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侍ジャパン・栗山英樹監督インタビュー(後編)

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 2023年3月に開催される第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での世界一に向け、指揮官である栗山英樹監督は早くもキャンプを視察するなど、精力的に動いている。はたして、来年3月の本大会ではどのようなメンバーで戦うのか? ダルビッシュ有や大谷翔平の招聘はあるのか? 栗山監督に訊いた。




来年開催予定の第5回WBCに向けて抱負を語る栗山英樹監督

 

【投打両方の翔平に声をかける】

── WBCの第1、2回大会で連覇を果たした時の日本代表にはイチロー、松坂大輔ら日本人メジャーリーガーがいました。しかし、準決勝で敗れた第3回大会は日本人メジャーリーガーを招集できず、第4回大会は青木宣親(当時、アストロズ)だけでした。今回はそこをどうお考えですか。

「もちろん、日本人メジャーリーガーにいてもらいたいという気持ちはあります。全員、頭のなか中にはあるし、たくさんいてもらったほうがいいに決まっています。先発ピッチャーは(菊池)雄星、有原(航平)、ダル(ダルビッシュ有)はもちろん、術後のヒジの状態にもよるけどマエケン(前田健太)もいるし、リリーフの澤村(拓一)だっている。

 野手なら筒香(嘉智)、秋山(翔吾)、今年、メジャーへ行くかもしれない選手もいますよね。みんな魂を持った選手たちで、能力もある。そうやって一人ひとりを見ちゃうと絶対にほ欲しいとなっちゃうんだけど、全体的なバランスや人数の兼ね合いもあるから、全員を集めるというわけにはいかないかもしれませんけど......」

── 大谷翔平選手の名前も出して下さいよ(笑)。

「それは『必要ですか?』という話ですか(笑)」

── 相手のメジャーリーガーがビビるという意味でも、いてほしいに決まっています。

「もちろん言葉にしなくても僕がその意味合いを一番、理解しているつもりだし、彼のすごさも一番、理解しているつもりです。だからそこは肝に銘じて、という言い方しか、今はできないですね」

── ピッチャーとして、あるいはバッターとして、別々に考えることもあり得ますか。

「まずは2人とも呼びます。ピッチャーの翔平とバッターの翔平の両方に声をかけます。ただ、両方やってもらったほうがいいのか、どちらかだけのほうがいいのかというのは、ほかのメンバーとの兼ね合いもありますから......来てくれるなら、ピッチャーのなかの1人にもなってもらえるし、バッターの1人にもなれる、そういう存在だと考えています。

 2017年の時(ピッチャーとして選ばれながら右足首痛で辞退)もいろいろ翔平と話しましたが、彼は野球が大好きで、強いものと勝負してやっつけたい、うまくなりたいということを誰よりも思っている選手ですから、WBCでもメジャーリーガーたちをやっつけたいという気持ちを持ってくれていることは十分、理解できています」

【アメリカ行きが最低条件ではダメ】

── 今回も1次リーグ、2次リーグが日本での開催で、準決勝、決勝がアメリカという流れになるはずです。つまり決勝トーナメントへの進出を決めてアメリカへ渡った途端、初戦が準決勝となります。メジャーの球場という慣れない環境での初戦でいきなり力を発揮することの難しさは第3回、第4回大会での準決勝が物語っていますが、そこをどう乗り越えようとお考えですか。

「まず、アメリカへ行くということが最低条件になってはいけない、という危機感は持っています。何としてもアメリカまでは行きたいとみんなが思うわけじゃないですか。そりゃ、そうでしょう。僕だって、アメリカまで行けたらホッとするだろうし、もしアメリカへ行けなかったらと思うと、怖くて眠れない。でも、そこに価値観を見出していたら、準決勝を勝ちきれません。

 メジャーリーグをやっつけるには優勝しかないという雰囲気にしておかないと、『ああ、アメリカまで来られた』という空気になってしまいます。そのためにも、アメリカに行って初めて、『さあ、ここからが本番ですよ』と考えられる日本人のメジャーリーガーたちが必要なんです。彼らはアメリカこそが『オレの本拠地だ』と思えるはずなので、そこには重きを置かなければと思っています」

── 前回は、準決勝からのメンバーの入れ替えが可能で、日本人メジャーリーガーをそこから加える選択肢もありました。しかしチームのまとまりを大事に考えた当時の小久保裕紀監督は、日本での第1、第2ラウンドを勝ち抜いた選手たちで戦うことにこだわった。栗山監督は、日本人メジャーリーガーが日本へ来て戦うのは厳しいけどアメリカで戦う決勝トーナメントなら参加できるとなった場合、メンバーの入れ替えは考えますか。

「うん、考えます。もちろん、チームってそんな簡単なものじゃないことはよくわかっています。でも、そのぐらいの覚悟を決めて、勝つためにできることは何でもやりますという強い想いは持っていなければならない。日本野球が世界に冠たるものを示すために、勝ちきるためにやっているんだというところはブレないようにしたいんです。もちろん小久保監督の考えもよくわかるし、その時の判断はそれが正しかったと思います。でもそれ以上に、今回は『日本野球は絶対に勝ちきるんだ』という厳しさを、まず僕が持たないといけないと感じています」

── NPBの選手たちについてはどんなイメージをお持ちですか。

「センターラインは大事ですから、そこをどうするのかというところは一番に考えています。ただ、たとえばサードを守れるスラッガーがたくさん出てきていて、そのあたりはこの1年で一気に駆け上る若い選手を楽しみに待っているところもあります。(山本)由伸くんみたいに、一気に倍速のスピードで走り出す選手が、それぞれのポジションで出てきて欲ほしい。そういう勢いは必要だし、そこから新たなスターが生まれてほしいという気持ちはすごくあります。プロだけじゃなく、アマチュアも含めて、真っ平らに見たいと思っています」

【選手に対して非情になりきれるか】

── 日本代表を率いるにあたって、ファイターズでの10年間で監督が得たものを生かすとしたらどんなことでしょう。

「この10年、集中して野球のことだけを考えて選手に向き合ってきました。自分に能力はなくても、一生懸命だった感じはちょっとだけ自分のなかにあって、全力を尽くさなければ何も起こらないんだということは学びました」

── 監督1年目だった2012年の自分に何か言ってあげられるとしたら、どんな言葉をかけますか。

「うーん......『もっと厳しくいきなさい』かな。最近、"大善は非情に似たり"という言葉を噛み締めているんです。"小善は大悪に似たり、大善は非情に似たり"。つまり、目先の小さな優しさはいいことに見えるんだけど、本当は相手のためにならない大きな悪につながる、と。でも信念を持って、相手のことを本当に考えて行う大善は、厳しいことも含めて非情に見えるけど、それが将来に生きることがあるという......。

 それは今となっては、ああ、あの時に、この時に、と思い浮かぶことがたくさんありますね。選手のために、選手のためにと言いながら、どこまで大善を貫けただろうって思うんです。もっとプレッシャーをかけて、叱って、ときには試合に使わず、厳しくやってあげなくちゃいけなかったのかなって。もっともっと大胆にやるべきだったかなという気持ちはあります」

── その考え方は短期決戦、国際舞台でも生かせるんでしょうか。

「それは、たとえば大谷翔平が日本代表の3番とか5番を打っていて、まったく打てなかった時、最後まで我慢したくなるじゃないですか。翔平の才能をわかっているからこそ、信じたいと思う。それを、バサッとスタメンから落とせるかどうか。試合に使い続けてチームが勝てなければ、彼はすごく苦しむでしょう。その時、僕が非情になりきれるか。大善という前提のもとに、非情になりきることができれば、経験を生かせたことになるのかもしれません」

── そこは最後まで試合に出て、決勝タイムリーを打った2009年のイチロー選手のように、試合で勝つために外さないほうがいいという判断もあり得ますよね。

「もちろん、あり得ます。翔平のそこまでの努力とか向かっていく姿勢を当然、見ているわけですから、最後、打てなくてもいいからコイツにかけようという判断も、もちろんあり得ると思います。でも、打ち方とか調子を見ていて、自分が心の中なかで『これは打てない』と思っているのに、それでも翔平だからとか、村上(宗隆)だから、岡本(和真)だから、坂本(勇人)だから、山田(哲人)だからというのはやっぱり違うんです。日本代表というチームのなかで非情になることって簡単なことではないと思いますが......」

── どこまで任せるか、どこで線を引くか。

「今までプレーオフや日本シリーズを経験してきて、やっぱり短期決戦では絶対に手遅れになったらダメだというセオリーは自分のなかにできあがっていますから、ずっと時間をともにしてきたわけではない選手たちに対して非情になりきれるのか。それが本当の優しさだということをこの10年で学んできたはずなので、そうなった時、行動に移せるかということを今回は野球の神様に試されるんじゃないかなという覚悟はしています」

【日本代表の使命とは?】

── 栗山監督は、来年のWBCで日本が勝つことはこの国の野球界にとってどのくらい必要で、日本代表とはどうあるべきだとお考えですか。

「日本中の男の子、女の子、みんなに『カッコいいな』『こんなふうになりたい』『こういう舞台で野球をやりたい』と思わせることが日本代表に課せられた責任だと考えています。次の世代に野球というものをいかにつないでいくか。先輩たちがつくったものを受け継いで、いい形で次の世代へ渡していくことが何よりも大事ですし、そういう意味ではオリンピックで金メダルを獲ったあとのWBCというのはかなり大きな意味を持っていると思っています。

 これだけ高校球児が減ってきて、子どもたちが野球から離れている流れを食い止めるのは、やっぱり『ああいう選手になりたい』と思ってもらえる選手しかいないんです。僕らも王さん、長嶋さんみたいになりたいと思っていましたし、そういう選手を世の中に送り出さなきゃいけない......これが日本代表の使命だと僕は思っています」

── そのために監督としてはできることは何だとお考えですか。

「勝ちきって、みんなで一緒に『ヨッシャー』と喜んで......少なくともそういう盛り上がりがなければ、ああいう選手になりたいと子どもたちにはなかなか思ってもらえないでしょう。勝たなければ日本代表の使命を果たせないというのは、そういうことなんです。僕にとっては野球にもう一度、恩返しするチャンスを野球の神様に与えてもらったんですから、どんなことをしてでも勝ちきらなくちゃいけない。そこに向かって頑張らせてもらえるというだけで、感謝しなくちゃいけないことですからね」

おわり