕を控えた2022-2023シーズンに参戦することが発表されたのだ。

伊藤の背番号は「99」。ユニフォームに刻まれる選手名は「MIMA」となる。

写真=スターツ提供

パリオリンピックへの思いが参戦を決意

 記者発表会は7月26日夕刻、リモート形式で開かれた。

 黒のスーツ姿で現れた伊藤はコロナ感染対策のためマスクを着けており、その表情はほとんど見て取れないが、日本生命レッドエルフ加入に至った経緯とTリーグ参戦の理由について静かに口を開いた。

「自分の中でTリーグに参戦するというのはすごい決意を固めたというか、目標のパリオリンピックに出場するために(Tリーグに)出場させていただきます」

「東京オリンピックの前に参戦することはなかったんですけど、東京オリンピックに向けて優勝するには何が必要かと(考え)決めたときに、海外の試合に出て世界ランキングをたくさん上げて、東京オリンピックで中国人選手を倒すという目標がありTリーグ参戦を見送りました」

「ただ今回、パリオリンピックの選考(基準)の一つとして、日本卓球協会さんから日本人ランキングポイントが必要になると言われて、やっぱりTリーグに出場しないと難しい状態に私はなってきてるなというふうに思って......」

昨夏の東京2020オリンピックで打倒中国を誓った伊藤は、国際大会への出場と独自の練習やコンディショニングを優先するため国内リーグのTリーグに参戦しなかった。

なぜ周りと足並みをそろえないのか。そんな非難も覚悟の上の英断だった。

だがそれは水谷隼(木下グループ)との混合ダブルス優勝という最高の形で実を結び、日本卓球界に悲願の打倒中国、そしてオリンピックの金メダルをたらした。

ところが、次のパリ2024オリンピックに向かう伊藤に逆風が吹いた。

日本代表候補選手の選考基準が従来の世界ランク重視から、国内外の選手権大会および国内選考会の成績が軸となり、そこへTリーグの成績も加算する方針を日本卓球協会が打ち出したことで、Tリーグに参戦していない伊藤は苦しい立場に追い込まれた。

かつての師とTリーグで再タッグ

日本生命 早田ひな、村上恭和総監督 写真:T.LEAGUE/アフロスポーツ

そんな伊藤にアプローチしたのが日本生命レッドエルフの村上恭和総監督だった。

村上総監督といえば、元女子日本代表監督としてロンドン2012オリンピック団体銀メダル、リオ2016オリンピック団体銅メダルに女子チームを導いた名将で、かつて静岡県磐田市で頭角を表した伊藤が中学に上がるタイミングで、2012年に自身が開校した民間卓球塾「関西卓球アカデミー」(大阪府北区)に呼び寄せた恩師である。

伊藤は今もなおこの関西卓球アカデミーを拠点に選手活動をしている。

その村上総監督から「大変な時期に直接お話をいただいて、すごく熱意が伝わってきた」と伊藤。

だが即決はできず、どうしたいかを何度も自身に問い直し、パリ2024オリンピックに出場して東京2020大会で成し得なかった女子シングルス優勝を果たしたいという気持ちを再確認して返事をしたという。

「パリオリンピックに出場して優勝するという目標を置かなければ、Tリーグに参戦することは多分なかったと思います」

 伊藤という大きな戦力を得てTリーグ5連覇に向かう村上総監督はこう語る。

「日本の卓球界にとっても、影響はすごく大きい。(レギュラーシーズンは)20試合あるが国際試合と調整しながら(伊藤には)できるだけ多く試合に出てもらい、ファンに卓球の面白さを伝えたい。日本の卓球の強化と普及に美誠と一緒に頑張っていきたい」

「伊藤美誠が小学4年生のときに大阪にある日本生命の体育館に初めて練習に来た。(彼女のプレーで)印象に残っているのはリオオリンピックと世界団体(世界卓球2016マレーシア)。誰もが緊張するところで常に自分の力を発揮できる、その心臓の強さを感じている」

「昨シーズン2位の日本ペイントマレッツ、4位の木下アビエル神奈川、両チームが(選手を)補強して、5連覇はちょっと難しいなと考えていたが、伊藤美誠の日本生命レッドエルフ加入で少し安心しているところです」

師に加え、チームのエースで伊藤のダブルスパートナーである早田ひな(日本生命)の存在も伊藤の気持ちを動かしたようだ。

「村上さんと早田選手の存在は大きかった。Tリーグに出るなら日本生命(レッドエルフ)さんから出たいという気持ちはすごくありました」と伊藤は明かす。

 パリ2024オリンピックの出場資格については7月11日、国際卓球連盟(ITTF)から「団体戦の出場資格を得た16チームで、2024年6月18日時点の世界ランク上位2名がシングルスの出場資格を得る」という主旨の発表があったが、日本卓球協会の代表選考基準と合致せず協会は対応に追われている模様。これについて伊藤は「協会からまだ説明はない」と話している。


(文=高樹ミナ)