5月29日、東京体育館で行なわれたBリーグファイナルで、宇都宮ブレックスが琉球ゴールデンキングスに2日連続で勝利を収め…

 5月29日、東京体育館で行なわれたBリーグファイナルで、宇都宮ブレックスが琉球ゴールデンキングスに2日連続で勝利を収め、2021−22シーズンの王者となった。

 ワイルドカードとしてチャンピオンシップ(CS)進出を決めた宇都宮だったが、クォーターファイナルの千葉ジェッツ、セミファイナルの川崎ブレイブサンダース、そして決勝の琉球を相手に負けなしの6連勝で、リーグ創設初年度の2016-17以来、2度目の王座戴冠となった。


優勝に大きく貢献したエースの比江島慎

 ©B.LEAGUE

 昨季はリーグ最高勝率を挙げながらファイナルで千葉に敗れた宇都宮だったが、今年のファイナルでは比江島慎がCS最優秀選手(MVP)に選出される活躍でチームを牽引し、優勝杯を手にした。

「えー......本当にタフな試合で、無我夢中で......そこまで試合内容は覚えてないんですけど...えー、何ですかね、チャンピオンシップを通して我慢して我慢して、相手に流れが行きそうなところでもチームで耐えきって......まあ、優勝できてよかったです」

 5年ぶりのBリーグ優勝を決めた宇都宮の記者会見。文句なしにCSの最優秀選手となった比江島慎の言葉は、いつもどおり「比江島慎」らしさ全開だった。

「ええー!」

比江島のコメントが唐突に「まあ、優勝できてよかったです」で終わってしまったため、同席したチームメイトの鵤(いかるが)誠司から「それで終わり!?」と、笑いの混じった驚きの声が漏れた。

 31歳の比江島は口下手だ。饒舌であったところを、少なくとも取材をとおして見たことがない。しかし、コート上では力強く勇ましいプレーを披露する。

 比江島は今回のファイナルで、初戦に17得点、第2戦で24点を記録したが、最終クォーターでの勝負強さが出色だった。第1戦では11得点、第2戦では14得点を挙げチームを牽引した。

 ハイライトは第2戦の残り50秒を切ってからのバスケットカウントとなるレイアップだった。目の前には206cmの琉球の巨漢、ジャック・クーリーがいたものの、比江島は迷うことなくリングをアタック。クーリーからのファウルをもらいながら難しいレイアップをねじ込み、フリースローを決めて「3点プレー」とした。これにより、点差は5に。安全圏とは言えなかったが、アリーナの雰囲気を一気に宇都宮に変え、琉球のファンに嘆息させる、そんな場面だった。

 そして「舞台」は最後まで比江島のものであり続けた。残り時間で勝利を手繰り寄せるフリースローを決めると、終了間際に琉球のコー・フリッピンからボールをスティールし、そのままゴール。本人もチームも、黄色のTシャツを来た宇都宮ファンたちも狂喜する最高の形で、シリーズを締めくくった。

比江島を中心に見事な快進撃

 比江島が光り輝いたのは、ファイナルだけではなかった。宇都宮はクォーターファイナルで千葉、そしてセミファイナルでは川崎という東地区上位2チームを、それぞれアウェーで打ち破ったが、比江島はいずれの試合でも確たる仕事をした。レギュラーシーズンでは平均11.5得点、3.7アシストだった男は、CSで同18.7点、5.2アシストとギアを上げ、ワイルドカードでの出場だったチームの快進撃を演出した。

 2019-20年に宇都宮に加入した比江島にとっては、Bリーグで初めての優勝となった。2018-19に挑戦したNBLブレスベン・ブレッツや2019年夏にニューオリンズ・ペリカンズの一員として参加したNBAサマーリーグでは力量を発揮できず、辛酸を味わった。日本代表でも、八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邉雄太(トロント・ラプターズ)らが加入してきたこともあって、彼の持ち味は影を潜めた。宇都宮に来てからも激しいディフェンスと自己犠牲を是とするチームへのフィットに苦しんだ。

 そして、昨季はファイナルで最終第3戦まで持ち込みながら千葉に敗れ、比江島は3試合で平均6.7点と封じられ、敗因とされた。

 今回は、自らの手で勝ち取った優勝であり、様々な過去が脳裏に去来したのか、涙がとめどなくあふれた。

「ひとつの夢でもあったので長い道のりでしたけど、やってきたことは間違っていなかったことを証明できましたし、本当に今日は、優勝を分かち合いたいです」

 コート上での優勝インタビューで、比江島はいつもよりも少しだけ感情的な声のトーンでそう話した。

会見でも、平坦ではなかったここまでの道のりを振り返った。

「ブレックスに移籍してからも戦術理解に時間がかかりましたが、それでもこの1年、成長を感じられましたし、チームメイトやスタッフが自分を信じてくれたおかげもあった。それを結果で証明できたのがうれしいです」

 2019年、サマーリーグで結果を出せなかった時には「自分に実力がないだけじゃないですか」と言い、W杯後はサマーリーグの出来と併せて「自信をなくした夏でした」と、自虐的な言葉を残した。

 洛南高校、青山学院大学で全国一を味わい、Bリーグ以前のNBL時代にはアイシン・シーホース(現・シーホース三河)で頂点に立った。しかしBリーグが始まってからは優勝が遠く、上述のとおり海外挑戦等で苦汁を味わってきた。

 だが、比江島はそうした澱のようなものをすべて吐き出すかのように、本領を発揮。川崎とのセミファイナルでは、自身が「ペイントにアタックすれば何かが起こる」と、自身の役割が明確となり吹っきれた様子だった。その言葉どおり、ファイナルでもリングをアタックし続けた。そしてその姿勢が、優勝とCSのMVPという形で報われたのだ。

自己犠牲あってのチームワーク

 宇都宮としての戦いぶりもまた見事で、改めて彼らの「チーム」としての強さを感じたポストシーズンだった。今季、ライアン・ロシター(現・アルバルク東京)やジェフ・ギブス(現・長崎ヴェルカ)といった長年、チームの屋台骨を支えてきた選手が去り、CSではワイルドカードのシードからアウェーで強豪相手に全勝で最後まで駆け抜けた戦いぶりは、「感服」以外にない。

「ハードにプレーする」というのは正直、どのチームも言うことだが宇都宮が違うのは、そこを大前提とする「自己犠牲」があることだ。比江島以外に、個の力量が突出した選手はいないなかで、優勝に必須とすら言われる帰化選手の存在もない。現代バスケットボールの潮流はビッグマンでも3Pが打てることなのに、このチームの3人の外国籍選手のうち2人はそれをあえてしない。

 それでも勝ったのは、やるべきことを正しくやったからで、選手たちが自らを犠牲にしてチームに捧げることのできる「文化」が定着しているからだ。

 劣勢に陥った際に「タイムアウトを取らなくてもコート上で選手たちが解決してくれる」と選手たちを評したのは、安齋竜三ヘッドコーチ(HC)だ。バスケットボールIQが高く、ブレックスのやり方をよく理解するベテラン選手が多いのも大きい。

 ワイルドカードという下位シードからCSに入ったこともあって、安齋HCは「チャレンジ」という言葉をしつこいほどまでに強調した。選手たちもそれに応えるかのように、アウェーでの戦いを強いられながらも動じず、自慢の激しく、多彩なディフェンスを中心に自分たちのスタイルを見失わずに、勝ち続けた。

我慢強く、粘り強く

 決勝進出のかかったセミファイナル、川崎との第2戦。拮抗する「我慢比べ」を制したのは宇都宮で、試合後に古参選手である渡邉裕規は、我慢と不利な状況でも前を向き続けられたことが、CSでの快進撃の理由とした。

「今日の試合でも、相手の勢いの乗るようなプレーが何本も続いて、投げ出そうと思えば投げ出せる展開は何度もありましたけども、メンバーは変わりながら自分たちもびっくりするくらい団結力が出ています。(新たな選手たちが加わって)1年経っていないなかでここまでの仕上がりに持ってこられたのは、本当にすばらしいなと思います」

 その「我慢強さ」は、6試合のスタッツにも表れている。例えば端的にミスの数と言っていいターンオーバーの数。レギュラーシーズンで平均10.9だった同軍のそれはポストシーズンでわずか7.7。ディフェンスなどのプレー強度が格段に上がるポストシーズンでのこの数字は驚きだ。また、相手のターンオーバーからの得点が平均15.7(相手は6.5)と、このあたりからも宇都宮の粘り強さ、しつこさが見えてくる。

 安齋HCも渡邉同様、川崎との第2戦のあと、高揚した口ぶりで自身の選手たちをこう称えた。

「チャンピオンシップに入る前からですけど、うちの選手の、やるべきことをやろうとする遂行力は、自分で指揮を執っていてもすごいなと思いました」

 宇都宮に敗れはしたものの、琉球もリーグ史に残るシーズンを送った。コロナ禍のために試合数はやや少なくなってしまったものの、途中、Bリーグ記録となる20連勝を記録。レギュラーシーズンの勝率8割7分5厘も、やはり史上1位となる数字だった。西地区のチームとしても初めてBリーグファイナルの舞台に足を踏み入れた。様々な「初」をマークした、特筆すべき1年だった。

 ファイナル直前にチームのエースポイントガード・並里成がコンディション不良により欠場した(宇都宮も喜多川修平を同様の理由で欠いた)ことは、言うまでもなく痛かった。しかしシリーズ終了後、琉球の桶谷大HCは宇都宮の「乗せないように、乗せないように」という流れに「してやられた」とし、そこを「経験の差」と振り返った。

 それでも桶谷HCは「清々しい」心境だとして顔を上げ、こう言葉を紡いだ。

「結果こそ出なかったですが、ここに立たせてもらって『ありがとうございます』という(気持ちです)。これからこのファイナルの経験がキングスにとってかけがえのないものになると思うので、またここに戻ってきたいと思います」

 新型コロナウイルスによる影響も、まだまだ先が見とおせない状況にはあるが、宇都宮のCSでの快進撃や琉球の躍進を見ると、来シーズン以降のBリーグが、さらに面白くなっていきそうな予感がする。