「今年は大阪で春8試合、夏も8試合しよう」 これが上宮太子の合言葉だ。■複雑な感情で見た大阪桐蔭と履正社の選抜決勝…昨秋の大阪府大会を制した上宮太子 「今年は大阪で春8試合、夏も8試合しよう」 これが上宮太子の合言葉だ。「昨秋は大阪で優勝…

「今年は大阪で春8試合、夏も8試合しよう」 これが上宮太子の合言葉だ。

■複雑な感情で見た大阪桐蔭と履正社の選抜決勝…昨秋の大阪府大会を制した上宮太子

「今年は大阪で春8試合、夏も8試合しよう」

 これが上宮太子の合言葉だ。

「昨秋は大阪で優勝させてもらいましたけれど、実際はチームとしては大きな武器があるわけではなく、幼いチームなんです。でも秋に大阪で優勝したのにセンバツに出られず、色んなかたちで取り上げてもらうこともあって……。でも、だからと言って子供たちは勘違いしていないのは確かです。こういう接戦でもきっちり勝てたのは良かったです」

 4日に行われた春季大阪府大会5回戦の興国との試合を3-1で制し、試合後、ベンチ裏での囲み取材でこう語った日野利久監督。エース右腕の森田輝の力投もあり、パワーのある興国打線を相手に5安打1失点にまとめた。打線は苦しみながらも中盤以降に着実に追加点を挙げベスト8に進出。6回、7回は走者を出しながらいずれも併殺でピンチを切り抜けるなど、堅守も光った。

 3月に行われた選抜。大阪桐蔭と履正社の大阪勢同士の決勝となり、大いに注目を集めたが、最も複雑な感情を抱いていたのは上宮太子ナインではないだろうか。昨秋の大阪府大会で、上宮太子は決勝で履正社を10-3で下している。大阪桐蔭とは直接対決はなかったが、大阪1位として秋の近畿大会に臨んだ。だが、その近畿大会の準々決勝で神戸国際大付に3-11と7回コールド負けを喫した。6回表までは1-2という接戦だったが、6回の裏にエースの森田が突如崩れた。その隙を神戸国際大付打線は見逃さず連打を重ね、ズルズルと点差だけが広がっていったのだ。

 とはいえ、大阪1位校であるため通常なら選抜選考対象としては有力候補に挙がるはずだったが、2位の履正社は近畿大会で優勝。3位校だった大阪桐蔭もベスト4と選抜“当確圏内”であったことと、同一府県から3校は選出しないというルールが上宮太子にとって最大のネックとなった。結局補欠校となり、奇しくもその2校が選抜のファイナリストとなっていた。

■「自信をつけていかないと、あの2校には追いつかない」

「あの2校との差は、やはり大きいです。だから自分たちはワンプレーを大事にして、一生懸命戦うしかない。今、勝ち上がる中で反省点は毎試合ありますが、それでも勝ち上がって自信をつけていかないと、あの2校には追いつかないんです」(日野監督)

 上宮太子では週に3度、8時間授業があり、練習開始が5時になるため数時間しか練習ができない。加えて兄弟校の上宮とグラウンドを分け合って練習するため、1週間しっかりと練習に打ち込める環境ではない。限られた時間の中で、どれだけ必死に追い込めるか。それが上宮太子ナインの最大のテーマでもある。

 選抜の決勝戦は、録画して部員全員で観戦したという。エースの森田輝は、自宅であらためてその試合を見返し、強打者が揃う2校を前に、この打者だったら自分はどんな攻めをするか、どうすれば打ち取れるのかシミュレーションした。この冬場は走り込んで下半身を鍛え、ストレートのキレをアップさせることにこだわってきた。体重は秋から3キロほど増えたが、それでも65キロと細身だ。だが、インコースの出し入れとキレの良さは目を見張るものがある。この日もストレートで強打者を詰まらせ、凡打の山を築いた。

 夏は大阪の頂点に立てば、文句なしに甲子園の切符を掴める。「もう(昨秋の近畿大会のような)負け方はしたくないです」。力強く言い切ったエースの言葉に、この春の、そして夏への強い意気込みを感じた。

沢井史●文 text by Fumi Sawai