大学野球選手権で躍動したドラフト候補〜投手編 6月6日から12日まで熱戦が繰り広げられた第71回全日本大学野球選手権大会(大学選手権)。さまざまな有望選手が登場するなか、とくに鮮烈な印象を残した有力投手3名を紹介しよう。初戦で敗れたが、大商…

大学野球選手権で躍動したドラフト候補〜投手編

 6月6日から12日まで熱戦が繰り広げられた第71回全日本大学野球選手権大会(大学選手権)。さまざまな有望選手が登場するなか、とくに鮮烈な印象を残した有力投手3名を紹介しよう。



初戦で敗れたが、大商大相手に好投した富士大の金村尚真

敵将も脱帽した速球のキレ

金村尚真(富士大/176センチ82キロ/右投右打/岡山学芸館高)

 よく言えば器用、悪く言うと器用貧乏。それが1年前までの金村尚真という投手の印象だった。コンパクトなテイクバックで再現性の高いフォームから、カットボールなど多彩な変化球を駆使して抑え込む投球スタイル。大学3年春の北東北大学リーグでは、7戦7勝、防御率0.16という超人的な成績を残している。

 その一方で、大学生の打者が相手でも圧倒できるようなストレートの球威はなかった。球速は140キロ台後半をマークしていても、打者のバットを押し込むような強さは感じなかったのだ。

 ところが、大学最終学年に入って金村は今までとは違った顔を見せる。初戦に組まれた大阪商業大との好カードで、金村のストレートは序盤からうなりを上げた。

 常時145キロ前後の球速表示以上に勢いを感じさせるストレートは、ファウルだけでなく空振りを奪えるようになっていた。金村は試合後、冬場にストレートの改良に取り組んだことを明かしている。

「ストレートで空振りをとれていなかったので、この冬はキレを追い求めました。リリースポイントが後ろだったのを、前で離してトップスピンのかかるストレートにしようと。遠投から見直してきました」

 対する大阪商業大の富山陽一監督は、金村のボールに脱帽した。

「絶対に打てないと思いました。スピンが効いてベース板で強かったので。真っすぐで押されたらしんどいなと。スピードガン(の数字)以上に速く見えましたから」

 ストレートが進化したことで、スライダー、カットボール、スプリットなどの変化球がより生きるようにもなった。もはや「器用貧乏」の印象は消え、「総合力の高い投手」という印象が強まった。

 試合は延長10回タイブレークの末に1対2で敗戦。初戦敗退で終わったものの、金村がドラフト上位クラスの実力者だとアピールするには十分な内容だった。



大学選手権では3試合に登板し防御率0.59と抜群の安定感を見せた上武大・加藤泰靖

本格派右腕が見せた新たな一面

加藤泰靖(上武大/184センチ86キロ/右投右打/志學館高)

 5月15日の関甲新学生リーグの優勝をかけた白鴎大との大一番。ともにドラフト上位候補に挙がる左腕・曽谷龍平との投げ合いでは、力強いストレートを披露。大学選手権でも同様の姿が見られるかと思いきや、意外な幕開けになった。

 東農大北海道との初戦に登板した加藤は、立ち上がりからカーブ、スライダー、カットボール、フォークの変化球を主体に組み立てる。時折投じるストレートはこの日は最速144キロとおとなしめながら、捕手のミットを「ズドッ!」と強く叩く球威があった。

 試合後に投球の組み立てについて加藤に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「自分には真っすぐピッチャーの印象があると思うんですけど、向こうもデータを分析してくるなかで、裏をかくために変化球中心でいきました」

 この日は5回を投げ、許したヒットはわずか1本で無失点。投球数は70球だった。上武大はブルペン陣が充実しており、継投策をとる谷口英規監督の方針で5回降板となったが、加藤のスピード以外の一面を披露する結果になった。

「去年までと比べて、ピッチングの幅が広がって変化球もうまく使えたと思います」

 上武大は苦戦続きながら日替わりヒーローが現れる戦いぶりで、決勝戦まで進出。加藤は3試合15回1/3を投げ、防御率0.59と実力を示した。

 力任せではない本格派右腕は秋に向けて、プロ側からどんな評価を受けるのだろうか。



優勝した亜細亜大相手に好投した近畿大・久保玲司

王者・亜細亜大を苦しめた快速左腕

久保玲司(近畿大4年/172センチ67キロ/左投左打/関大北陽高)

 今大会は亜細亜大が20年ぶり5回目の優勝を飾ったが、その亜細亜大を8回まで無失点と苦しめたのが久保だった。

 近畿大は1回戦の和歌山大戦で久保を起用せず、シード校の亜細亜大戦に先発させている。その起用について、田中秀昌監督はこう語った。

「久保には大会前から亜細亜の試合に集中させていました。今日にかける意地、気持ちが伝わってきました」

 立ち上がりからストレートが走っていた。久保は最速151キロをマークしたと言われるが、実際は球速より球質で勝負するタイプの左腕だ。スピードガンでは130キロ台中盤の平凡な球速が表示されていたが、亜細亜大の強打者たちはことごとく久保の速球に差し込まれた。久保は独特な表現で自分の投球を振り返った。

「そんなに力を入れて投げなかったんですけど、東京ドームのマウンドも独特なので自然と球が走ったのかなと思います」

 久保は投球フォームも独特だ。セットポジションから右足を上げたあと、両手を捕手側にグイッと寄せてから両手を割って体重移動する。

「前にヒジをケガしてからうまく投げられない時期があったんですけど、あの動きを入れたほうがリズムよく腕が上がってくるようになったので。それ以来、今の投げ方をしています」

 ストレートとチェンジアップのコンビネーションも効果的で、左投手にとって鬼門になりがちな右打者も苦にしない。体格的にも球速的にも見栄えはしないかもしれないが、濃密な中身で勝負できる希少な存在だ。

 ほかにもエースとして優勝に大きく貢献した青山美夏人(亜細亜大)、持ち前の快速球に安定感が加わった眞田拓(名城大)、小柄ながらキレと制球力を披露した左腕の伊原陵人(大阪商業大)、右肩痛から復帰してリリーフで4強入りに貢献した木村光(佛教大)らの存在が光った。

 ドラフト会議まで残り4カ月に迫り、逸材たちの野球人生をかけた戦いはますます熱を帯びていく。