欧州サッカー最新戦術事情 第4回:アヤックス日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見て…

欧州サッカー最新戦術事情 
第4回:アヤックス

日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。第4回は、チャンピオンズリーグのグループステージ全勝突破で注目のアヤックス。古くに確立されたスタイルが現在にも継承されていて、面白い。

◆ ◆ ◆




アヤックスの中盤で活躍する19歳のライアン・フラーフェンベルフ

【グループステージ6戦全勝】

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージで全勝したチームが3つある。リバプール(イングランド)、バイエルン(ドイツ)、アヤックス(オランダ)だ。

 リバプールとバイエルンについてはさして驚きではないが、アヤックスの強さは予想を上回るものだった。ドルトムント(ドイツ)、スポルティング(ポルトガル)、ベシクタシュ(トルコ)と同居のグループCの本命はドルトムントだったが、アヤックスはホームで4-0、アウェーで3-1とノックアウトしている。

 得点20はバイエルンの22に次ぎ、6試合で10ゴールをゲットしたセバスチャン・ハラーはロベルト・レバンドフスキを抑えてグループステージの得点王だ。

 今季のチームはCLベスト4に入った2018-19シーズン以来の仕上がりをみせている。3シーズン前のメンバーではダレイ・ブリント、ドゥシャン・タディッチ、ダビド・ネレス、ヌサイル・マズラウィが健在だが、かなりのメンバーが入れ替わっている。ただし、そのプレースタイルは一貫していて、これに関してはヨーロッパでも最もカラーが明確なチームと言えるだろう。

 現在のマンチェスター・シティやバルセロナのプレースタイルは、元をたどればアヤックスなのだ。

 CLの前身であるチャンピオンズカップを3回連続で制した1970年代が黄金時代だった。ピート・カイザー、ヨハン・クライフ、バリー・フルスホフ、ヨハン・ニースケンス、ルート・クロルなど、当時のオランダ代表の中核となる選手たちがいた。リヌス・ミケルス監督は「ボール狩り」と称した今で言うプレッシングを導入し、攻撃では流麗なパスワークと変幻自在なポジショニングを披露。「トータルフットボール」として注目された。

 1980年代にアヤックスの守備戦術を抽出してゾーンディフェンスと掛け合わせたのがアリゴ・サッキ監督のミラン(イタリア)であり、ほぼ同時期にパスワークの部分を整理拡大したのがクライフ監督のバルセロナ(スペイン)だった。

 ミランのプレッシングはゲーゲンプレッシングとしてユルゲン・クロップ監督のリバプールや、いわゆるラングニック派のスタイルに継承されている。アヤックス直系のバルセロナはジョゼップ・グアルディオラ監督の時代にピークを迎え、グアルディオラの移転に伴ってバイエルン、マンチェスター・シティ(イングランド)に伝播した。いずれも源流はアヤックスである。

【継承される伝統】

 今ではバルセロナのスタイルとして認識されているが、元祖のアヤックスも伝統を継承していて、後方からの着実なビルドアップ、2人のウイング、プレッシングによる即時奪回という特徴は色濃く残っている。

 センターバック(CB)の左側を担当するリサンドロ・マルティネスはアヤックスらしいDFだ。23歳のアルゼンチン人、左利き。175㎝とCBとしてはかなり小柄だが、ドルトムント戦では194㎝のアーリング・ハーランドを抑え込んでいた。機敏なラインコントロールでハーランドをスピードに乗せなかった。ただ、守備面以上に目立つのが球出しのうまさ。長短のパスをピタリと届ける精度の高さは、いかにもアヤックスのCBと言える。

 CBの左側は、パスのアングルから言って左利きであるべきというアヤックスの考え方から、左利きCBはフランク・デブール、クリスチャン・キヴ、トーマス・フェルマーレンといった名手を輩出している。マルティネスもその列に加わるだろう。

 アヤックスの特別なポジションである6番(バルセロナなら4番)に起用されているエドソン・アルバレスは伝統からは外れている。中盤の底に位置するこのポジションには、バルセロナのセルヒオ・ブスケツのような技巧とインテリジェンスに図抜けたタイプが定番なのだが、アルバレスは技巧派というよりハードワーカーなのだ。

 3年前のフレンキー・デ・ヨングとはタイプが違う。ただ、エドガー・ダービッツやトマーシュ・ガラーセクのような守備力とハードワークの名選手もいたので、アヤックスに全くいなかったわけではない。

 アルバレスはビルドアップ時にはむしろデコイ(おとり)になっていて、彼自身が局面を動かすというよりも、定石どおりのライン間に立って相手を引きつけ、前方へのパスはCBのマルティネスやインサイドハーフから下りてくるライアン・フラーフェンベルフに任せている。

 19歳のインサイドハーフ、フラーフェンベルフも異質なタイプだ。機敏な技巧派が定番のポジションにしては190㎝と例外的な長身である。ユース出身、あのクラレンス・セードルフの最年少デビュー記録を塗り替えた逸材。アヤックスのインサイドハーフにしては大きすぎる感じがするけれども要件は満たしている。狭いエリアでボールをコントロールして捌く能力は高く、フランク・ライカールトの後継者なのかもしれない。

 左利きの右ウイング、アントニーも注目の21歳。チェルシーへ移籍したハキム・ツィエクの後釜だが、クイックネスはアントニーのほうが上だろう。同じブラジル人のネレスとポジションを争うが、ネレスは左が多いので棲み分けはできている。

 さて、現在の注目選手の紹介に過去の名手たちを引き合いに出したのにはわけがある。アヤックスにはそれぞれのポジションにモデルとなる先人がいて、先輩たちの技術を伝承していく手法を採っているからだ。

【変わらない「遊び」】

 アヤックスの戦術的な骨格は決まっている。多少の紆余曲折はあったにしても、大まかに言えば1960年代あたりから変わっていない。年季の入り方はバルセロナ以上で、自らのプレースタイルへの信頼で突出した存在と言える。それぞれのポジションに求められるプレーが決まっているので、継承が可能だ。

 1998年フランスW杯のオランダ代表は、レジェンドOBをスタッフに加え、「スモール・ティップス」を伝える手法を導入していた。チーム全体の戦術はもうほぼ決まっているので、それよりも各ポジション特有の技術を伝えることに重きを置き始めたわけだ。

 近年のアヤックスでもこの方法が採り入れられている。よりディテールに踏み込んだ指導なのだが、これが有効なのはチーム戦術が変わらないからだ。新しい監督が来ても、急に何かが変わるわけではない。

 ボールを保持し、より多くの選手がボールをプレーする。それを勝利に結びつける。この根本理念が全くブレない。

 オランダ人の歴史学者ヨハン・ホイジンガによる『ホモ・ルーデンス』は世紀の名著の1つ。ホモ・ルーデンスとは「遊ぶ人」で人間と遊びについて考察している。同じヨハンの名を持つクラブのレジェンドが推し進めたアヤックス・スタイルも根底にあるのは「遊び」だ。

 ボスマン判決以降、選手流出が止められなくなったアヤックスはヨーロッパのトップクラブから転落し、毎年CL上位を狙えるような立場にはなくなったが、彼らが手にした「遊び」を放棄することはない。よりよく遊ぶアヤックスは、ビジネス化が過度に進んでしまった現代サッカーの清涼剤と言えるかもしれない。