プロ野球2022開幕特集ソフトバンク藤本博史監督インタビュー(前編) 昨季は8年ぶりのBクラスと低迷し、連続日本一が「4…
プロ野球2022開幕特集
ソフトバンク藤本博史監督インタビュー(前編)
昨季は8年ぶりのBクラスと低迷し、連続日本一が「4年」で途絶えた福岡ソフトバンクホークス。在任7年間で3度のリーグ優勝と5度の日本一に導いた工藤公康監督に代わって就任した藤本博史監督は、昨季まで二、三軍監督をはじめ一軍打撃コーチも歴任するなど「ホークスを知り尽くす男」との異名をもつ。藤本ホークスはどんな野球でV奪回を目指すのか。また、急務とされる世代交代をいかに進めていくのか、新指揮官を直撃した。

今季からソフトバンクの指揮を執る藤本博史監督
世代交代が至上命令
── まずは一軍監督として初めて臨んだ春季キャンプはいかがでしたか?
「まぁ期待どおりですね。自主トレ期間中にコロナ陽性となって出遅れた選手もいましたが、キャンプ期間中には新外国人選手以外はほぼ全員揃うことができましたし、若い選手は世代交代が明確に示されるなかで『これはチャンスだ』と目の色を変えて練習に取り組んでいるのがすごく伝わってきました」
── おっしゃるように、キャンプ開始時は主力の柳田悠岐外野手や松田宣浩選手、期待のリチャード内野手も不在。出鼻をくじかれましたが、それでもまったく慌てる素振りを見せなかった藤本監督を見て、肝が据わっているというか、一国一城の主としての風格を感じました。
「逆に、若い選手にチャンスにできたととらえましたから。柳田や松田が最初から来なかったことで、何人かの若手が当初の予定を変更してA組に入れました。彼らはチャンスを得て、そのなかで活躍や好結果を見せてくれる選手もいました。逆に結果が出ない選手もいましたけどシュンとするのではなく、元気に明るくキャンプをやってくれました。だから期待どおりだったと感じています」
── そのなかで目立った若手は?
「2年目の井上(朋也/20年ドラフト1位)はすごく目立っていましたよ。ただ、世代交代といっても、若い選手だけでは勝てない。中堅、ベテランが噛み合って戦わないとペナントレースは厳しい。とはいえ、世代交代は進めないと。そのあたりのやり繰りをうまくしていきたいです」
── 若手の頑張りに、早くも「藤本カラー」が発揮されたのではないかと思っています。
「昨年、二軍で一緒にやっていた選手が多いからね。自分のことをアピールしようという姿勢がより伝わってきましたよね。でも開幕が近づくにつれて、ふるいにかけられる選手は出てきます。そこは結果でアピールしてもらうしかないし、内容もしっかり見てあげたい。それでも野手ならば、キャンプのA組メンバーのなかからも7、8人は二軍へ行かなくてはいけない。やはりこの世界は競争です。ベテランも、中堅も、若手も関係なく、アピールをしてもらいますよ」
リチャードへの期待
── そして藤本ホークスの目玉といえば、やはりリチャード選手ではないでしょうか?
「彼もキャンプはB組でしたが、調子が悪いからではなかった。本来はA組にいる選手なんです。打撃の状態も、去年に比べたらはるかにレベルアップしている。ファンのみなさんもすごく注目しているでしょうし、今年は期待していただいていいと思います」
── 昨年までとの違いは?
「インコースのさばき方など、技術面で成長を感じますね。それに引っ張りだけじゃなく逆方向にしっかり打つ意識があるし、芯で捉える確率も上がっている。でも、精神面はね(苦笑)。三軍監督時代の3年前からずっと彼を見ていると、以前よりだいぶ強くなってきてるんですけどね。でも、まだまだ強くならないと1年間、一軍で野球をするのは厳しい」
── リチャード選手をはじめ、就任会見でも選手に「寄り添う」指導を大切にしてきたとおっしゃっていました。
「やっぱりみんなに頑張ってほしいですからね。でも、全員が一軍に残れるわけじゃない。非情にならなくていけないところも出てくる。そこは非情になりますよ」
── 正直、非情になる藤本監督が想像つきません。
「二軍や三軍では非情になる場面がなかなかないですから。でも一軍は、勝つためのメンバーを揃えなくちゃいけない。そして、そのなかで世代交代もしなくちゃいけない。ならば当然、非情にならないといけない。その覚悟も決めています。そのかわり、(一軍などから)外れる選手には、僕の口からしっかり説明をしてあげたいと思います」
二軍監督経験の強み
── 昨年のプロ野球は両リーグとも二軍監督経験者が優勝。そのキャリアの強みとは何だと考えますか?
「選手たちの性格までほぼわかっているのは大きいと思います。この選手はこうすれば気持ちが盛り上がってくるとか、練習にも取り組むとか。一方でこの選手ならば、ちょっと厳しめに押さえつけるくらいのほうが練習に取り組むとか。性格を把握している分、選手それぞれに適した接し方ができると思うんです。たとえば今年だと、村上(隆行)一軍打撃コーチなんかは新入団だからまだ選手の性格まで知らないところもある。言いすぎだなと感じた時は僕がストップをかけることもできるし、逆に優しくしすぎているなと思ったら『もっといけよ』と言うことも(笑)。そういうコントロールができるんじゃないかな」
── 時には厳しさも。
「明るく元気に、そして厳しくがモットーですから」
── 藤本監督には「辛抱強い」というイメージがあります。
「いやいや、気ぃ短いですよ、案外。今は猫かぶってるんですよ(笑)」
── ただ、ルーキー時代の柳田選手に当時二軍打撃コーチとして指導していた際も、未熟だった彼にとことん「寄り添い」、根気強く指導されていた姿が印象的でした。
「案外、楽しいもんでしたよ。成長していく姿をずっとそばで見るのが。柳田だけでなくほかの選手も同じです。たとえば一昨年は三軍監督をしていて、その時に高卒新人で入団してきたのが小林珠維という選手でした。彼は高校まで投手で、プロで内野手に転向。身体能力は高いのですが、フリー打撃をさせてもまったく打球が飛ばない。それが昨年は、外野フェンスを越えるどころかスタンド中段まで飛ばすようになった。そういう成長を見るのって楽しいじゃないですか。もちろん、そのレベルはさまざまですけどね」
── これから一軍で成長していく選手が楽しみになりますね。
「そうです。一軍という緊張感のなかでパフォーマンスを発揮できる選手。もちろん柳田はトップクラスですよ。一軍で実績を積んだ選手はみんなそうです。柳田と同期入団だった牧原大成なんかも1年目から知っていますが、あの頃はここまで成長する姿は想像できませんでした。今年のキャンプでは出遅れて、彼も悔しさを抱えたと思います。だけど、チームに合流したら実戦で即結果を残してみせた。すごい成長ですよ。リチャードとか井上が、そういった高いレベルでどんな成長を見せてくれるのか楽しみですよね」
── ならば、若手起用も辛抱強く?
「そうですね。ある程度は辛抱強くいきたいと思います。だけど、辛抱といっても我慢の限界がありますから(笑)。リチャードだって本来はキャンプ中にA組に昇格させようと思っていましたが、紅白戦の時に試合開始ギリギリまでベンチへ来ずに長谷川(勇也)コーチに叱られていた。準備が足りない。そういう選手をA組に合流させるのは、僕はおかしいと思っていますから」
(後編につづく)