廣畑実さん「プロ野球選手になれなかったからこそ野球を教えられる」 プロに入れなかったから、今の自分に価値があると考えてい…
廣畑実さん「プロ野球選手になれなかったからこそ野球を教えられる」
プロに入れなかったから、今の自分に価値があると考えている。大阪桐蔭高で主将を務め、現役引退後はYouTubeや野球塾で少年野球の子どもたちを指導している廣畑実さんは「プロ野球選手になれなかったから野球を教えられる」と語る。「分かりやすい」「新しい」などと評される技術論は、主将として甲子園に行けなかった苦い記憶とプロを諦めた現役時代の反省から生まれている。
大阪桐蔭で主将の重責を任された廣畑さんは現在、YouTubeやオンライン野球塾で技術やトレーニングを伝えている。YouTube「ミノルマンチャンネル」の登録者は約9万人。独自の理論を交えた分かりやすい解説で人気となっている。
廣畑さんは大阪桐蔭から亜大、JR東海とアマチュア野球界のエリートコースを進んだ。しかし、度重なる怪我で現役を引退した。目標としていたプロ野球選手になれなかった理由について、こう話す。「1つは怪我が多かったこと。もう1つは人の話を聞かなかったからだと思います。もっと他の人の話に耳を傾けていたら、違う結果が出ていたかもしれませんね」。
野球を教えている今の姿を知る人にとっては、意外な言葉。廣畑さんは絶対的な信頼を置く兄の話以外には聞く耳を持っていなかったという。「自分は中学の後半で一気に花開いた選手です。兄がしっかりと技術を教えてくれたおかげでした。ただ、兄の話しか聞かなかったので、高校、大学、社会人とレベルが上がるにつれて、引き出しがなくて伸び悩みました」。中学生の頃の打撃フォームや考え方のまま、社会人やプロで成功する選手は少ないだろう。様々な方法を試し、知識や技術を増やしていくことで上のステージでも活躍できる可能性が高まる。
廣畑さんはプロ入りを諦めた。しかし、その挫折が次の道を切り開けると気付いた。「プロに行けなかった選手には明確な理由、原因があります。目指していたプロ野球選手になれなかったからこそ、野球を教えられる。指導する立場であれば、プロ野球選手よりもプロに行けなかった自分の方が価値があると考えました」。
ハンマー投げや格闘技から異競技からヒント、指導の引き出しを増やす
引き出しの少なさが壁を乗り越えられなかった原因と分析した廣畑さんは、野球以外の競技をする選手から野球の技術向上につながるヒントを得ようと考えた。打撃の動きに近いハンマー投げなどから常識に捉われずに知識を吸収した。
ハンマー投げはハンマーに付いているワイヤーが長いため、真っ直ぐ投げようとすると、かなり早いタイミングで手を放す必要があるという。自分の胸のあたりで投てきすると、ハンマーは真横に飛ぶ。廣畑さんは、長さのあるバットを扱う野球との共通点を見出した。
「バットにボールが当たるインパクトの瞬間で参考になる部分があります。野球を教える時に、野球の言葉を使うと伝わりにくいことがあります。他の競技を学ぶと、教える幅が広がります」
野球を指導する今の仕事で、もう1つ過去の苦い経験が生きている。廣畑さんは高校2年生の時にレギュラーで2010年選抜高校野球大会に出場しているが、主将を務めた3年生では春も夏も甲子園切符を逃している。同学年にはオリックス・山足達也内野手や元阪神・西田直斗さん、1学年下には阪神・藤浪晋太郎投手ら能力の高い選手がそろっていた。
「これだけの選手が集まっても勝てないと、野球の難しさを感じると同時に野球のおもしろさも知りました。原因を探ることに興味を持ちました。今教えている考え方やトレーニングは、現役を退いてから増やした引き出しです。現役の時に知っていればと感じる時もありますが、上手くいかなかった経験がなければ、今の自分はないと思います」
誰もが失敗を経験する。その理由を分析して生かせるかどうかで、次のステージの明暗が分かれる。挫折は新しい価値に変えられる。(間淳 / Jun Aida)