侍ジャパン・栗山英樹監督インタビュー(前編) 昨年12月、野球日本代表「侍ジャパン」の監督に就任した栗山英樹氏。言うまで…

侍ジャパン・栗山英樹監督インタビュー(前編)

 昨年12月、野球日本代表「侍ジャパン」の監督に就任した栗山英樹氏。言うまでもなく、最大の目標は2023年に開催される第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一になることだ。栗山氏に侍ジャパンの監督を引き受けた理由、世界一に向けてすべきことは何なのか? また、侍ジャパンが果たすべき役割についても訊いた。




昨年12月に侍ジャパンの監督に就任した栗山英樹氏

 

【選手を育てるという発想はない】

── WBCの日本代表監督を引き受ける決め手は何だったのでしょう。

「オファーをいただいた時、『もし僕が監督を選ぶ人だったら、日本の野球界にはほかにたくさんのすばらしい人がいますし、僕なら僕を選びません』ということは伝えました。それでもいいんだということをいろいろと説明してもらっているうちに、こんなに野球にお世話になってきて、野球に失礼なことをしちゃいけないんじゃないかという気持ちになってきたんです。受けることが失礼なのか、それとも断ることが失礼なのか。野球に対して全力を尽くすと考えるなら、しんどいとわかっている仕事をやれるとしたら、タイミング的には今しかない。(ファイターズの)監督を辞めて時間が経ってしまえば、そこから(代表の監督を)もう一回やるのはムリだと思いましたから......」

── 受けるに当たって、ファイターズの監督としてシーズンを戦う仕事と、日本代表の監督としてWBCを戦う仕事、どこが違っているとお考えですか。

「そう訊かれると難しくなってしまいますが、まず日本代表の監督には育てるという発想がまったく必要ない、ということでしょうか。目の前の試合に勝つためのメンバー構成と空気づくり、あとはこちらの判断ミスで選手に迷惑をかけないという、ただそれだけ。勝つためにどうしたらいいかということに集中する野球だとするなら、ファイターズがプレーオフに入って戦った時のあの感じに近いのかな、という想像しかできません。日の丸に関しては経験がないのでわかりませんが、未知の世界だけに、すごく壮大な野球の何かが見える可能性があると同時に、すさまじい責任の重さがのしかかってくるんだろうなと......そのふたつがチラチラ見えているという感じです」

── WBCとオリンピックの違いについてはいかかですか。

「野球という難しい競技に向き合いながらプレッシャーのなかで勝ちきらなきゃいけない、というところはまったく一緒だと思います。ただ、WBCにはメジャーリーガーが参加する、というところは大きく違いますよね。WBCはメジャーリーガーとの戦いだ、という認識が僕のなかにありますから、そこは野球人としてメジャーリーグに立ち向かっていく大きな戦いであるというふうに考えています。

 僕はずっとメジャーリーグが大好きでしたし、そういう戦いに向けてすべてをかけられるということには感謝しかない。それだけに責任が重いし、もしうまくいかなかったらと考えると怖くてしょうがないし......それでも野球をつくった国、アメリカに立ち向かうということは、野球の原点に向かうということですから、やりがいはありますよね」

── WBCはもちろん、オリンピックも含めた過去の国際舞台の経験者に話を聞こうというお考えはありますか。

「もちろん、あります。たとえば松坂(大輔)投手にも、春のWBCというのが投げていてどういう感じになるのか、球数はどうか......その難しさは経験者に聞いてみないとわからないと思っています。そういう過去の国際舞台を経験した先輩方が脈々と受け継いでこられた"いいもの"を知っておかなければ、そこに応用力を重ねて勝ちきることは難しいんじゃないかと思っています」

── 応用力、というのは?

「そこはみんながビックリするような、おもしろくなるような、そういう発想は持っているつもりです。でも、それが先にくるわけじゃない。勝ちきることがまずあって、そのなかにみんなが驚くようなものがないかを探してみたいと思っています」

【3月の強化試合の目的】

── 日本代表の監督になって、どんなことから考え始めているんでしょう。

「次のWBCは一発勝負に近い戦いになりますからね。チームとしていろいろと試す時間がない。3月の台湾との2試合は通過点でしかなくて、ここは選手を試す目的がありますけど、秋の試合のあとはすぐにWBC本番なので、チームとして何かを試す時間がありません。もう、一発勝負です。そのためにはその時点で調子がよくて、魂のある選手に集まってもらうしかないんです。

 だからこちらとしては、ほかの国の選手のデータをどうやって集めたらうまくいくのかとか、そういうバックヤードのことをしっかりやり遂げなければいけない。そこは重要になってきます。集まってくれるのは技術を教えるレベルの選手たちではないので、この球を狙いましょう、この球はダメです、トータルでこう攻めますという指示が大事になってくる。最後、勝負がかかった場面で『この球だけを最後まで待ってくれ』と言いきれるだけの指示が出せるかどうか。それがこっちのできることだと思っています」

── チームのなかで柱となるべき選手には、どう接していきますか。

「まず12球団の監督に連絡をして、『一緒に戦って下さい』とお願いしました。ただ選手に関しては、もう少し丁寧に考えたいと思っています。中心になる選手はある程度、決まっている。ただ、それを伝えて、早い段階から意識させてしまうことがいいのか、悪いのかということは慎重に考えなければなりません」

── 3月には台湾との強化試合があります。東京オリンピックで金メダルを獲ったチームとは違う顔ぶれになるイメージはあるんでしょうか。

「春の試合では選択肢をもっと広げたいですね。逆に言うと、ほぼ決まっている人たちはそこに来なくてもいいぐらい。来たいと言ってくれるならありがたいんですけど、オリンピックに出て疲れているのもあるだろうし、去年のスケジュールがかなり遅い時期まで引っ張られて、すぐにキャンプがやってきて、3月にバタバタさせて大丈夫かなという心配はしています」

── 3月の台湾戦は、WBCで柱になるべき選手を外して戦うということですか。

「キャンプに行ったら、本番では中心として考えているけど春の試合に呼ばない選手には、『今回は選ばないけど、選ばれたつもりで秋に向かって1年間、頑張って』と伝えるつもりでいます。何が起こるわからないなか、選ぶことを決めているという言い方はできませんけど、普通に考えたら絶対に必要な選手に対して、春の試合にあえて呼ばない理由は説明しなくちゃいけませんからね」

── 本番に必要な選手を春に呼ばない理由というのは?

「時間がないとはいっても、最初は100人くらいの選手を候補としてイメージしながら、どう組み合わせるのが勝ちやすいのかを考えています。そうすると、春は絶対に必要な選手ではなく、必要かどうかを見極める選手を試さなければなりません。それはコーチやスタッフにしても同じで、春に選んだコーチのまま、秋や本番を戦うかどうかもわかりません」

── コーチを代える可能性もあるということですか。

「というより、ベンチに入れる人数が決まっているので、そこにいるのはコーチがいいのか、アナリストの役割を担う人がいたほうがいいのかということも、これまでの常識を取っ払って考えたいということです。コーチの仕事が技術を教えるものだと考えるなら、日本代表レベルの選手にとっては、分析したデータをもとに試合で勝つための指示をしっかり出せるアナリストがベンチにいてくれたほうが勝ちやすいんじゃないか、という考え方もあると思うんです。

『この球を狙いましょう』『こっちを守って下さい』『この球は投げないで下さい』という指示はコーチよりもアナリストのほうができるかもしれない。技術的なアドバイスを必要としないレベルの選手が集まるチームですから、なおさらです。だから、どこかにオレの知らないすごい能力を持った人たちがいないのかって、今、あちこちに投げかけています。そういうことも含めて、全部を決めるのは秋でいいんじゃないかなと思っているんです」

【必要なのは日本野球のプライド】

── ただ、チームとしての骨格が決まっているのなら、中心となる選手は早く集めて、チームとしての熟成を図るということも必要なんじゃないですか。

「もちろんチームとしての熟成も個の力も両方とも大事なんですけど、今回はチームを熟成させるとか、メンバーの信頼関係をつくるとか、そういう時間はないという前提で進んでいると考えなくちゃいけない。だったら、そうじゃない形を求めていくしかないんです。チームに入った瞬間、全員がキャプテンで、全員が日本の魂はこれだ、日の丸を背負って戦うのはこうなんだというところを持っている選手に集まってもらっているはずですからね。チームとしての熟成も信頼も、日の丸への想い、日本の魂が形づくってくれると信じています」

── その魂とか、日の丸への想いを持っている選手かどうかについては、どうやって判断するんでしょう。

「そこはわかりますよね。出たくてしょうがない、みたいな選手って、その想いは伝わってきます。絶対に出たいと思っている選手のほうが、力は劣っていても、あんまり出たくないなという選手よりはいいかなと思いますよ。ただ、日本の魂とか日の丸とか、そういうことだけじゃなくて、野球人としてのプライドを持っていない選手はこの国にはいないと思っていますからね」

── 野球人のプライド?

「日本で野球をやって育ってきた選手は、日本の野球でメジャーリーグの野球に勝つんだというプライドを絶対に持っていると思うんです。だから僕は『日の丸、日の丸』と言うつもりはないけど、『日本野球のプライド』ということは声を大にして言っていきたい。メジャーリーガーが集まったアメリカ、ドミニカ、プエルトリコ......ほかにも、相手にとって不足のないチームが揃うわけだから、そのプライドは前面に出して戦っていきたいと思っています」

(後編:大谷、ダルビッシュ、山本......侍ジャパンのドリームチーム結成はあるか>>)