プロ野球の春季キャンプがついに始まった。なんといっても注目はBIG BOSSこと日本ハム・新庄剛志監督だ。どのような野…
プロ野球の春季キャンプがついに始まった。なんといっても注目は"BIG BOSS"こと日本ハム・新庄剛志監督だ。どのような野球を目指し、どんな采配をするのかはベールに包まれている。そこで、新庄監督の恩師である野村克也の著書『私が選ぶ名監督10人』(光文社刊)で語っていた「監督5類型」から、どのタイプの指揮官なのかを考察したい。

今季から日本ハムの指揮を執る新庄剛志監督
【野村克也氏が語っていた監督5類型】
まず、野村が語っていた「監督5類型」は以下である。
1.「管理」して選手を動かす=食生活の管理(菜食中心やアルコール禁止など)や、遠征先での門限など。体調を整えるには栄養と休養が大事であると説く。川上哲治、広岡達朗など
2.「納得」させて選手を動かす=根拠を示し、選手を納得させて動かすタイプ。川上哲治、水原茂、野村克也、森祇晶、落合博満など
3.「感情」で選手を動かす=自らの意志を伝え、選手の心に訴えてプレーさせる。気配りや 恐怖(鉄拳など)によって選手を動かす監督もここに入る。川上哲治、三原脩、鶴岡一人、西本幸雄、星野仙一など
4.「報酬」で選手を動かす=鶴岡一人監督には「グラウンドにはゼニが落ちている」という決めゼリフがあったように、結果を出せば給料に反映されると、選手のモチベーションを上げるタイプ。川上哲治、鶴岡一人など
5.「実績」で選手を動かす=現役時代に圧倒的な成績を残した監督の言うことは間違いないと、選手が信じるタイプ。川上哲治、長嶋茂雄、王貞治など
すべてのタイプで名を連ねたのが川上哲治だが、野村が少年時代からのファンであり、尊敬する人物でもある。
このふたりにはこんなエピソードがある。川上が巨人の監督、野村が南海の監督だった1972年オフ、山内新一・松原明夫(巨人)と富田勝(南海)の交換トレードの交渉の場に、川上監督は次期監督である長嶋茂雄を同席させた。自分のポストを狙う人間なのに、その人材を育てようとする川上の度量の広さに感服し、強い組織を築くにはリーダーの器の大きさが大事であると思い知らされたという。
その一方で、野村が南海入団時の監督は鶴岡一人だった。プロで通用しなかったら故郷に戻って高校野球の監督になりたいと考えていた野村は、とにかくプロでどんなことを学べるのかを楽しみにしていた。ところが、軍隊帰りの鶴岡は何かあればビンタ、正座、そしてすべて結果論でモノを言う。気力、根性を重視する精神野球に嫌気がさした野村は、「考える野球」を標榜するようになった。
【4番に俊足の左打者の根拠】
さて、新庄監督である。現役時代は日米通算1714試合に出場し、通算1524安打、打率.252、225本塁打、816打点、82盗塁の成績を挙げ、さらにベストナイン3回、ゴールデングラブ賞10回を獲得。
ゴールデングラブ賞10回というのは、50年の歴史でもベスト3に入る受賞歴である。
12回=福本豊(阪急/外野手)
11回=伊東勤(西武/捕手)、秋山幸二(西武/外野手)
10回=古田敦也(ヤクルト/捕手)、駒田徳広(巨人・横浜/一塁手)、山本浩二(広島/外野手)、新庄剛志(阪神・日本ハム/外野手)
守備に関しては、間違いなく超一流である。当然、守備には相当なこだわりを持っており、監督就任直後の秋季キャンプでもその一端を垣間見ることができた。
新庄監督はノックバットを手にワゴン車の上に乗り、「これより低く、強い球で遠くに投げなさい」と、送球の高さを指示した。
送球が高く逸れ、内野のカットマンが捕球できないと、二塁走者の生還を許すだけでなく、打者走者の二塁進塁を許し、再度得点圏にランナーを置いてしまうことになる。
そうでなくてもコリジョンルールが導入されてから、捕手はブロックができなくなり、本塁突入時にセーフになる確率は以前よりも確実に上がった。そのため、守備の重要性がより求められることになった。
現役時代の新庄監督は強肩もさることながら、投手の決め球、打者のスイングから割り出した "ポジショニング"のうまさにも定評があった。当然、日本ハムの選手にも守備に関しては高い意識とレベルを求めるはずだ。
攻撃については、昨年12月に「4番は俊足の左打者、強打者は6番に置く」と発言。これにも新庄監督なりの意図がある。
これは現役時代に内野を守っていた時期があり、二死満塁で俊足の左打者が打席に立つと嫌だったという経験に則っている。それに内野手が焦って悪送球になれば2点入る可能性もある。
そして4番候補として挙がったのが、2020年のドラフトで2位指名を受けて入団した五十幡亮汰だ。中学時代、東京五輪にも出場した日本屈指の短距離ランナーであるサニブラウンに100mで勝利したこともある俊足選手である。ただ打ってランナーを還すのではなく、新庄監督なりの得点の仕方を模索しているのだろう。
6番に強打者を置くという発想は、これも現役時代、自身が任されることが多かった打順で、走者がいる場面で打席に立つ機会が多かったという経験からきている。
また、監督就任会見では「優勝は狙わない」と発言し、周囲を驚かせた。監督というのは、前年最下位であっても、「優勝を狙う」と言わなければ、指揮官としていかがなものかという監督論が浸透していた。しかし新庄監督には、基本ができていないと次に進めないという信念があり、これもじつに理にかなっている。
思えば野村もヤクルトの監督就任時、「1年目に種をまき、2年目に水をやり、3年目に花を咲かせましょう」と3年計画を掲げ、有言実行を遂げている。新庄監督のなかにも、チーム強化プランというのが明確にあるのだろう。
【ファンの目が選手を育てる】
日本ハムは、世界がまだ見ぬボールパーク「エスコンフィールド北海道」の開業を2023年3月に予定している。スポーツビジネスで言うところの「スマート・ベニュー」(スポーツを核とした街づくり)を目指しているようだ。
栗山英樹前監督の退任が発表されると、後任として稲葉篤紀、小笠原道大の名前が挙がったが、フタをあけてみればアッと驚く新庄の就任だった。
3年連続5位、しかもダルビッシュ有、大谷翔平、中田翔、斎藤佑樹など、次々と看板選手がチームを去った。人気低迷、ファン離れを危惧した球団が、新庄に白羽の矢を立てたことが推察される。
そしてその目論見は見事にあたり、日本ハム・新庄監督はオフの話題を独占。まさに球界は「BIG BOSSフィーバー」だ。注目が集まれば選手のモチベーションは上がり、ファンの目が選手を育てる好循環となる。新庄監督はそれを承知のうえで、年末年始は自らがインフルエンサーの役割を果たした。
数少ない人気選手である杉谷拳士には「オフはテレビに出るな」、清宮幸太郎には「デブじゃね?」と、期待しているからこその発言で、ふたりに奮起を促した。
そして新庄監督のタイプだが、野村監督や落合監督と同じ「納得」させて選手を動かす指揮官だと思う。発言は破天荒に思われがちだが、すべてにしっかりとした根拠があり、理にかなっている。
地位が人をつくる──かつて野村の監督時代に新庄を評して語った言葉である。4番に抜擢した2000年、新庄は131試合、142安打、打率.278、28本塁打、85打点とキャリアハイの成績を残し、メジャーへの足がかりとした。
今回は「監督」という地位に立ち、納得させて選手を動かすという手法で、どんな新機軸を打ち出し、どんなチームづくりをしていくのか、興味はつきない。