女子プロレスラーSKE48荒井優希インタビュー 前編 昨年5月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会でプロレスデビューしたSKE48荒井優希。アイドルの片手間かと思いきや、週3回、名古屋から東京の道場に通うほど熱心に練習し、「2021年度プ…

女子プロレスラー
SKE48荒井優希インタビュー 前編

 昨年5月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会でプロレスデビューしたSKE48荒井優希。アイドルの片手間かと思いきや、週3回、名古屋から東京の道場に通うほど熱心に練習し、「2021年度プロレス大賞」で新人賞を受賞。今年3月19日、両国国技館大会において、インターナショナル・プリンセス王者・伊藤麻希を相手に初のタイトルマッチを行なった。その試合は惜しくも敗れてしまったが、感情むき出しのファイトに多くのプロレスファンが度肝を抜いた。

 荒井がここまでのレスラーになると誰が予想していただろうか。プロレスデビューから1年が過ぎた彼女に、今の心境を聞いた。


Finally(かかと落とし)を得意技とするSKE48の荒井優希

 photo by 林ユバ

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――デビュー戦と最近の試合を見比べると、別人のようです。ご自身でも手応えを感じているのでは?

荒井優希(以下、荒井):私はあんまりプロレスに詳しくないので、自分の動きがどう変わったとか、動けるようになったとか、そういう実感はないんですけど。やっぱりデビュー戦と比べると気持ちがだいぶ違います。デビュー戦の時は不安と緊張しかなかったけど、今は試合中に楽しむ余裕もありますし、少しずつ周りを見られるようになってきました。

――荒井選手のデビュー戦をあらためて観たのですが、相手から攻撃されてもあまり痛そうじゃないんですよね。絶対、痛かったと思うんですけど。

荒井:めちゃめちゃ痛かったです!

――デビュー戦って、みんなそうなんですよ。絶対に痛いのに、あんまりそう見えない。痛みを伝えるのってすごく難しいと思うのですが、今の荒井選手はものすごく痛そうなんです。

荒井:アイドルをしてると、ケガをしていても隠すんです。ファンの方が心配しちゃうので、見えないところでテーピングをしたり。だから最初の頃は、試合後、ファンの方に「大丈夫? 痛くない?」って聞かれても、「痛くないです!」って強がってたんですよ。ファンの方も私がやられている姿を「見てられない」という人が多かった。でも最近は見慣れてきたのか、「どんどん行け!」みたいな(笑)。私も、痛い時は痛いって言っていいんだなって思いました。

「殴られるとは思っていなかった」


入場時の荒井

 photo by 東京女子プロレス

――痛みを隠すのがアイドルで、痛みを伝えるのがプロレスラーなんですね! 真逆ですが、切り替えは難しくないですか?

荒井:むしろ、痛い時に痛いって言っていいとか、つらい時につらいって言っていいとか、めちゃめちゃ楽じゃないですか。ありのままの自分を好きになってもらえたらなって、今はさらけ出してますね。

――プロレスをやるにあたって、アイドルとして顔面を殴られたりすることに抵抗はなかったですか?

荒井:なかったです。殴られるとも思ってなかったというか。

――えええっ!?

荒井:プロレスを観に行ったことはあったんですけど、遠くからしか観てなかったんです。人がそんなにぶつかってるとかもあんまり理解せずに、「キラキラしてる!」「入場カッコいい!」みたいな楽しみ方をしてたんですよ。最前列で観てたら、たぶんプロレスをやろうとは思わなかった。近くで観たら普通に怖いですよね。

――すごい話ですね(笑)。でも練習が始まったら、痛いわけじゃないですか。

荒井:「あれ?」ってなりました。ロープに当たった瞬間に嫌な予感がして、「待って、これめっちゃ痛くない......?」みたいな。隠してケガをしたらよくないと思って、痛いってめっちゃ言いました。「すごく痛いんですけど。これって(練習方法が)合ってますか?」って。

――アハハハハ! 合ってたんですか?

荒井:合ってました(笑)。みんなが「それは痛いもの」って言うから、私も「じゃあ我慢します」と。びっくりしちゃいましたね。

――デビュー戦ではまだ声が出てなかったんですよね。だから痛そうに見えなかったというのもあると思うんですけど。

荒井:いっぱいいっぱいで、痛みよりも「次はどうしよう?」と考えるほうが先に来たというか。痛みにちょっと強いのもあります。人よりは我慢できる。あんまり騒がないタイプなので、それよりも緊張が上回ってました。

SKE48のメンバーやファンに見せない顔

――いつ頃から声を出せるようになったんですか?

荒井:もともと、私生活で叫んだりとかしないタイプなんです。喜怒哀楽の何個か欠けてるんですよ。あんまり怒ったりしないし、まず感情的にならない。だから感情表現のところで、最初は笑顔とかしかできなくて。

――どうやって痛みや苦しみを表現できるようになったんでしょう?

荒井:『豆腐プロレス』(2017年にテレビ朝日系列で放送された、AKB48グループのメンバーが多数出演するプロレスをテーマとしたテレビドラマ)の時に「声が小さい」って注意されて、感情的に声を出す練習をすることになったんです。そこで完全にリミッターが外れました。その経験があったから、東京女子プロレスに来てからそこはあんまり考えてなかったです。

――今は試合中、喜怒哀楽がすごく出ていますね。

荒井:ファンの方とか(SKE48の)メンバーとか、すごくびっくりしてます。SNSに写真を載せると、メンバーにめっちゃ驚かれます。「こんな顔するんですね......」みたいな。痛がってる顔とかも、あんまり見せたことがないし。普段、そんなに痛いことってないですしね(笑)。

――プロレスは2021年いっぱいでやめようと思っていたとか。

荒井:やめようと思っていたわけじゃなくて、「一回やってみませんか?」と提案された期間が2021年いっぱいだったんですよね。半年くらいだったら、もし向いてなくても耐えられるんじゃないかと思ってやってみたんですけど、序盤で「続けなきゃな」と思いました。

――なぜ「続けなきゃな」と思ったんですか?

荒井:ただ試合に出るだけかと思っていたら、ファンの方も先輩方も、私に求めているものがもっと他にあったんです。例えばタイトルマッチに挑戦してほしいとか、ベルトを獲ってほしいとか。そういうことを言われ始めた時に、この成長速度じゃ年内には間に合わないなと思って、じゃあやめるのかと言われるとすごい中途半端だったから、それはないなと思って、早めに「続けたいんですけど」って言ってましたね。

――そもそも「プロレスやってみない?」と言われて、「やってみたい」となるのがすごいです。

荒井:私、ヤバいんです(笑)。そんなに一大事だと思ってなかったんですよね。それに、もし断って、自分じゃない人が楽しんでやってたら後悔するんじゃないかと思って。「ちょっとでも後悔すると思うんだったらやったほうがいいな」って。そういうチャンスって滅多にこないじゃないですか。だから、やりたいと思いました。

――プロレスをやってみて、よかったと思いますか?

荒井:思います、すごく。

――「2021年度プロレス大賞」で新人賞を受賞されました。

荒井:新人賞をいただけたことで、もっと前向きになれたというか。それまで「SKE48だからいっぱい取り上げられている」とかも言われてたので、どこかで「自分が(プロレスを)やってるとあんまりよくないんじゃないか......」と思ってたんですけど。賞という形で評価していただけて、すごく嬉しかったです。新人賞を獲った方って、みんなすごい方たちですよね。だから私も価値を落とさないようにしなきゃと思う。本当にいいきっかけをもらいました。

(後編:「プロレスをやっているからSKE48選抜から落ちた」と言われても、女子プロを代表するレスラーを目指す>>)

【プロフィール】
■荒井優希(あらい・ゆき)
1998年5月7日、京都府生まれ。167cm。SKE48チームKIIのメンバー。2021年5月4日、東京女子プロレス後楽園ホール大会にてプロレスデビュー(渡辺未詩&荒井優希vs伊藤麻希&遠藤有栖)。東京スポーツ主催「2021年度プロレス大賞」で新人賞を受賞。