(写真左から)奥川恭伸、佐々木朗希、石川昂弥、西純矢、及川雅貴17歳・佐々木朗希が驚愕の163キロ 佐々木朗希(ロッテ)…

(写真左から)奥川恭伸、佐々木朗希、石川昂弥、西純矢、及川雅貴
17歳・佐々木朗希が驚愕の163キロ
佐々木朗希(ロッテ)がどんなに人間離れしたパフォーマンスを見せても、初めて目撃した日の衝撃が薄れることはないだろう。2019年4月6日、U−18高校日本代表候補合宿の紅白戦に登板した佐々木は、すさまじい投球を見せた。
そのストレートを1球見た瞬間、「ぷっ」と吹き出してしまった。明らかにひとりだけ異質なスピード感と迫力。マウンドに立つと異様に大きく見えて、捕手までの距離が短く感じる。「そんなに近くから投げたら危ないじゃないか」と注意したくなるような、非日常的な存在。人間は自分の理解を超える出来事を前にすると、自然と笑いがこみ上げてくると知った。
佐々木の降板後にスカウトのスピードガンで最速163キロを計測したと聞いたが、そんな数字などもはや蛇足でしかなかった。この日、佐々木は「変な力が入った」と不本意な内容だったと強調した。
現在の佐々木は力感ないフォームで160キロ台を連発する恐ろしい投球スタイルだが、この時の佐々木は完全にフルスロットル。その力感あふれるフォームとボールには、殺気すら覚えた。
いつか佐々木朗希という偉大な投手を振り返る際、この代表候補合宿で見せた投球は「伝説」として語られるに違いない。
この代表候補合宿は2019年4月5日から3日間にわたって開かれた。夏に韓国で開催される第29回WBSC U−18ベースボールワールドカップに向けた国際大会対策研修合宿と銘打ち、佐々木を含め全国から37名の一次候補選手が選ばれた。
今にして思えば、なんと豪華な顔ぶれだったのだろうとため息が出る。代表的な選手を挙げてみよう。
佐々木朗希(大船渡/現・ロッテ)
奥川恭伸(星稜/現・ヤクルト)
宮城大弥(興南/現・オリックス)
西純矢(創志学園/現・阪神)
及川雅貴(横浜/現・阪神)
山瀬慎之助(星稜/現・巨人)
紅林弘太郎(駿河総合/現・オリックス)
石川昂弥(東邦/現・中日)
森敬斗(桐蔭学園/現・DeNA)
黒川史陽(智辯和歌山/現・楽天)
内山壮真(星稜2年/現・ヤクルト)
一次候補の37選手中21選手がすでにプロ入り。今後もその数は増えていくだろう。
佐々木が圧巻の投球を見せた一方で、現時点でのプロ通算勝利数で上回る宮城大弥や奥川恭伸は紅白戦で失点を重ねるなど、本来の出来ではなかった。

駿河総合高校時代の紅林弘太郎
スカウトの評価を上げた紅林と黒川
それでも、この代表候補合宿でスカウトの株を上げた選手も多かった。
たとえば紅林弘太郎だ。静岡県内では好素材と知られていたものの、全国大会の実績は皆無。だが、全国区の有望選手に混じっても、その潜在能力は際立っていた。
身長186センチと大型ながら機敏なフィールディングに、三遊間の深い位置から伸びる強肩を披露。打撃ではやや当てにいくシーンもあったものの、ヘッドをしならせたスイングには底知れないスケールを感じさせた。紅白戦では奥川からレフトへ二塁打を放っている。
そんな紅林も、佐々木の前には手も足も出なかった。佐々木が登板した1イニング目の3人目の打者として対戦し、スライダーを空振り三振。2イニング目は無死一塁から始まる変則ルールのため、紅林が一塁走者に。佐々木の140キロ台のスライダー、フォークを捕手の藤田健斗(中京学院大中京/現・阪神)が止められなかったため、労せず三塁まで進んでいる。
紅白戦後、紅林に打者・走者の立場から佐々木のボールがどう見えたか聞くと、こんな感想が返ってきた。
「ボールが生き物みたいに動いていました。こんなの初めて見ました」
紅林はその後、ドラフト2位でオリックス入り。その3年後、今度はプロの舞台で完全試合の餌食になるとは、紅林も想像しなかったに違いない。
黒川史陽の打撃力も際立っていた。この代表候補合宿では、国際大会を見据えて木製バットを使用した。順応に苦しむ打者が多いなか、黒川はフリーバッティングから快打を連発。紅白戦では西純矢から右中間フェンスを直撃する二塁打を放った。二塁手としての守備力は平凡ながら、打撃力は十分にプロの素材だと強く印象づけた。
黒川は5季連続で甲子園に出場した有名選手だったが、甲子園通算打率は3割未満。大きなアピールができていたわけではなかった。それでも、代表候補合宿で見せた木製バットへの順応性は黒川の資質の高さを物語っていた。楽天の後関昌彦スカウト部長は、かつて黒川についてこう語ったことがある。
「正直言って、甲子園を見た時の評価はそんなに高くはなかったんです。でも、練習を見たら『これは一番いいな』と。バッティングは振る力がしっかりありましたし、練習する姿勢が本当によかった。『この子は本当に野球が好きなんだろうな』と。昨年のドラフト会議前に、社長やGMの前で『誰が一番ほしいですか?』と聞かれた時、私は『黒川です』と答えました」
楽天は同年ドラフトで黒川を2位指名する。早くもプロで定位置を獲得した紅林とは水を開けられた感はあるものの、黒川の打棒が本格的に花開くのはこれからだろう。
試合だけで選手の資質を見抜くのは困難だと言われる。後関スカウト部長が黒川の練習を視察したように、多くのスカウトは練習での動きや取り組みをチェックする。

この合宿で評価を上げ、DeNAから1位指名を受けた桐蔭学園の森敬斗
大学・社会人に進んだ逸材たち
この代表候補合宿ではフリーバッティングやシートノックもあったため、選手の実力が一目瞭然だった。ノックでは同ポジションの選手と技術を比較できるため、能力が抜けていればすぐに目立つのだ。
紅林を含め有望なショートが多数招集されたなか、森敬斗の肩は目立っていた。当時身長175センチ、体重68キロと体格的には平凡ながら、鋭い送球を披露。難しい体勢でも強いボールが投げられ、センターとしても存在感を放った。
前年秋の明治神宮大会では3失策を犯し、雑な印象も与えた森だったが、ひと冬の間に守備の猛練習を積んでいた。森はプロ入り後、当時をこう振り返っている。
「今まで打球に合わせようとしていなかったんですけど、ちゃんとボールを見るようになったり、姿勢を低くしたり。本当に基本的なことをやっていました」
思いきりのいい打撃に加えて守備面で評価を高め、森はドラフト1位でDeNAへと進む。レギュラー獲りが期待されたプロ3年目の今季は、オープン戦で両足を負傷して離脱。それでも、そのたくましく、アグレッシブなプレースタイルはチームに新しい風を吹き込むはずだ。
代表候補合宿参加者のなかでプロに進んだ者もいれば、大学進学・就職した者もいる。社会人に進んだ河野佳(広陵/現・大阪ガス)、林優樹(近江/現・西濃運輸)などは今年で高卒3年目を迎え、ドラフト解禁になる。とくに河野は技術的にも肉体的にも大きく成長し、昨年は日本選手権で優勝投手に輝いた。
進学組では、細野晴希(東亜学園/現・東洋大3年)が来年のドラフト有力選手に挙がる。ただし、細野は一次候補メンバーに選出されたものの、春季大会を戦っていたため代表候補合宿は不参加だった。プロで華々しく活躍する同期について、細野は「レベルが高いなかでああやって結果を残すのはすごい」と刺激を受けている。
レベルの高い同世代間の交流は、間違いなくプラスに作用する。代表候補合宿時に佐々木の変化球をほとんど止められなかった捕手の藤田は、その悔しさからキャッチングを猛練習。夏にはチームを甲子園ベスト4に導くほどレベルアップした。
佐々木や紅林のように、チームは甲子園に出られなくても個人として高いレベルに触れる機会にもなる。コロナ禍が落ち着いたら、また同様の代表候補合宿を開いてもらいたいものだ。
そして、できれば次は有観客での開催を望みたい。3年前ほど大豊作な世代は稀だろうが、あれだけ贅沢な顔ぶれのプレーが堪能できる場を非公開にしてしまうのはもったいなさすぎる。高校日本代表候補合宿が毎年開かれるような定番のイベントになれば、新たな春の目玉になるのは間違いないだろう。