連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:C.ロナウドの恩師が重視した2人きりの対話 スペインサッカーに精通し、数々のト…
連載「世界で“差を生む”サッカー育成論」:C.ロナウドの恩師が重視した2人きりの対話
スペインサッカーに精通し、数々のトップアスリートの生き様を描いてきたスポーツライターの小宮良之氏が、「育成論」をテーマにしたコラムを「THE ANSWER」に寄稿。世界で“差を生む”サッカー選手は、どんな指導環境や文化的背景から生まれてくるのか。今回はクリスティアーノ・ロナウドやカルレス・プジョルの少年時代のエピソードを引き合いに、ポジションごとに異なる選手の特性に注目している。
◇ ◇ ◇
育成において、性格に合わせた指導は必須と言える。ポルトガル・マデイラ島でクリスティアーノ・ロナウドの少年時代の恩師に訊いた話は、それを裏付けていた。
「クリスティアーノ(ロナウド)は自尊心が強かったので、みんなの前では叱らないようにしていました。彼のような選手に公然とミスを指摘した場合、羞恥心から反発が強くなってしまう。でも2人きりなら、むしろしっかりと聞いてくれるんですよ」
指導者は、まず選手の性格を見抜くことが欠かせない。戦術の難しいメソッドを習うことなどよりも、ずっと優先すべきである。選手の特性を見つめ、理解し、対話できないようなら、どんな指導も「ゼロの掛け算」だ。
ロナウドの心理状態はいつも不安定だったという。それは恵まれていたとは言えない家庭環境に起因していた。敗北を許せず、とめどなく涙を流したのもその一つだった。
しかし、ストライカーという“人種”はどこかに狂気を抱いている。その精神的不安定さが、相手を凌駕する後押しにもなる。競り合いを制し、冷徹にゴールを撃ち抜けるのだ。
「生来的な殺し屋」
彼らはそう喩えられることがあるが、戦いにおいて躊躇なく引き金を引けるメンタリティだ。
つまり性格によって、ポジションも違ってくる。各自、人間性に合うポジションがある。絶対に符合する必要はないが、同じか近いと、必然的に上達も早まるだろう。
筆者が経験したGKならではの行動
世界最高のディフェンダーになったカルレス・プジョルは、14歳まで運動靴でボールを蹴り、スパイクを履いたことがなかった。小さな村の出身で、試合をする人数合わせのためなら、GKだってやったという。バルサのトライアルのチャンスは17歳の時で、すでに遅すぎる年齢だったし、周囲は“記念受験”と捉えていた。
しかしプジョルは「自分が一番下手」と自覚しながらも、トライアルで全力を出し続けた。闘志が周りに伝播するほどだった。
「プジョル少年は確かに下手だった。でも常に100%の力を出し切っていた。それは簡単なことではない。責任感、犠牲、覚悟を感じさせ、試合で力以上のものを出し、別人のような選手に成長できるかも、と投資をしたんだ」
当時のスカウトが語った「プジョルが合格した理由」だった。
攻撃的選手としては才能が足りなかった。しかし実直な闘争心が考慮され、ディフェンダーに転向。以来、強大な敵と戦うたび、成長していったのである。
鶏が先か、卵が先か――。ポジション的性格というのは必ずある。
数年前、筆者は柏レイソルの選手と、柏市内の飲食店でランチをしていた。取材者として選手と対話を重ねるのは仕事の一部だけに、当然ごちそうすることにしているのだが、その日はレジで店員に「お代はいただいています」と言われ、唖然となった。当時、柏に在籍していたGK菅野孝憲も来店していた。個人的に面識はなかったが、自分が話していた選手の年長者で、2人分の食事代も払っていったのだ。
これは、なかなかできる芸当ではない。
GKならでは、の行動だ。
1人だけ手を使える孤高のポジションなわけだが、1人でゴールは守れない。常に周りを意識し、謙虚に行動し、感謝しながら協力を求める。菅野は37歳になっても、J1でレギュラーとして活躍しているが、そういう気遣いを欠かさない人間だけが、長くゴールマウスを守れるのだろう。
同じく40歳で横浜FCをJ1に昇格させ、41歳でJ2大宮アルディージャを救うために戦う南雄太も、似たような行動規範を示している。筆者とJ1の若いGKと3人でランチをした後、南は用事があって1人で先に帰った。代金を払おうとして、「お代はいただいています」というレジでの答えだった。「自分が払う」とか、そんな前置きをせず、颯爽と去るのだ。
これはGKと一部ディフェンダーだけにある行動パターンだろう。
日本人ストライカーの主流は今も高校サッカー出身者
GKと背中合わせのようなストライカーたちは、このような行動をしない。彼らは自分たちが世界の中心の性格で、「結果を出すことで生き残っている」という腹のくくり方がある。逆に言えば、他のことをしても補えない人生観というのか。利己的とも言えるが、感謝の術が異なる、もっと言えば「思考回路」の違いだ。
昨今、育成はクラブユースが圧倒的に中心になりつつある。東京五輪代表を見ても、それは明瞭になってきた。隆盛を誇った高校サッカーは、分が悪くなりつつある。
しかし、ストライカーだけは高校サッカーを経た選手が今も主流である。東京五輪代表では、上田綺世、前田大然、林大地、あるいは旗手怜央。代表チームでも大迫勇也、古橋亨梧、オナイウ阿道など、高校サッカーで活躍した選手ばかりだ。
高校では、彼らは少なからず“お山の大将”として生きていた。チームメイトにゴールを託される。その期待を背負い、ゴールを撃ち抜けるか。その一か八かを達成し、満たされる「思考回路」で、彼らはストライカーとして成熟するのかもしれない。
育成の一歩目は、選手自身が自分の性格と向き合うことにある。(小宮 良之 / Yoshiyuki Komiya)
小宮 良之
1972年生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。トリノ五輪、ドイツW杯を現地取材後、2006年から日本に拠点を移す。アスリートと心を通わすインタビューに定評があり、『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など多くの著書がある。2018年に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家としてもデビュー。少年少女の熱い生き方を描き、重松清氏の賞賛を受けた。2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を上梓。