「オープン球話」連載第100回(第99回:現役20年。石川雅規の体の強さと活躍の要因>>)【「八重樫コーチ」が考える「石…

「オープン球話」連載第100回

(第99回:現役20年。石川雅規の体の強さと活躍の要因>>)

【「八重樫コーチ」が考える「石川対策」は?】

――さて、今回も「小さな大投手」石川雅規さんについて伺います。前回の最後では、研究熱心で体が丈夫であることなど、石川さんのすごさを伺いましたが、打撃コーチ目線で見た場合の「石川対策」はどのようなものがありますか?

八重樫 右バッターには「真ん中からアウトコースの甘いボールを狙え」と指示するでしょうね。右打者の場合は、外に逃げていくシンカー、内に入ってくるカーブに手を出すと苦しくなります。このボールを見極めることができて、追い込まれてからもファールで粘ることができれば、突破口は生まれると思います。


昨年は球団最年長となる

「41歳10カ月」で日本シリーズを勝利

――では、左バッターの場合は?

八重樫 入団当時からシンカーはいいものを持っていたけど、左バッターのインコースに食い込んでくるシュートはまだ投げていなかったんじゃないかな? だから当時ならば「インサイドを狙え」とアドバイスしたと思いますね。

――2021年の日本シリーズ第4戦、6回表二死一塁の場面で打席に入った左バッターの吉田正尚選手をセカンドフライに打ち取ったのは、内角に鋭く切れ込むシュートでした。でも、入団当初はまだ投げていなかったんですね。

八重樫 確か、そうだったと思いますよ。左バッターのインコースに食い込むシュートが加わると、外に逃げていくスライダーやカーブ、ひざ元に落ちるシンカーが一気に生きてきます。あの日本シリーズでの一球は本当にいいボールでした。

――プライベートではどんな性格の方なんですか?

八重樫 世代も違うし、投手と野手の違いもあるからプライベートのことはよくわからないけど、いつもドラフト同期の志田(宗大)と一緒にいた印象があります。人づきあいがよくて積極的な石川と、そのうしろでサポートする"女房役"みたいな志田。そんな記憶がありますね。志田が一軍にいる時は、いつも一緒に行動していました。

――青山学院大学の同級生で、2001年ドラフト8巡目で入団した志田宗大さんですね。大学時代にはキャプテンとして活躍。後に侍ジャパンのスコアラーも務め、現在は読売ジャイアンツのスコアラーとして活躍されています。

八重樫 志田は自分のことを「僕は石川の付録ですから」って言っていたけど、僕としては「見込みがある選手だな」と思っていました。仙台育英高校の監督からも、「あれだけ手がかからない選手はいなかった」と聞きましたよ。

【石川の中に眠る「東北人気質」とは?】

――ヤクルト投手陣に「石川投手の印象は?」と聞くと、異口同音に「負けず嫌いな性格だ」「研究熱心だ」という意見が聞かれました。八重樫さんはどう思いますか?

八重樫 前編でも言ったように、「研究熱心だ」というのは僕も同じ意見です。でも、「負けず嫌いだ」というのはあまり感じなかったですね。強いて言えば、「粘り強い性格だ」とは思います。一気に成果を収めるのではなくて、「ひとつひとつ積み上げていこう」という意識がすごく強いから、地道な練習もできるんじゃないのかな?

――いわゆる「東北人気質」みたいなものは感じますか?

八重樫 秋田にある石川の実家のあたりも、冬になれば雪が積もる地域です。気候的にも辛抱強くなるし、忍耐力がつくとは思います。あとは、秋田商業高校時代の小野平監督、青学大時代の河原井正雄監督も厳しい監督だから、相当鍛えられて我慢強く、粘り強くなったんじゃないかな。

――先日、秋田の石川さんのご実家にお邪魔しました。冬になると50cmぐらいの降雪があるそうですね。あとは、体が小さいということで「体の大きな人には負けないぞ」という意地のようなものも感じられます。その点はどうですか?

八重樫 それも間違いなくあるでしょうね。本人もインタビューで、そういうことを口にしているし、小柄な子どもたちにとっても励みになるでしょうから「絶対に負けない」という思いは強いでしょう。その小さい体で、いつもニコニコして笑顔で駆け寄ってきてあいさつしてくれるから、余計にかわいく見える(笑)。お父さんにも会ったことがあるけど、とても気さくな方ですよね。

――本当に気さくなご両親でした。

八重樫 秋田で試合があった時にごあいさつしたけど、それ以降、なおさら親近感がわきましたよ。あと、石川の奥さんのお父さんから年賀状をいただいて、秋田米を送ってもらったこともありました。ますます親近感がわいちゃうよね(笑)。

【石にしがみついてでも、悲願の200勝を!】

――2000年代、2010年代は館山昌平投手とともに、間違いなく石川さんがチームをけん引し続けましたね。

八重樫 館山の存在も大きかったでしょうね。石川には謙虚さもあって、内に秘めた思いがある。館山の場合は「謙虚じゃない」とは言わないけど、「ダメです。投げられません」と、思ったことをきちんと口に出すことができる。タイプの違う性格のピッチャーが同時代にいたのは、チームにとっても、本人たちにとってもよかったと思います。

――さぁ、プロ21年目のキャンプが始まりました。200勝までは残り23勝です。あらためて、石川さんについてどのような思いがありますか?

八重樫 石川には限界がくるまでとことん頑張ってほしいね。最近の若い投手は、すごく速いボールを投げるけど、石川のように小さな体で、そこまでボールにスピードがなくてもバッターを抑えることができるということを示してほしいです。あの体で200勝して名球会に入ったら本当に大したものだし、歴代でもヤクルトを代表する選手になりますよ。「ヤクルトと言えば、バッターは若松(勉)、ピッチャーは石川」という時代が訪れてほしいね。

――日本シリーズでの見事な勝利もありました。八重樫さんの目から見て、まだまだ衰えは感じないですか?

八重樫 ケガさえなければまだまだ通用しますよ。実際に結果を残すことができているし、若い投手のお手本にもなる。そういう意味でも、石川の力は必要です。あとはしっかりと先発ローテーションに入ることができるかどうか。それはもちろん、高津(臣吾)監督の考えることだけど、ぜひローテーション入りを目指してほしいですね。

――本当に200勝を達成してほしいですね。

八重樫 繰り返しになるけど、石川の頑張りは多くの人に勇気を与えることになるから、石にしがみついてでも200勝を達成してほしいです。

――......さて、実は今回をもってこの「オープン球話」の定期連載が終了となります。2年半にわたる長期連載となりました。今後も不定期でお話を伺えたらと思いますが、あらためて、連載を読んでくださった方々に八重樫さんからごあいさつをお願いします。

八重樫 この連載を通じて、たくさんのことをお話しできて楽しかったです。話しているうちに、いろいろと思い出してボケ防止になりました(笑)。僕も楽しんで話したけど、みなさんにも楽しんでもらえたなら嬉しいです。またお会いできたらいいなと思います。長い間、ありがとうございました!