現地12月13日、トロント・ラプターズvs.サクラメント・キングスの試合終盤、SF渡邊雄太はスコアボードを見上げた。渡…
現地12月13日、トロント・ラプターズvs.サクラメント・キングスの試合終盤、SF渡邊雄太はスコアボードを見上げた。渡邊ら控え陣の活躍もあって、ラプターズはすでに20点以上の点差をつけてリードしていた。と、自分のリバウンド数が9本であることに気づいた。
※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。
シュートが好調で、3ポイントやレイアップを決めていたので、得点はすでに12点取っている。リバウンドをあと1本取れば、昨シーズンは何度か取り逃していたダブルダブル(ふたつのスタッツでふたケタを記録すること)を達成できる。

キャリア初のダブルダブルを達成した渡邊雄太
「あとリバウンド1本だと気づいて、取りに行きました」
試合後、渡邊はそう明かしている。
この日の渡邊は、久しぶりに20分を超えるプレータイムを得ていた。コートに立っている間は休むことなく全力で動き回り、得点とリバウンドだけでなく、ディフェンスも奮闘。体力には自信があったが、それでも第4クォーター終盤には身体は疲れ果てていた。
そんななかで、最後の力を振り絞ってリバウンドを取りに行った。残り4分10秒、キングスのPFチメジー・メトゥのジャンプシュートが外れたのを見ると、ボールに向かって跳び、10本目のリバウンドを確保した(※)。
(※試合後、リーグ本部によるスタッツの確認で前半のリバウンドが1本増え、実際にはこのリバウンドは11本目だったのだが、この時点ではそのことはわかっていなかった)
普段から「スタッツに対するこだわりはない」と公言している渡邊だが、この時は珍しく狙いに行った。それは、ダブルダブルという結果を残すことが、自分の成長の足跡を残すことでもあったからだ。
「NBAのレベルでダブルダブルをするってそんなに簡単なことじゃないですし、去年も何回かチャンスはあったなかで、なかなか達成できていなかったことなので。今日はリバウンドもアグレッシブに取れたと思いますし、シュートの確率も悪くなかったんで、そういった意味ではダブルダブルは本当にうれしいな、というふうに思っています」と笑顔を見せた。
【自信を強めた夏の東京五輪】
NBAでプレーするようになって4シーズン目の今シーズン、渡邊は間違いなく成長した姿を見せている。その理由のひとつとして、昨季と同じラプターズのチームに続けて所属していること、そして単に同じチームというだけでなく、NBAに入って初めて同じヘッドコーチ(HC)のもとで2シーズン目を迎えたことが挙げられる。
メンフィス・グリズリーズに所属していた時は、2季目にHCが交代してシステムも変わり、自分ができることを最初から見せなくてはいけなかった。ラプターズに移籍した昨季、ニック・ナースHCは早いうちから渡邊のディフェンス力やハッスルプレーを評価してくれていたが、それでも、試合のなかでどこまでできるかを試しているようなところがあった。
それが今季は、最初から信頼してくれている。渡邊自身も、チームから何を求められているのかがわかっている。加えて、夏に日本代表の中心選手として世界の強豪を相手に戦った経験から、自分のプレーへの自信も強めていた。
シーズン前に、渡邊はこんなことを言っていた。
「ディフェンスやリバウンド、ハッスルプレーやエナジーを出すといったことはできるとわかっています。オフェンスでアグレッシブにやることは、昨シーズンも終わり頃は少しできていましたが、課題だったので、今季はもっと得点にも絡んでいきたいと思います」
日本代表や大学時代には、チームのオフェンスの中心となる立場も経験している。ラプターズでの役割は違うが、それでも、その時の経験は生かすことができる。
「昨シーズンは、自分の役割を守りすぎてしまったところがありました」と渡邊。
昨季、ラプターズに入って1年目だった渡邊は、自分が攻められるようなチャンスでもシュートを打つことを躊躇して、パスを回してしまうことが多々あった。
それがどれだけ役割に忠実なプレーだったとしても、消極的なプレーをしていると相手は自分を守らなくなり、チームメイトのところにディフェンスが集中してしまう。たまには、役割からはみ出るようなプレーも必要だった。
【努力がやっと実を結んだ】
そんな渡邊の背中を押すように「そこはシュートだ」「思い切り攻めろ」と声をかけてくれるのが、ナースHCであり、チーム・リーダーのSGフレッド・ヴァンブリートだった。
ナースHCやヴァンブリートは渡邊にだけでなく、たとえばドラフト全体4位指名でチームに入ったばかりの20歳のルーキーSFスコッティ・バーンズに対しても同じだ。
ベテランに遠慮することなく思いきり力を発揮できるような雰囲気を作り出し、励ましの声をかけ、時にもっと上を目指すようにチャレンジを促している。バーンズのような20歳のルーキーでも、渡邊のようなドラフト外の控え選手でも、ベテランやオールスター選手たちに遠慮せずにそれぞれの持ち味を発揮できるような環境が、ラプターズにはあるのだ。
そのことについて聞くと、渡邊はこう語った。
「それは本当に、フレッド(ヴァンブリート)のリーダーシップがすごく大きい。彼がそうやって周りに言うことによって、自分たちも思い切ってプレーすることができますし、お互いがお互いを信頼しているからこそ、そういう声のかけ合いっていうのができると思う。
スコッティ(バーンズ)は本当にすばらしいプレーヤーだと思いますし、彼がアグレッシブに行けば行くほど、自分たちはいいプレーができていると思います。僕もベンチから出てチームにエネルギーを与えるだけじゃなくて、得点の面でも今シーズンはしっかり貢献していかないといけないなと思っているんで。そういう意味ではリーダーのフレッドであったり、そういう選手が声をかけてくれるっていうのは、本当にすごくありがたいですね」
そんな恵まれた環境のなかで、渡邊はNBA選手としての自信を強めている。そして、自信がさらにいいプレーをする支えにもなっている。
「自信は大きくなっています。見ていてもわかるはずです。オープンで打てる時は、いつも躊躇せずにシュートを打っています。まだ確率は上げなくてはいけないですけれど、この先決まってくると思っていますし、だからこそシュートを打ち続け、自信を持ってプレーし続けなくてはいけないと思っています」
その自信はどこから来ているのだろうか。そう聞かれると、渡邊はきっぱりと言った。
「何年もわたって努力してきたことが、やっと結果につながっているのだと思います。今年の夏やプレシーズンの練習だけの話ではなく、何年もの間、練習してきました。それがやっと実を結んだのだと思います。これからもハードワークを続け、自信を持ってプレーし続けなくてはいけないと思っています」