大学野球選手権で躍動したドラフト候補〜野手編 6月6日から7日間にわたり開催された全日本大学野球選手権大会(大学選手権)。鮮烈なパフォーマンスを見せた有望選手を紹介する企画の野手編では、スピード型の遊撃手2名と、腕を競い合う強肩捕手2名をそ…

大学野球選手権で躍動したドラフト候補〜野手編

 6月6日から7日間にわたり開催された全日本大学野球選手権大会(大学選手権)。鮮烈なパフォーマンスを見せた有望選手を紹介する企画の野手編では、スピード型の遊撃手2名と、腕を競い合う強肩捕手2名をそれぞれ紹介していこう。



攻守に存在感を発揮し、大会MVPに輝いた亜細亜大・田中幹也

大学生レベルを凌駕する守備力

田中幹也(亜細亜大4年/遊撃手/166センチ64キロ/右投右打/東海大菅生高)

 小柄な選手が活躍すると、「体の小さな子どもに夢を与える」などと評される。だが、この選手にいたっては体の大きな選手でも憧れるに違いない。

 東海大菅生高時代から機敏な身のこなしと神出鬼没のポジショニングで、「忍者」の愛称が定着した。しかし、実際にこんな忍者がいたら使い物にはならないだろう。これだけ人々を惹きつけ、存在感を隠せない忍者など敵軍にすぐ見つかってしまうはずだ。

 大学選手権ではMVPを受賞した。上武大との決勝戦で勝利打点となるタイムリーを放った、いやらしくしぶとい打撃。名城大戦で二盗、三盗を決めた、目にも留まらぬ走塁。どれも田中らしい鮮烈な働きぶりだったが、とくに観衆を魅了したのは遊撃守備だった。

 6月8日、東京ドームでの2回戦。亜細亜大にとっては初戦となる近畿大戦は、両チームの意地と集中力を感じる熱戦になった。2対1と亜細亜大がリードした9回裏、一死二、三塁の一打サヨナラの場面で、近畿大の筒井太成が三遊間へ鋭いゴロを放った。

 ショートの田中は素早い動き出しからスライディングでゴロを捕球すると、すぐさま三塁ランナーを牽制。さらに飛び出していた二塁ランナーを塁間に挟み、落ち着いてアウトにした。

 試合後、田中は「二塁ランナーが右目でチラッと見えた」と明かしている。ほかにも、捕手からの二塁送球が難しい跳ね方のバウンドになっても軽々と捕球して盗塁を阻止するシーンなど、随所に田中の好守が目立った試合だった。

 記者会見で淡々と受け答えする田中に、「今日くらいの守備なら、田中くんにとっては普通のプレーですか?」と聞いてみた。田中は童顔をこちらに向けて、神妙な様子でこう答えた。

「今日はバッティングで何も貢献できなかったので、守備でやらかしたら戦力になれません。当たり前のプレーが今日はできたと思います」

 もはや「当たり前」の基準が大学野球の範疇にはない。あらためて田中幹也の恐ろしさを世に知らしめた大会だった。



大学選手権で打率8割と大当たりだった天理大・友杉篤輝

強肩捕手から会心の盗塁

友杉篤輝(天理大4年/遊撃手/172センチ70キロ/右投右打/立正大淞南高)

 スピードでインパクトを残した選手がもうひとりいる。天理大の快足遊撃手・友杉だ。昨年の同大会では10打数8安打、打率8割と大暴れした友杉だが、今年は初戦から来年のドラフト上位候補・松本凌人を擁する名城大と対戦した。

 変則サイドハンドのフォームから150キロに迫る快速球とスライダー、スプリットを駆使する松本を初見で攻略するのは難しい。それでも、友杉は第1打席の死球に続き、第2打席では松本の147キロのストレートを弾き返し、一二塁間を抜いてみせた。

 そして、見せ場はここからだった。友杉は自身の盗塁技術について、「ピッチャーによってギリギリ戻れるところまでリード幅をとる」点をポイントに挙げている。二死一塁と警戒されやすい場面にもかかわらず、友杉は初球から果敢にスタートを切る。

 対する名城大・野口泰司も大学球界トップクラスのスローイング能力を誇る強肩捕手だ。松本の快速球を捕球した野口は間髪入れずに二塁へ送球するが、友杉のスライディングが一瞬早く二塁ベースに到達する。マウンド上の松本は、「野口さんが走られることなんてめったにないのに、見たことないスピードでした」と驚いたという。

 フィールドでは左腕に巻いたピンク色のリストバンドがひときわ目を引いたが、友杉本人によると「好きな色というわけではない」という。

「体も大きくないので、目立つようにと思ってピンクをつけています」

 チームは8回裏に逆転3ランを浴びて初戦敗退。試合後に進路について聞くと「プロを目指してやっています」とプロ志望届の提出を示唆した。西のスピードスターも、猛烈な勢いでドラフト戦線に加わっている。



大会ナンバーワンと評される強肩を誇る近大工学部の石伊雄太

大会ナンバーワンの強肩捕手

石伊雄太(近大工学部4年/捕手/178センチ84キロ/右投右打/近大高専)

 今大会は好捕手が数多く登場したが、なかでも目を引くスローイングを見せたのは石伊だった。全身を柔らかく使い、力任せではなくスムーズな送球動作。二塁に向かって糸を引くような美しい軌道で、ボールが伸びていく。まさに絵になるスローイングができる捕手だ。

 昨年12月に愛媛県・坊っちゃんスタジアムで開かれた大学日本代表候補合宿では、捕手陣で頭ひとつ抜けたスローイング能力を披露していた。石伊本人は「周りと変わらない」と思ったそうだが、ほかの捕手から称賛されたことで「自信を持っていいんだなと思えた」という。

 そんな石伊には、全国舞台に苦い記憶がある。昨秋に出場した明治神宮大会。初戦で対戦した佛教大のエース・木村光から石伊は3打席連続三振を喫したのだ。

「バッティングを強化しよう」と冬場にパワーアップに取り組み、迎えた今春。広島六大学リーグ8試合で1本塁打を含む打率.290、12打点を記録した。大学選手権では初戦の千葉経済大戦で2安打を放ち、盗塁を決めるなど足でもアピールしている。

「今日も2三振してしまって、最初のほうはあまりボールが見えてなかったんですけど、最終打席はしっかり見えていたと思います(センター前ヒットを放つ)。代表候補合宿でレベルの高いピッチャーのスピードやキレを体験できたことも大きかったです」

 2回戦の名城大戦でも1安打を放った一方、手痛い送球エラーが失点につながり0対1で惜敗。試合後、石伊は力なくこう語っている。

「こういう舞台で自分の力を出せないのは、まだまだ力不足ですし、守備も打撃も出直しだなと。自分のなかではまだまだダメだなと思っています」

 進路については明言を避けたが、稀代の強肩捕手の動向を注視するスカウトは多いはずだ。



亜細亜大戦で本塁打を放つなど打撃でもアピールした名城大・野口泰司

強肩・強打で大アピール

野口泰司(名城大4年/捕手/180センチ92キロ/右投右打/栄徳高)

 大会パンフレットには「180センチ82キロ」という数字が記載されているが、かなり古いデータで実際には92キロもある。一時は97キロに達したものの、動きやすい肉体を追求した結果、今のサイズに落ち着いたという。そんな屈強な肉体を誇る強肩強打の捕手が野口だ。

 報道陣から「尊敬する捕手は?」と問われると、野口は真剣な表情で「石伊です」と即答した。前述の大学日本代表候補合宿に同じく招集された野口は、石伊の強肩に衝撃を受けた。そしてすぐさま、石伊に教えを請うたという。

「セカンドまでというより、まずはピッチャーにきれいな縦回転のボールを返せたらいい。精度にこだわって、1年間やってきました。石伊にはクセをなくすよう教えていただいて、動画を送ってもらって参考にしていました」

 2回戦の近大工学部戦では、石伊との直接対決が実現した。どちらかが打席に入るたびに、さりげなく挨拶を交わす。そんなライバルの前で、野口は3つの盗塁を阻止する。野口は「やってきたことは間違ってはなかった」と手応えを深めた。

 持ち味の打撃面でも、亜細亜大戦で本塁打を放つなど、12打数5安打、打率.417と実力を発揮した。左足が早めに開く悪癖があるものの、「アウトコースの球を逆方向に強く弾き返す意識」を強く持つことで克服に努めている。

 6月18日から神奈川県平塚市で始まる大学日本代表候補合宿には、ワクチン接種の規定から石伊が候補に推薦されず野口のみが参加する。名実ともに大学球界を代表する捕手に君臨できれば、野口の評価も自ずと上昇していくだろう。