『GET SPORTS』(テレビ朝日)や『筋肉番付』(TBS)などの企画・構成を手掛けてきた放送作家の伊藤滋之氏と、スポーツジャーナリスト中西哲生氏がオーガナイズし、ゲストには様々な競技のアスリートや指導者を迎えてスポーツを伝える”言葉”を探求するライブ・イベント『ALE14(エイル・フォーティーン)』。



短いパットはなぜ外れるのかについて語ってくれたティーチングプロの安藤秀氏 これまで元巨人の鈴木尚広氏、元ヤクルトの古田敦也氏などが登壇してきたが、4月24日は安藤秀氏(ゴルフA級ティーチングプロ)と中野崇氏(スポーツトレーナー)、同26日は平野早矢香氏(ロンドン五輪・卓球女子団体銀メダル)とバラエティに富んだプレゼンターが登場。各々の経験に裏付けられた”言葉”からは、スポーツを新たな視点から楽しめるエッセンスがちりばめられていた。

■短いパットはなぜ外れるのか?

 独自の「コンバインドプレーン理論」に基づき、ゴルフの普及・発展に務めている、PGA(日本プロゴルフ協会)のA級ティーチングプロである安藤秀氏は、「短いパットは、なぜ外れるのか?」をテーマに、いくつかの原因とその対策についてプレゼンした。

 パットが外れる原因のひとつは「そもそもパターの向きが間違っている」というもの。フェイスの向きさえ直角になっていれば、パターは入ります」ということなのだが、これが実に難しい。

 この直角にする感覚を身につけるための有効な練習は「外す練習をする」ことだと言う。フェイスを右に向けると当然右に転がる、左に向けると左に転がる。右に10cm、左に10cm。右に5cm、左に5cm、3cm……と外す感覚を確認していくと、直角への感覚が磨かれていく。

 そしてパットが外れるもうひとつの大きな原因が、「パターを真っすぐ引いて、真っすぐ出す」というもの。真っすぐ引いて、真っすぐ出すのは当たり前のことと思っていたが、実は大きな誤解なのだと安藤氏は言う。

「パターヘッドは真っすぐ動きません。真っすぐ動かすと曲線を描いてしまう。それはパターヘッドの棒は垂直にしてはいけないというルールがあり、角度があるためです。この部分をまっすぐ動かそうとすると、かえってカーブを描いてしまうのです」

 この点を踏まえ、真っすぐではない手の動きを意識することが必要だと、安藤氏は説明する。

 また、パットを外した際、悔しがる前に「なぜ外したか」を理解することが重要だと安藤氏は力説する。どうしたら失敗が起こるのかを確認し、対策を練ることが成功につながるのだ。

■日本人に適したトレーニングを編み出すために



2015年にブラインドサッカー日本代表のフィジカルコーチに就任した中野崇氏 スポーツトレーナーの中野崇氏は、プロ野球選手をはじめ、プロサッカー選手、五輪メダリストなど20種目以上のトップアスリートのトレーニングを指導。2015年には、日本ブラインドサッカー史上初となる代表チームのフィジカルコーチにも就任した。”日本人に適したトレーニング”を手がける一方で、その競技が生まれた背景を理解することの重要性を提唱する。

「文化・ライフスタイルによって、得意な動きは変わります」と語る中野氏が一例として挙げたのがヨーロッパのトイレ。中野氏もよく出張の機会があるというイタリアのトイレの写真が映し出された。便器の横にあるお尻などを洗うビデ。

「(便器で用を足した後、ビデには)便座から横移動しないといけない。でもこれは現地であれば当たり前の動きと言えます。実は、そのときの体勢がスポーツでいうとパワーポジションにすごく近いのです。これが当たり前になっているところと、日常でこういう動きがほとんどない日本では、やはり違いが生まれます」

 もうひとつの例として挙げたのが、「重」という言葉。

「一般的に欧米は狩猟民族、日本人は農耕民族と言われていて、狩猟民族=高重心系の得意分野は高速移動です。農耕民族=低重心系はどっしり安定型。どういう体勢が好まれるか、重いという言葉を使った単語を思い浮かべてみてください。漢字の”重”は比較的ポジティブ、英語の”heavy“はネガティブな言葉に使われることが多いですよね」

 たとえばサッカーは、高重心系民族の地域から生まれたスポーツ。するとうまくパフォーマンスを出していくためには股関節をうまく使うことが要求されます。こういったスポーツは日本からは生まれにくいです。(日本人がサッカーをするということは)高重心系から生まれたスポーツを低重心系がやる、つまり”低く”なりがちな人が”高く”ないとできないというハンデがあります。また、欧米式のトレーニングも高重心の人が作ったものです。『同じトレーニングでいいのか?』『同じことをやっていて追いつけるのか?』という考えをもって取り組んでいます」

 ブラインドサッカー日本代表においても、欧州の選手との対戦時「力で勝とうとするのはやめてくれ。オレらは”いなし”で世界一になろう」と伝えているという。

 また、指導における「言葉」の重要性についても語られた。

「トレーニングに名称をつけること。情報を共有するというのが(言葉の持つ意味の)ひとつですね。もうひとつは、『いいよ』という言葉をしっかり与えること。それでOKということを意図的に伝えるようにしています」(中野氏)

「(指導者が)これでよかったよと言ってくれることはすごく少ないですよね。『これでいい』と言ってくれれば、それをやろうと思うものです。”OK“がすごく大事なんです」(中西氏)

 言葉ひとつとっても、共通の認識をお互い築いていくことが重要だ。

■卓球の見方が深まる「私が5回日本一になれた理由」

 平野早矢香氏は、2008年の北京、2012年のロンドンと五輪に2大会連続出場。ロンドン五輪では卓球女子団体で銀メダルを獲得。全日本選手権の女子シングルスでは、3連覇を含む優勝5回と女子卓球界をリードしてきた。2016年に現役を引退し、現在は後進の指導にあたっている平野氏が、「私が5回日本一になれた理由」として、現役時代にプレー中どのような点を意識していたのかを明かした。



ロンドン五輪の卓球女子団体で銀メダルを獲得した平野早矢香氏「卓球においてプレーしている平均時間は(試合中の)19%しかありません。その(プレーしていない)間、選手はどのように過ごしているのか。前のプレーの反省をしたり、次の作戦を練ったり、あれこれ考えています、私が常に心がけていたことは、表情や仕草から相手の心を読むことです。ボールを打つパワーやスピード、テクニックなどに特徴のなかった私ですが、相手の情報を読もうと神経を研ぎすませていました」

 そこで重要だったのが卓球というスポーツの特性だ。(卓球台の全長)2m74cmしかない相手との距離。これだけ近い距離だからこそ、わずかな仕草の変化も見ることができるのが、卓球というスポーツなのだ。

 それでは実際に相手のどんなところを観察していたのだろうか。

「失点をしたときに、選手が素振りをしているシーンを見たことがありませんか。これは反省をしながら、頭のなかで確認作業をしているのですが、その仕草から相手の打ち方を想像し、対応してきました。たとえば、相手選手がフォアハンドで素振りをしているなら、あえてフォアハンドで打ちにくいコースに打っていこうと。素振りの角度や方向を見て、相手は何を狙っているのかを読んでいました」

 もうひとつ、自らの戦い方として挙げたのが「相手の攻めを利用して得点につなげる」ということ。

「自分から決めにいくのではなく、相手の攻めを利用して得点につなげていました。試合中、1点取りに行きたいと思っても、世界のトッププレーヤーが相手となると、なかなか難しいものです。”後の先”これは剣道の用語で相手の動きを見て差すことですが、コーチがよく使っていたのは”後手先”という言葉。私なりの解釈は、相手のやりたいことをあえてやらせるということです。簡単そうに見えて、実際は簡単ではないボールを送るのですが、相手が『待ってました』とばかりに決めにきたら、しめたもの。そんな形で得点につなげていました。また、相手に自分のペースでラリーが続いていると思わせながら、なかなか得点につながらないという形でストレスをかけていました」

 これは中西氏も、サッカーにおけるゴール前の駆け引きと共通する部分があると語っていた。

 このように、様々なスキルを”言葉”に落とし込んだプレゼンテーションが繰り広げられる『ALE14』。今後の予定は、5月29日(月)に元サッカー日本代表 岩政大樹氏、6月20日(火)は競泳の元日本代表・伊藤華英氏がそれぞれプレセンターとして登壇する(いずれも東京・恵比寿アクトスクエアにて開催)。

『ALE14』

[問い合わせ]ale14@tiesbrick.co.jp