井上尚弥が記者を驚かせた一言とは ボクシングのWBAスーパー&IBF&WBC世界バンタム級3団体統一王者・井上尚弥(大橋)が8日、ノニト・ドネア(フィリピン)との3団体統一戦から一夜明け、神奈川・横浜市内の所属ジムで会見した。前夜はさいたま…

井上尚弥が記者を驚かせた一言とは

 ボクシングのWBAスーパー&IBF&WBC世界バンタム級3団体統一王者・井上尚弥(大橋)が8日、ノニト・ドネア(フィリピン)との3団体統一戦から一夜明け、神奈川・横浜市内の所属ジムで会見した。前夜はさいたまスーパーアリーナで2回1分24秒TKO勝ちし、日本人初の3団体王座統一に成功。世界に衝撃を走らせたが、「日本ボクシング史上最高傑作」と呼ばれるモンスターはさらなる成長を誓い、報道陣を驚かせた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 衝撃の試合から18時間後、再び衝撃を走らせた。井上が何気なく放った一言。モンスターは牙をむいたままだった。

「まだ強くなりますよ。今がピークではないです」

 2年7か月ぶりの再戦。激闘再現も期待された中、ダウンを2度奪う圧勝だった。初回の右クロスで大ダメージを与え、2回に左フックで仕留めた264秒の試合。戦前は周囲からドネアの罠、引き出しを危険視する声が多く上がったが、完膚なきまでに攻略した。

 高校卒業後、「強い相手をやる」を条件に大橋ジムに入門した。世界挑戦、2階級制覇、試合中に拳を負傷しても勝利、3階級制覇、70秒KO、右目が見えなくなってもドネア撃破……。プロ23戦、29歳で早くも多くの伝説を残してきた。

「見ている人に『どちらが勝つかわからない』と思われる試合がしたい。その方が自分の強さを引き出せる」。かねてから信条とし、強気な発言で自分に重圧をかけながらモチベーションを高めてきた。舞台が大きくなればなるほど、実力が湯水のごとく溢れ出る。その理由は何なのか。

「それだけ自分が楽しんでいる証拠なのかなと思います。これを言ったら対戦相手に失礼かもしれませんが、ランキング選手との試合(防衛戦)と今回のようなタイトルを獲り合う試合を比べると、事前の練習からの気迫が違いますし、向かっていく気持ちも違う。自分は同じように練習しているつもりですが、やっぱり心のどこかで違いが出てきてしまう。そこの差が凄く出ているのかなと思います」

 井上にとって、重圧は実力を封じ込めるものではない。理由について「わからないですね」と苦笑いすると、父の真吾トレーナーが説明した。

「1ラウンドに硬い時もあるんですけど、そこからスイッチが入って自分のペースに持っていくんですよね。そこが凄い。自分のペースに引きずりこんでいく。1ラウンドが終わってコーナーに戻った時、僕が『硬いよ』と言うと、本人も『そうだよね』とわかっている。そういう試合でも徐々に自分のペースにして、自分のやりやすいことをできる流れをつくっている。硬くなったままにならないです」

井上の引退時期は陣営の判断「自分では衰えがわかりづらい」

 一つの競技の実力を極限まで高めてきたが、「まだ強くなる」と断言できる理由がある。本人は「当てはめ方」と明かした。

「昨日は昨日でドネアに対してのボクシングがあれであって、仮にバトラー(WBO王者)とやるとしたら、また違うボクシングができるんですよ。バトラーにはバトラーを倒すためのボクシングをする。相手によって当てはめ方を変えて、どんどん成長すると思う。自分のボクシングは一つじゃなく、相手に適応していく。そこが伸びしろだなと思います」

 数多くあるボクシング技術を掛け合わせ、無数のスタイルをつくり出す。モンスターが持つジャンケンの手は3つではない。10も20も兼ね備え、勝負の最中に出し替えていく。普通のボクサーではありえない。そりゃ、強いわけだ。

 以前から「35歳で引退」と公言してきた。報道陣に「ドネアのように39歳でもやれるのでは?」と振られると、隣の父を見ながら「早く辞めてほしいでしょ?」と笑った。

「35歳ですかね。それは自分で決めるのではなく、会長、父に判断してもらいたい。ボクシングって、自分では衰えがはっきりとはわかりづらいと思うんですよ。スピードや反射は自分ではわからない。そういうところを見て判断してもらいたい」

 真吾トレーナーも続いた。

「そこに気づくのは自分(真吾氏)だと思うんですよ。やっぱり『反応がよくなかった』『鈍くなったよ』とか。こちらの目に見えるようになったら、話をしないといけない。そこは心配になってしまうことなので」

 小学1年でボクシングを始めた息子をずっと見てきたからこそ、ほんの些細な変化も見逃さない。今でも「気を抜かない」「冷静に」と、口酸っぱくふんどしを締めさせるのが役割だ。

 リング内外で衝撃を与える怪物。緊張感を募らせた調整期間、過酷な減量、キャリアを左右する大一番を終えた。ようやく重荷から解放された今、何をして過ごしたいのか。

「練習がしたいですね」

 ざわめく報道陣。驚くのにも疲れてきた。狙うはWBO王者ポール・バトラー(英国)との4団体統一戦。こちらが少し休みをもらい、次のビッグマッチまで英気を養いたい。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)