ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 ゴールデンウィークが終わり、東京競馬場でのGI5週連続開催もはや2戦…
ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
ゴールデンウィークが終わり、東京競馬場でのGI5週連続開催もはや2戦が終了しました。
そのマイルGI2戦、NHKマイルCとヴィクトリアマイルは、ともに1分32秒台の決着。開催前日までの雨で少し時計がかかったこともあってか、両レースともに最低人気馬があわやの競馬をしたことが驚きでした。
NHKマイルCでは、カワキタレブリーがほぼ最後方からの競馬で上位馬を差しきる勢いで3着に入線。片やヴィクトリアマイルでは、ローザノワールが逃げて残り1ハロンまで先頭に立っていました(結果は4着)。
GIで最低人気馬が馬券圏内(3着以内)に入るのは相当難しいことですが、2週続けてそんなシーンが起こる寸前までいったのですから、今後のGIでも「どの馬にも可能性を排除してはならない」という教訓になったと思います。
それを踏まえて、今週行なわれる3歳牝馬二冠目のGIオークス(5月22日/東京・芝2400m)の行方を占っていきましょう。
まず今年の3歳牝馬戦線は、例年と比べても絶対的な存在が見当たらず、条件や展開によって走る馬が変わる、というような力関係にあります。そうした状況にあって、一冠目のGI桜花賞(4月10日/阪神・芝1600m)は、内枠と先行馬が有利な競馬になりました。
10着ぐらいまで差のない大接戦でしたし、さすがにあの一戦だけでは勝負づけが済んだとはとても思えません。この路線はいまだ混沌としています。オークスでも波乱が起こる可能性は想定しておくべきでしょう。
毎年言われることですが、オークスはほぼすべての馬にとって初距離になることで、レース序盤はどの馬も様子見に構えます。それゆえ、スローに流れて残り3ハロンからの末脚勝負、というのがお決まりのパターン。極端に折り合いを欠くことがなければ、スタミナはあまり問われないので、マイラーであっても距離をこなせてしまうケースが多々見られます。
そして、そういった競馬になれば、これまでのレースにおいて上位の末脚を発揮してきた馬が勝ち負けを演じることが多いです。
そう考えると、桜花賞で不利な外枠発走ながら、メンバー最速の上がりを繰り出して4着に食い込んだサークルオブライフ(牝3歳)は有力な1頭です。折り合いに心配のある馬でもないですし、オークス実績十分の厩舎(国枝栄厩舎)の手腕を鑑みても、かなりチャンスの大きい馬だと思います。
2歳時にGIIIアルテミスS(東京・芝1600m)を勝った時、僕は「この馬はオークスに向きそうだな」という感想を持ったのですが、今でもその思いは変わりません。鞍上も過去3年のオークスで2勝を挙げているミルコ・デムーロ騎手。ここは、自信を持って乗ってきそうですね。
桜花賞を制したスターズオンアース(牝3歳)も、オークスの舞台にはいいイメージがあります。ドゥラメンテの子で、脚長で大きなストライド走法ですから、もともと長い距離が合いそうだなと思っていました。
むしろ、桜花賞のような馬群が密集する競馬でよく勝ちきったな、というのが正直なところ。僕が考えている以上に、対応力があるのかもしれません。走る毎に鞍上が替わる点が気がかりですが、今回もクリストフ・ルメール騎手なら不足はないでしょう。
前走でリステッド競走の忘れな草賞(4月10日/阪神・芝2000m)を勝ったアートハウス(牝3歳)も注目です。
川田将雅騎手が乗った2戦はどちらもスローペースを折り合って、終(しま)いで突き放す競馬で勝ち上がりました。前走も、オークスへ向けての予行演習という点でも満点の競馬をしていると思います。多頭数の競馬や初の長距離輸送などをクリアできれば、有力候補の1頭になります。
ここまで有力馬を見てきましたが、僕がひとつ気になっているのは"3歳牝馬路線がスローの競馬ばかりであること"です。桜花賞をはじめ、忘れな草賞も、GIIIフラワーC(3月21日/中山・芝1800m)も、GIIフローラS(4月24日/東京・芝2000m)も、オークスの前哨戦と呼ばれるレースはすべてスローでした。
特にフローラSでは前がスローで逃げているにもかかわらず、誰も追いかけずに縦長の隊列になりました。前が飛ばしているように見えて、実はそんなにペースは速くないというレースだったんですよね。後続の乗り役が勘違いすることで起こる現象ですが、折り合いを重視しすぎると、そんな展開になる場合があります。
それを演出したのが、2着に粘り込んだパーソナルハイ(牝3歳)の手綱をとった吉田豊騎手。吉田豊騎手と言えば、今年はパンサラッサとのコンビで中山記念を逃げきって、その後、海外GIのドバイターフでも迷いなく逃げて栄冠をつかみました。基本的に「行く」と決めたら、思いきった騎乗をするジョッキーです。

フローラS2着のパーソナルハイ。オークスでの奮闘も期待される
オークスでもパーソナルハイとコンビを組む吉田豊騎手。フローラSでは最終的に逃げて捕まっていることから、今回もおそらく、どの騎手からもマークされることはないでしょう。行こうと思えば、どんどん後続を離して逃げても、ノーマークのまま運べるはずです。
この馬は、逃げた時は1着、2着、2着とすべて馬券圏内。逃げてこそ、力を発揮する馬に見えます。今週末、再び雨が降って少しでも時計がかかるようなら、さらにチャンスは増しそうです。
もし東京・芝2400mで離し逃げを決めた場合、かなりの大穴になるのではないでしょうか。距離は違いますが、冒頭でも触れたように先週のヴィクトリアマイルでは、誰もが「最後は捕まる」と思ってノーマークになったローザノワールがあわやという見せ場を作りました。決して侮ることはできません。
どの馬もスローに慣れている世代だからこそ、引き離した逃げをした際は"行った行った"に要注意。今回は、このパーソナルハイを「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。